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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第5章ー炎神の子ー
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総戦力10万ー

会議室に戻ると、アンジュにリックにバロム、そしてマークスがいて、室内は今までにないほど騒然としていた。


入るや否や、マリーナが鋭い声で一喝する。

「何事だ!落ち着け!」


マークスはすぐに敬礼する。

「警部!」


マリーナの視線が鋭くマークスに向く。

「マークス警部補、状況を説明せよ!」


「ハ!」


騒然としていた理由は一目瞭然だった。神殿国家軍に関連国家群や組織が合流し、戦力は想定をはるかに上回っていたのだ。


マリーナが額に手を当て、唇を引き結ぶ。

「それで、予想できる総戦力は?」


マークスは緊張の面持ちで答える。

「それが……約十万ほどかと」


マリーナの目が一瞬大きく見開かれる。

「十……それは、とてつもないな」


室内には、重苦しい静寂と戦慄が漂った。


マリーナが額に手を当て、静かに息をつく。

「十万……これは、容易な戦ではない」


アンジュが鞭をぎゅっと握りしめる。

「ふん……やはり、神殿の本気は想像以上ですわ」


リックも小さくうなずき、床を見つめる。

「各国の連合軍とこちらの増援を総動員しても…せいぜい8000…数で圧倒されています」


マークスは肩を落とし、声を絞り出す。

「予想外の増援……ここまで揃うとは、想定を大きく超えています」


しばらく沈黙が続く。誰も作戦の口を開けず、重苦しい空気だけが会議室を満たす。


その時、バロムが小さくつぶやいた。

「……勝てるのか、これ」


その一言に、部屋中の視線が一瞬止まる。

誰もが絶望の色を隠せず、胸の奥で戦慄が走った。


マリーナはゆっくり顔を上げ、鋭い目で部下たちを見渡す。

「それでも……戦うしかない。和平の余地は、もはやない」


アンジュの唇がきゅっと結ばれる。

「聖戦……ですものね」


マークスが静かに頷く。

「この戦力差……正面からぶつかれば、犠牲はとんでもないことになる」


会議室には冗談も笑いもなく、ただ重苦しい空気だけが漂った。

全員の胸に、絶望的な戦いの影が、じわじわと忍び寄っていた。


ギルド連合本部


会議室には重苦しい空気が漂う。指揮者たちは資料の数字を見つめ、顔を曇らせる。

「……これ、本当に八千で戦えるのか?」

一人が小さくつぶやく。

「連合ギルドでも……今回ばかりは分が悪すぎる」

誰も冗談を言えず、沈黙だけが室内を満たす。絶望感が静かに、しかし確実に広がっていった。


教会総本部


巨大な聖堂の光に照らされ、司祭たちは手元の報告書を握りしめ、息をつく。

「この戦力差……八千で十万に挑むとは」

ひとりの神官が声を震わせた。

「祈ることしか……できないのか」

他の者も沈黙を守る。どれだけ聖戦を謳っても、この比率には言葉が出なかった。


大陸警察中央本部


作戦マップの前に並ぶ指揮官たちは、深く頭を垂れる。

「八千……相手は十万だ。どう戦えというのか」

誰もが顔を見合わせるが、答えは出ない。数の壁の前で、情報も戦術も無力に思えた。

「……絶望だ」

低くつぶやく声に、広間中が静まり返った。


要塞都市・世界連盟各国家


防衛本部では各国の将兵たちが報告を受け、指揮官たちの顔が青ざめる。

「八千に対して十万……正面からぶつかれば、犠牲は計り知れない」

一国の代表が拳を握りしめ、唇を噛む。

「この比率でどう守れというのか」

戦略を練ろうにも、目の前の数字がそれを阻む。恐怖と絶望だけが胸に残った。


マリーナは険しい表情で遠くを見つめる。


「……これは、聖戦の大義名分の下、大陸を侵略するつもりなのだろう」


アンジュは腕を組み、唇を引き結ぶ。


「ありえますわね……むしろ、そうとしか考えられません」


二人の視線は、目の前の数字だけでなく、迫り来る神殿国家軍の意図にも向けられていた。

静かな緊張が、食堂の空気を引き締める。


「このままでは……民も、街も、あっという間に飲み込まれる」

マリーナの声に、アンジュは小さく頷く。


「戦うしかありませんわ……ですが、普通の戦いでは、勝てません」


二人は言葉少なに、迫る危機の大きさを改めて噛みしめる。

街を守るため、そしてこの世界のため、今後の戦略を練らねばならない。


マークスは深く息をつき、数字の重みを噛み締めるように報告を続けた。


「世界連合、教会、警察、ギルド、それぞれの戦略予想の結果は、ほぼ同じでした」


マリーナは静かに頷き、視線を前に向ける。「聞こう」


マークスは言葉を選びながら続ける。「両軍が正面からぶつかれば……持って半日。軍略や戦術を駆使したとしても、おそらく三日持ち堪えれば健闘した方でしょう」


その部屋の空気が、一層重くなる。


「勝率……0.0001%」


マリーナはゆっくりと唇を引き結ぶ。「なるほど……どうせなら、ゼロであれば諦めもつくものをな」


その言葉に、会議室の誰もが顔を伏せる。

絶望の数字が、戦意と希望を一瞬にして打ち砕いたのだった。


ベルは臨時作戦会議室の喧騒を背に、そっと立ち上がった。周囲の声に紛れながら、扉を開けて廊下に一歩踏み出す。足音を立てぬよう静かに歩き、誰の目にも触れずに裏庭へと向かった。


そこには古びた井戸があり、井戸の縁に手をかけて滑車をゆっくりと回す。水を汲み上げ、桶の中に映った自分の顔を覗き込む。


「……ねぇ、聞こえる?ねぇ、出てきて……」


水面は揺れるだけで、返事はない。ベルは唇をかすかに震わせ、心の奥の切なさを押さえつける。


「……あなたと話がしたいの、あなたに……会いたいの……」


水面に揺れる自分の姿と、静かな裏庭だけが、その声を受け止めた。


ベルは桶の水面を見つめたまま、肩をすこし落とす。


「やっぱり……ダメかぁ……」


夜に身体が入れ替わらなくなってから、ずっと繰り返してきた。時間を確認し、心の中で何度も呼びかけたけれど、応える気配はなかった。


――彼が封じられている状況なら、それも当然のこと。わかってはいた。


それでも、わずかな希望にすがりたい自分の心を、どうしても諦められない。ベルの目には、切なさと焦燥が交錯していた。


ベルの肩が、少しずつ強く震え始める。


「でも……諦められない。諦めるわけにはいかない!」


久しぶりに、気持ちが少しずつ、いつもの自分――あの理想を信じる自分――に戻っていくのを感じた。絶望的な敵戦力、十万。数字だけ見れば押しつぶされそうになるけれど、逆にその恐怖が、心に火を灯す。


世界侵略が目的なら、もはや自分だけの問題ではない。巻き込んだとか、巻き込まれたとか、そんなことを言っている場合ではない。


今ここで力を合わせて戦おうとしている皆が、これまで関わってきたすべての人たちが、そして――ジット村のみんなが――待っている。ベルは握りこぶしを強く握り、決意を胸に、再び前を向いた。


「…何か…何かあるはず…考えろ…考えるんだ…こんな時、あいつなら…」


ベルは小さく息を吐きながら、両の手のひらをゆっくりと広げた。そこには、いつも身につけている十の指輪が並んでいる。光を受けてきらりと反射する指輪を見つめ、ふと心が動いた。


指輪をひとつひとつ見つめるたび、記憶の奥底で、あの言葉が蘇る――「こいつらがいれば俺は無敵だ」。ベルの胸に、かすかな希望が芽生えた。


ベルは両手のひらにある十の指輪を見つめた。どうして今まで気づかなかったのだろう、どうして忘れていたのだろう――あの彼が、最も信頼し、最も頼りにしていた存在のことを。


頭の中で、あの言葉が響く――

「こいつらがいれば俺は無敵だ」


ベルは息を詰め、静かに呟く。


「姫神達が、いる…」


ベルは小さく息をつき、指輪をぎゅっと握る。


――でも、もしかしたら、そう思う。もしかしたら、ずっとわかっていたのかもしれない。気づいていたのかもしれない。でも、考えないようにしていたのかもしれない。拒否されるのが怖くて、反応がなくて傷つくのが怖くて、自分で目を逸らしていたのかもしれない。


だけど今――


「もう、そんなこと言ってらんないよ」


自分を信じろ。


そして、姫神達を信じろ。


あの彼が言っていた通りに。


ベルは震える手で指輪を握りしめ、声にならない声で呼びかける。


「ミカゲ…お願い。応えて。みんなを助けたいの」


心の底から、強い想いを込めて願う。しかし、指輪は静かで、反応はなかった。胸の奥がズキリと痛む。いつもならここで諦めていた――でも、今はそんなことを考えていられない。諦めてはならないのだ。


「ミカゲ!お願い!一度は助けてくれたじゃない!お願い!話を聞いてくれるだけでいいの!」


声が届くかどうかもわからない中、指輪はなおも沈黙を守る。


「…お願い…あいつと話がしたいの。協力して…」


その瞬間、ひとつの指輪が小さく震えた。ベルの胸に、希望の光が差し込む。


「…ミカゲ…ありがとう」


その瞬間、指輪のひとつが微かに震え、影の中から冷たくも柔らかな気配が広がる。常時ベルの影に潜むミカゲが、静かにその願いを受け止めた。

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