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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第5章ー炎神の子ー
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陽光の腕輪ー

教会の奥の静かな部屋。ベルは手首の金属のバングルをじっと見つめていた。


「やっぱり……外せないみたい」ベルは小さくつぶやく。


ミリィも横に座り、バングルを手に取ろうとするが、少し触れただけで手を引く。「ベルさん……やっぱり、どうしても無理です」


修道士が静かに首を振った。「付けた本人の意思や力がなければ、外すことはできません。この腕輪は、ただの魔具ではなく、本人以外には干渉できない防護具のようなものです」


ベルは少し肩をすくめる。「……そっか。やっぱりそう簡単にはいかないのね」


二人は資料や書物を広げて、腕輪について調べる。手詰まりを感じながらも、今は解決策がないことだけが確かだった。窓の外の光が朝の教会を穏やかに照らし、ベルは少し唇を噛みながら、次の行動を考えた。


教会を後にしたベルとミリィは、街の細い石畳を歩きながら、夕食の場所を探した。日も傾き始め、街灯の明かりがほのかに道を照らす。


「今日は何にしましょうか……」ミリィが小声でつぶやく。


ベルは宿屋の軒先に立ち並ぶ暖簾を見上げ、少し笑った。「そうね、やっぱりいつもの宿屋でいいんじゃない?」


宿屋の扉を開けると、いつもの酒場の香ばしい匂いが二人を迎えた。店内は夕食時の賑わいでざわめいていたが、見慣れた空間に安心感があった。


二人は空いていた小さなテーブルに腰を下ろす。ミリィが背もたれに体を預け、ベルは手を膝の上に置いて、今日一日の疲れを少しずつ解きほぐす。


「まずは何を頼む?」ベルがメニューを覗き込む。


ミリィはにっこり笑い、「ベルさん、おなか空きましたね」と言った。二人で顔を見合わせ、今夜はゆっくりと食事を楽しむことに決めた。


テーブルに運ばれた料理を前に、ベルとミリィはわざとらしく声を上げてはしゃいだ。香ばしい匂いに鼻をひくつかせ、湯気の立つスープを覗き込み、手を伸ばす――だが、その表情の奥には不安が潜んでいた。


ベルの視線は、赤い金属製のバングルに何度も向かう。夜になれば銀髪の少年に変身できるはずなのに、今は少女のまま。変身できないことの焦り、力を奪われた仲間たちのこと、神殿騎士がどこまで追ってくるのか……胸の奥で不安が渦巻く。


ミリィも同じく、心の奥では緊張を抱えていた。ベルの横で微笑むものの、手元のスープをかき混ぜる手はわずかに震えている。


それでも二人は互いの前で空元気を装った。「わー、これ美味しそう!」ベルが声を張り上げる。ミリィも笑顔で応じ、「ベルさん、全部食べちゃいましょう!」


しばらくして、ふとベルが顔を上げる。「あれ……そういえば、アンジュさんたちは?」


ミリィの手が止まり、ぱっと顔が赤くなる。「あ……忘れてました」


二人の間に、昨夜の戦いや今の不安が、ほんの少しだけ顔を覗かせた。だが、目の前の温かい食事と互いの笑顔が、ぎこちなくも心を落ち着かせてくれるのだった。


アンジュたちのことだから、きっと大丈夫――そう思い、ベルとミリィは肩の力を少し抜いて食事を続けた。


夕暮れに照らされる酒場の窓越し、ほのかに揺れる灯りの中で、二人だけで向き合って座ることも今まではなかった。普段なら夜には銀髪の少年ベルに変わり、こうして静かに食事をする時間など存在しない。


「これが……『普通』ってことなんだな」ベルは小さく呟く。


不安も恐怖も、まだ胸の奥にくすぶっている。神殿騎士の影、外せないバングル、捕らわれた仲間たち――現実は決して安心できるものではない。だが今だけは、この時間、この空間、この温かい料理と互いの存在を大切にしたい。


ミリィも小さく頷き、黙って食事を口に運ぶ。二人にとってはほんのひとときの平穏。夜が来れば、また元の世界――変身の制約や戦いの日常――が戻るだろう。だからこそ、今この瞬間を、味わうように噛みしめるのだった。


ベルの心の片隅に、ほんの少しだけ安堵が広がる。怖くても、不安でも、こうして「普通」を生きられる時間がある――それだけで、今夜は少しだけ、世界が優しく感じられた。


ベルとミリィは顔を見合わせて小さく笑う。


「今夜も一緒にお風呂入って、同じベッドで寝ようか」ベルが提案すると、ミリィは元気よく「はい!」と答えた。


「……あいつとじゃ、そうはいかないもんね」ベルが付け加えると、ミリィは少し顔を赤らめながらも「はい……さすがにそれは、子供と言えども」と返す。


「しばらくは女の子同士、楽しくいきましょ!」ベルは笑顔で手を振る。ミリィも自然に頷き、二人の間にほんのりと温かい空気が流れた。


互いに思ったのは、いずれまた近いうち、あの銀髪の少年が戻ってくるのだということ。今は女の子として、互いの時間を大切に、静かに楽しもう――そんな小さな誓いを胸に、二人は夕暮れの宿屋で笑い合った。



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