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プロローグ
先日の戦い。
――聖戦。
その名は、最初から掲げられていた。
だが結局、刃が交わることはなかった。
血も流れなかった。
それでも、あれを戦いではなかったと言う者はいないだろう。
なぜなら――世界が、動いたからだ。
長く反目してきた三つの勢力。
ギルド。
教会。
そして大陸警察。
理念も、権威も、誇りも違う。
互いに譲らず、幾度となく衝突してきた者たち。
その三者が、同じ場所に立っていた。
互いを睨むためではない。
ただ一つの存在を見据えるために。
神殿。
世界の敵。
その名が掲げられた瞬間、
まるで静かに凍っていた湖面に石が落ちたように、世界は波紋を広げていった。
大陸中の国家が連携を始める。
国境の壁を越えて、兵と情報が動き出す。
遠く西の大陸にある王国までもが、
迷うことなく力を貸そうとしていた。
誰かが命じたわけではない。
誰かが描いた計画でもない。
それでも、世界は同じ方向を向いていた。
長く争い続けてきた者たちが、
互いに疑い続けてきた国々が、
その瞬間だけは、確かに――
同じ未来を見ていた。
もし。
もしこの光景が、
長い夜の果てに差し込んだ、最初の光なのだとしたら。
それはきっと。
まだかすかで、頼りなくて、
それでも確かに夜を押し返そうとする光。
――兆し。
世界は今、
その兆しの中に立っているのかもしれない。




