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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第5章ー炎神の子ー
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神殿の狙いー

ベルは思わず椅子に体を沈め、手に力が入らないのを感じた。

「な、なに……そんなこと……どうして……」


ミリィは顔を強張らせ、震える声で言った。

「ベルさん……?」


ルーシェは腕を組み、にやにやとした笑みを崩さない。

「うん、全部見ていたんだよー。君が――あの銀髪の少年――になる瞬間もね」


ベルの胸の奥がぎゅっと締めつけられる。恐怖と困惑が同時に押し寄せ、頭が真っ白になる。

「や、やだ…」


ミリィは必死にベルの手を握ろうとするが、手が震えてうまく掴めない。

「……怖いです……!」


ルーシェは腕輪を軽く弾き、笑いながら言った。

「ふふ、焦らなくていいよ」


ベルは唇を噛み、視線を逸らすことしかできなかった。

ミリィも必死に心を落ち着けようとするが、恐怖のあまり言葉も出ない。


ルーシェはそんな二人の様子を楽しむかのように、ゆっくりと椅子に背を預け、にやりと笑った――。


ルーシェはゆったりと腕を組み、目の前の二人をじっと見つめた。

「でもね、安心していいよ。僕は君たちを傷つけるつもりはないから」


ベルは必死に声を絞り出す。

「な、なぜ……私たちのことを見ていたんですか……?」


ルーシェは軽く肩をすくめ、笑みを崩さない。

「だって、面白いじゃない。お陰で君があの森で――あの湖のほとりで――変わる瞬間を見られたんだから」


ベルの顔が真っ青になり、思わずテーブルに手をつく。

「変わる……変身のこと……」


ミリィも小さく体を震わせる。

「……そんなこと……秘密が…」


ルーシェは楽しそうに頷き、腕輪をもう一度軽く弾く。

「そうさ。だから、この腕輪がどれだけありがたいものかも、ちゃんと知っている」


ベルは拳を握りしめ、必死に声を抑えた。

「そ、それでも……外してください!お願いです、今すぐ!」


ルーシェはにやりと笑い、少し身を乗り出した。

「うーん……それはね、僕にしか外せないんだよ。付けた者の権限だからねー」


ルーシェは椅子にもたれかかり、二人の恐怖と困惑を存分に楽しむかのように、ゆっくりと口を開いた。

「でもまあ……焦らなくていいさ。君たちの秘密はちゃんと僕の中にある――ただそれだけのことさ」


ベルとミリィは言葉を失い、ルーシェの笑みにただ圧倒される――。


ベルは眉をひそめ、ルーシェを睨む。

「私の身体のこと、当然神殿に報告したんでしょ?」


ルーシェは両手のひらを大げさに広げ、にやりと笑った。

「それはないよ」


ミリィは首をかしげながら、震える声で尋ねた。

「どうして……ですか……?」


ルーシェは身を乗り出して、手をゆっくりと左右に振る。

「だって、めんどくさいじゃないかー」


ベルは声をあげる。

「え? めんど……?」


ルーシェはにやりと笑みを深める。

「めんどくさーいんだよ。『魔王殺し』を抹殺するなんてさ、面倒でしょ?」

「腕輪をつけておけば、もう彼は現れないんだよ? ほら、これで解決だよ」


ベルは手を握りしめ、怒りと恐怖が入り混じった声で言う。

「……そんな、そんな勝手な……!」


ミリィも小さく震えながら、ベルの手を握る。

「ベルさん…どうするんですか……?」


ルーシェは椅子に深くもたれかかり、口元に笑みを残して言った。

「まあまあ、こうして僕のそばにいるだけで、世界は少し安心なんだからねー」


ベルとミリィは視線を交わし、体中の力が抜けるような思いを抱えつつも、ルーシェの言葉に翻弄され続ける――。


ルーシェはにやりと笑い、腕輪をチラリと見やった。

「そうだなー、僕の言うことを聞いてくれるなら、外してあげてもいいかもねー」


ベルは思わず息を呑む。

「……何をすれば……いいの……?」


ルーシェはゆっくりと頷き、長い指先をそっとベルの黒髪に差し入れる。

「そうだねー」


ベルは慌てて手を払おうとする。

「ちょっ……!」


ルーシェは椅子にもたれかかり、楽しげに声を伸ばす。

「さぁてー、なーにをしてもらおうかなー」


ベルは髪を押さえ、背中がぞくぞくするのを感じる。

ミリィも手を握りしめ、小さく震える声で言った。

「ベルさん………」


ルーシェは二人の反応を楽しむかのように、じっと見つめたまま笑みを崩さない――。


ルーシェはゆったりと椅子にもたれ、長い指先でベルの髪に触れながら笑った。

「安心してよー、僕が君を気に入ってるのは本当なんだから。ひと目見てビビッと来たんだよねー」


「君ーモテるでしょー?」


ベルは顔をこわばらせ、慌てて後ずさる。

「モ、モテるかどうかはわかりませんけど……ナンパはよくされます」


ルーシェはにやりと笑う。

「だろーねー、わかるわかる」


「僕は性格なんて興味なくて、顔と――」


その視線がふと下に落ち、ベルの顔が赤くなる。

「……ちょっと!」


ルーシェは手を広げて笑みを深める。

「いいじゃない。恥ずかしがることないよー。そこも君の魅力だと思うなー」


ベルは思わず唇を噛み、苛立ちを隠せずに言った。

「ほんっと……余計なお世話」


ルーシェはゆっくりと立ち上がり、長い腕をベルの肩にかける。抱き寄せるように距離を詰めた。

「まぁ、とりあえずさー」


ベルは必死に腕を振り解こうとする。

「ちょっと!いい加減にー」


だが、その言葉の途中で、ルーシェが力強くベルの唇を掴んだ。

「いい加減にするのは君だよー。僕が優しくしてるうちに、素直になった方がいいよ」


ベルの目が見開かれ、胸が締めつけられるように息が詰まる。


ルーシェはさらに低く囁くように言った。

「素直というかー従順に?」


ミリィは目を見開き、ベルの手を握りながら小さな声で呟いた。

「や.,やめて…」


ベルは必死に抵抗を続けるが、ルーシェの力強さと挑発的な笑みに、身体が思うように動かない――。


ルーシェはベルの肩に腕を置いたまま、にやりと笑った。

「いいかいー? 僕はとても良い行いをしてるんだよ」


ベルは唇を強く掴まれて、声を出すこともできずに視線を下に落とす。


「その腕輪があれば、もう君は変身しない。そうなれば、神殿はもう君たちに興味をなくすだろうねー」


ベルの心臓が跳ねる。もう.,.変身しない...


ルーシェはさらにゆっくりと語りかける。

「だって神殿が探しているのは、夜のもう一人の君であって、昼間の君じゃない」


ベルはそれを聞いて、指先がわずかに震えた。言葉が出ない。


「世界も、君も、『魔王殺し』なんて異端のことは忘れて、『普通』になれるんだよー」


その言葉は、恐怖とともに、かすかに心を揺さぶる。

ベルは必死に思考を整理しようとする――だが、ルーシェの笑みと腕輪の存在が、全ての力を奪っているように感じられた。


ミリィもそっとベルの手を握り、無言で震えながらその場の緊張を支えようとする。


ルーシェは二人をじっと見つめ、楽しむかのように微笑みを浮かべたまま、次に何を言うかをためらう素振りも見せない――。


「君だって、本当は普通の女の子になりたかったんだろー? よかったじゃないか。僕のおかげで夢が叶っているんだから」


ベルは視線をそらし、心の中で小さく呟く。

(たしかに……それはそう、だけど……)


ルーシェはさらに口元を緩め、声を低くして続ける。

「だから君は僕に感謝して、抱きしめて、キスくらいしてくれてもいいと思うんだよー」


ベルは思わず体を硬直させ、心の中で反発する。

(誰が……!)


ルーシェは楽しげに肩をすくめ、視線を鋭くベルに向ける。

「それなのに君ときたら、なんだか知らないけど、自分のわがままのために腕輪を外せだって? 君の気分のために世界を危険にさらすなんて――僕は許せないなぁ。それは世界にとってあるべき姿ではないと思うんだー」


ベルの心臓が激しく打ち、呼吸が乱れる。

ミリィも必死にベルの肩を握り、微かに震えながら目を伏せる。


ルーシェはその反応を見て満足そうに笑みを深め、ゆっくりと両腕を広げる――

「だから、僕の言うことを聞いて、素直になった方がいいよ」


ベルは息を呑み、必死に抵抗の言葉を探す――だが、唇を掴んだままのルーシェの力は強く、口が開けない。


ルーシェはにやりと笑い、ゆったりと椅子から立ち上がった。

「そーだ! ここは都合の良いことに宿屋なんだからー、このまま君の部屋に行こうよー」


「あとはそのままー、君だってわかるだろ?」


その言葉に、ベルの全身に悪寒が走る。背筋をぞくぞくと震わせながら、思わず後ずさった。


ミリィは咄嗟に飛び出し、ベルの腰に抱きついてルーシェを引き剥がそうとする。

「や、やめてください! ベルさんから離れてください!」


ルーシェは両手を広げ、ふわりと笑みを浮かべる。

「おやおやー、君も一緒にいくかいー? 僕は大歓迎だよー。みんなで楽しもうよ」


ベルはミリィの腕にしがみつき、声にならない声を漏らす。

(こんな……どうしたら……!)


ミリィも小さな声で必死に訴える。

「ベルさん……負けちゃだめです……!」


ルーシェは二人の反応を楽しむかのように、ゆっくりと近づき、笑みを絶やさない――。


ルーシェはようやくベルの唇から手を離した。強く掴まれていた唇が解放されると、ベルは思わず咳き込み、顔を赤くして震えた。


「誰が……あんたなんかと……!」


ルーシェは腕を組み、椅子にもたれながらにやりと笑った。

「いいよー、選択権は君にあるからねー。だけど、本当に決めるのは僕なんだから」


ベルはそっと、自分の手首にある腕輪に視線を落とす。


「そのままでいいなら……好きにすればいいよ」


ルーシェはゆっくりと首を傾げ、声を低くして付け加える。

「外したいならー、また男女で入れ替わる歪な存在に戻りたいならー」


ベルは指先で腕輪をなぞり、胸の奥がざわつくのを感じる。


ルーシェは少し楽しげに笑みを深める。

「僕の好きにさせてくれないと、ねー」


ベルは唇を噛み、思わず視線を逸らす。心の中で、どうすればこの状況を切り抜けられるのかを必死に考える――。


ベルはぎゅっと目を閉じ、頭の中で必死に考えた。


「一晩……」


ルーシェは首をかしげ、くすりと笑う。

「んー、なんだい?」


ベルは肩を震わせ、声を押し殺すように言った。

「一晩だけ……考えさせてくれない……?」


ルーシェはゆったりと椅子に肘をつき、目を細める。

「違うなー、君は今、僕にお願いしてるんでしょー?」


その言葉に、ベルは一瞬怪訝な顔をした。しかしすぐにその意図に気づき、震える声で言い直した。

「今夜……一晩だけ、考えさせてもらえませんか……?」


ルーシェはにやりと笑い、ゆっくりと間を取ってから、声を伸ばす。

「んー、かーらーの?」


ベルは悔しそうに顔を歪ませ、かろうじて声を絞り出した。

「……どうか、お願い……します……」


ルーシェは両手を広げ、満足そうに笑った。

「はーい! よくできました!」


「……ベルさん……だ、ダメ……」


ルーシェはゆっくりと、まるで揺れるように立ち上がり、店の入り口へ歩き出す。

「明日、またこの時間に来るよー」


そして、足を止め、振り返ることなく区切るように言った。

「でも、忘れないでねー。その腕輪を外さないことこそがー」


その声のトーンが一変し、まるで司教のように厳かに響く。

「それこそが、この世界にとっての正しき姿なのですから」

「ゆめゆめお忘れなきよう」


ルーシェはそのまま、街の喧騒に溶け込むように姿を消した。


ベルとミリィは、まだ震える手を握り合いながら、静かにその背中を見送った――。



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