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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第5章ー炎神の子ー
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陽光師団長ー

アンジュは街の屋根を伝い、路地の奥を覗き込んでいた。鞭を握り、鋭い視線で神殿騎士の巡回を確認する。

「ふふ、少しずつ全体像が見えてきますわ、リーダーとしての役目ですもの」


しかし、次の瞬間、足元の瓦がずれ、アンジュは軽くバランスを崩す。

「っ……!」小さく声を上げ、手すり代わりに掴んだ樋につまずくようにして屋根の端で転けそうになる。


「リーダー!」リックが素早く反応し、手を伸ばす。

「……大丈夫ですの!」アンジュは咄嗟に鞭でバランスを取り、なんとか倒れ込むのは免れたが、瓦の上で体勢が不安定のまま。


バロムは屋根の端から一言。「危」


アンジュは苦笑を浮かべ、「……まあ、こういうこともありますわね」と言いながらも、動揺は隠せない。視線を通りに戻すと、街角の先に神殿騎士がこちらをじっと見つめる影があった。


「……まずいですわね、見つかりました」アンジュの表情が一瞬引き締まる。


リックは淡々と判断を下す。「リーダー、追われる前に下に降りましょう。バロム、準備はいいか」


バロムは短く頷き、一言。「はい」


アンジュは鞭を軽く振り、転けそうになった瓦を蹴りながら屋根を素早く伝い、二人に続く。

神殿騎士たちは動揺を見せず、慎重に追跡を開始する。だがアンジュは笑みを浮かべる。「こういうときこそ、リーダーの腕の見せ所ですわ!」


屋根を伝って路地へ飛び降りると、三人は街の迷路のような小道に身を隠しながら、敵の目をかいくぐる――。


神殿騎士たちの目をかいくぐり、裏路地を駆け抜けたアンジュ、リック、バロムの三人。ようやく息を整え、立ち止まった。


「ここまでくれば大丈夫でしょう」リックが低く呟く。

「直線の続く裏路地です。前後どちらから追手が来ても気づけます。最悪、屋根に逃げても良いでしょう」


安堵が胸を満たす──はずだった。


その瞬間、リックの視線が一瞬止まる。

「あれー?昨日のお姉さん達じゃなーい?」


三人が反射的に振り返ると、路地の後方に異様な人影が立っていた。長身で、手足が極端に細く、まるで人間の体型ではないかのような、ひょろりとしたシルエット。


バロムも思わず一歩後ずさる。片言で呟く。「…誰」


人影はゆっくりと歩を進め、揺れる長い腕や長い足の動きが、不気味に路地に影を落とす。その視線は三人を捉え、何かを確かめるようにじっと見つめていた。


アンジュが鞭を握り直す。「……一体……」


リックは冷静に状況を判断する。「警戒を。まだ油断できません」


路地の空気が、一瞬にして張り詰めた。逃げ切ったと思った三人の心臓が、再び早鐘を打ち始める。


アンジュが鞭を握り直し、鋭い目で人影を見据える。

「……あなたは昨日の――」


リックがすっと間に入る。「そのいでたちはー神殿騎士?[」


長身の男は、ゆっくりと歩みを進めながら、笑みを浮かべて名乗った。

「そうー、僕はね……」


その肩には黄金の縁取りが入った赤い鎧。白い法衣が腰まで広がり、左脇には兜、手には大きな黄金色の剣を携えている。その風格に、三人は息を呑む。


「太陽師団――陽光師団長、ム・ルシェルド・アルガドべガル」


男は少し首を傾げ、にこやかに笑った。

「でも、呼ぶなら――ルーシェって呼んでくれたら嬉しいなー」


アンジュは眉をひそめ、鞭をさらに強く握る。

リックはすっと背筋を伸ばし、警戒を緩めない。バロムは小さく唸り、片言で一言。「…でか」


路地裏の空気が、一瞬にして重く張り詰める。ルーシェは焦ることなく、ゆっくりと三人に近づきながら、その巨体と長い腕を揺らした。


ルーシェの風貌、そしてすでに抜かれた太陽剣を目の前に、アンジュ、リック、バロムの三人は瞬時に臨戦体制に入った。


「陽光のルーシェ……」アンジュの声に緊張が混ざる。

「これが……あの……」リックも息を呑む。


ルーシェはにこやかに笑いながら、ゆっくりと首をかしげる。

「僕のこと、知ってくれてたみたいだねー。嬉しいよ」


アンジュは目を細め、鞭を少し前に突き出す。

「なるほど……噂通りの化け物ですわね」


「化け物とはひどいなー!神殿騎士団トップの僕を捕まえてさー」ルーシェが軽く手を広げ、揶揄する。

「酷い話ーさっ!」


その瞬間――三人の気配を一切気にせず、ルーシェが間合いを詰めてきた。


まだそれなりの距離はあるはずだった。互いに間合いを測る牽制段階のはず。なのに、気がつけばアンジュの目の前で、ルーシェの顔があまりにも近い。長身の巨体を前屈みにし、アンジュの前に立つルーシェ。


「リーダー!」リックの声が路地に響く。

「―――っ!」アンジュが咄嗟に鞭を構え、歯を食いしばる。


その瞬間、三人の背筋に異様な戦慄が走った。距離の近さ、迫力、そして予測できない圧。ルーシェの存在そのものが、空気を切り裂く重さを持っていた。


バロムも一歩下がり、片言で短く息を漏らす。「…やべ」


「なんですの――気持ち悪い」アンジュが鞭を握り直しながら、思わず顔をしかめる。


「かわいい顔してひどいなー、でも……それはそれでいいかもねー」ルーシェがにやりと笑うと、横凪の構えで太陽剣を振りかぶった。


大剣は、まるでナイフのように軽々と、鋭くアンジュめがけて振られる。アンジュは咄嗟に後退しようとするが、間に合わない。鞭では受け止められず、左手を後ろの腰に回し、下げた短剣をつかもうとする――それも間に合わなかった。


「リーダー!」リックの声が響く。

勢いよくルーシェとアンジュの間に割り込み、剣を受け止めようとするリック。だが、ルーシェの力は圧倒的で、リックの体が弾き飛ばされる。


その瞬間、アンジュは冷静に距離を取り直す。鞭を離し、左手に握った短剣を逆手に構え、次の攻撃に備える。


路地裏に張り詰めた空気、剣と鞭、そして三人の緊張が絡み合う。戦いはすでに、始まっていた。


吹き飛ばされたリックは、空中でくるりと回転し、地面に着地する。剣を突きの形に構えるその姿を、アンジュは横目で確認した。


「リーダー」アンジュの呼びかけに、リックは微かにうなずく。

「大丈夫、いけます」


「バロム」アンジュの声が響く。バロムもすっと動き、三人の布陣が整った。


ルーシェの前にアンジュ、後ろにリック、そしてルーシェの背後にバロム。自然と挟み撃ちの形ができあがる。


「一騎打ち、といきたいところですが……申し訳ございません。今日は三人でお相手させていただきますわ」アンジュの声は冷静で、けれどその目には戦意が宿っていた。


ルーシェは軽く肩をすくめ、ニタリと笑う。

「あらー、僕って本当にいつもいつも、人気者で困っちゃうよー」


路地裏に張り詰めた空気。太陽剣と鞭、短剣、そして三人の緊張が絡み合い、戦いの幕は上がった。



ルーシェの戦い方は異様だった。長身の身体、伸びた手足から、大剣がまるで軽やかに飛んでくる。速さはそれほどでもない。しかし、気づけば剣は目の前にあり、身体がぶつかる――間合いだのタイミングだの、そんな理屈ではない。見えているのに、知らぬ間に攻撃を受けてしまうのだ。


「なんですの、これは」アンジュが短剣を握りしめ、咄嗟に防御しようと息を飲む。


「魔術とかの類ではありません。純粋に――技です」リックが冷静に分析する。


バロムはただ黙って、目の前の戦況を見つめている。


ルーシェは口元に笑みを浮かべ、軽やかに語る。

「僕たち、神殿騎士はね、魔法ももちろん使えるんだけどさ――そこはやっぱり騎士として、武技に精通してこそだと思うんだよねー。だから僕の太陽師団は――強いよ」


またも剣が目の前に迫る。アンジュは短剣で受け止めるが、切れずに吹き飛ばされる。勢いが強いわけでも、力任せでもない。圧力も感じない。ただ、――力負けしてしまうのだ。


路地裏に、静かな緊張と、不可思議な恐怖が立ち込める。


ルーシェの大剣が再び横に振られる。速さはないはずなのに、まるで空気を切るように間合いを詰めてくる。アンジュは短剣を握りしめ、咄嗟に防御しようと身をひねる。リックが間に入り、突きの構えで受け止めようとするも、ルーシェの剣が予想外の角度で突き出され、わずかに弾かれる。


「リーダー!」リックの声が響く。


アンジュは短剣を逆手に構え直し、バロムもすっと前に踏み出す。三人の布陣は崩さず、互いの動きが自然と連携する。


ルーシェは軽く笑ったまま、大剣を振るう。手足の長さを活かし、剣はナイフのように滑らかに、しかし確実に三人の周囲を切り裂く。アンジュは一度後退して距離を取り、リックは剣を構え、バロムはその背後から素早く飛び込む。


「いけます、リーダー!」リックの声にアンジュは頷く。


アンジュの短剣が、ルーシェの剣の斜めの軌道をかすめ、バロムの拳が背後から迫る。ルーシェは驚きの表情を一瞬見せるも、すぐに笑みを浮かべ、反撃の構えを取った。


「人気者は辛いなー、でも楽しいよ!」


剣が交わり、短剣と拳が絡む。路地裏に響く金属音、呼吸、そして集中の沈黙。三人は確実にルーシェを挟み込む形を作り、しかしルーシェはその全てをものともせず、異様な安定感で立ち続ける。


――この戦いは、ただの力比べではない。駆け引きでも、タイミングでもない。ルーシェの武技は、身体の感覚でしか理解できない――見えているのに、逃げても受けてしまう、奇妙な圧力を放っていた。


三人は呼吸を整えながら、わずかな隙を伺う。間合い、タイミング、角度――ほんの一瞬でも狂えば、攻撃は致命傷になる。


「行きますわよ!」アンジュの短い声が、合図となる。


リックが剣を突き、バロムが背後から跳び込み、アンジュも短剣で斬りかかる。三人の一斉攻撃――その刹那、ルーシェの大剣が宙を裂き、再び路地裏に緊張の糸を張り巡らせた。


ルーシェの大剣が再び横に振られる。速さはないはずなのに、まるで空気を切るように間合いを詰めてくる。アンジュは短剣を握りしめ、咄嗟に防御しようと身をひねる。リックが間に入り、突きの構えで受け止めようとするも、ルーシェの剣が予想外の角度で突き出され、わずかに弾かれる。


「リーダー!」リックの声が響く。


アンジュは短剣を逆手に構え直し、バロムもすっと前に踏み出す。三人の布陣は崩さず、互いの動きが自然と連携する。


ルーシェは軽く笑ったまま、大剣を振るう。手足の長さを活かし、剣はナイフのように滑らかに、しかし確実に三人の周囲を切り裂く。アンジュは一度後退して距離を取り、リックは剣を構え、バロムはその背後から素早く飛び込む。


「いけます、リーダー!」リックの声にアンジュは頷く。


アンジュの短剣が、ルーシェの剣の斜めの軌道をかすめ、バロムの拳が背後から迫る。ルーシェは驚きの表情を一瞬見せるも、すぐに笑みを浮かべ、反撃の構えを取った。


「人気者は辛いなー、でも楽しいよ!」


剣が交わり、短剣と拳が絡む。路地裏に響く金属音、呼吸、そして集中の沈黙。三人は確実にルーシェを挟み込む形を作り、しかしルーシェはその全てをものともせず、異様な安定感で立ち続ける。


――この戦いは、ただの力比べではない。駆け引きでも、タイミングでもない。ルーシェの武技は、身体の感覚でしか理解できない――見えているのに、逃げても受けてしまう、奇妙な圧力を放っていた。


三人は呼吸を整えながら、わずかな隙を伺う。間合い、タイミング、角度――ほんの一瞬でも狂えば、攻撃は致命傷になる。


「行きますわよ!」アンジュの短い声が、合図となる。


バロムの拳がルーシェめがけて迫るその瞬間、リックも構えを取った。両足を大きく開き、剣を後手に大きく引く。眼光鋭く、筋肉を研ぎ澄ませる。


「神速の突きを――」


リックの声と共に、空気が震える。剣先から放たれる気配は、まるで嵐の前の静けさのように路地に張り詰める。


アンジュは一歩大きく下がり、さっき手放した鞭に手を伸ばす。鋼鉄を打ち鳴らすその音は、緊張感とともに響いた。


「真紅の鉄鞭『鳳皇散翔』――鋼鉄をも切り裂く威力、 とくとご覧あそばせ!」


鞭がアンジュの手でひらりと舞い、光を弾く。振るわれた瞬間、鞭の刃先がわずかに震え、周囲の空気を裂いた。


バロムの拳、リックの剣、アンジュの鞭――三者三様の威力が一瞬にしてルーシェに向かう。長身のルーシェは軽やかに身を翻すものの、いつの間にか迫る攻撃に囲まれ、顔に浮かぶ笑みがわずかに強張った。


一撃一撃の威力、速度、角度――全てが絶妙に絡み合い、三方向からの攻撃がルーシェを追い詰めていく。



「ほぉ…僕のこと、本当に捕まえたいのかい?」


ルーシェは長身を前後左右にスッと揺らす。腕を振るう度に大剣が軽やかに舞い、しかし地面にはしっかりと重みを刻む。バロムの拳が目前に迫るが、ルーシェの大剣が一瞬にして迎撃し、拳の軌道を逸らす。リックの突きも、鞭の一撃も、気付けばルーシェの背後や斜めから返され、押し返される。


アンジュが短剣と鞭を駆使して連続攻撃を試みるも、ルーシェは片目を細めて視界に入れたすべての攻撃を読んでいた。大剣を振るうたび、空気が切れ、地面が微かに震える。攻撃は迫力こそあるが、力の強弱よりも、タイミングのずらし方で完璧に読み切られる。


「ふふ、僕たち騎士はね、武技に精通してこそなんだ。魔法?もちろん使えるさ。でも、やっぱりね、剣の技こそ僕たちの命なんだよ」


バロムが「turbo」で力を増しても、ルーシェの長い手足と巧みな間合いには敵わない。リックの剣先も、アンジュの鉄鞭も、ルーシェの大剣の前では届かない。連携攻撃のはずが、気づけばルーシェの周囲を翻弄され、三人は押し込まれていく。


バロムの拳をかわし、リックの剣を弾き、アンジュの鞭を受け止めながらルーシェは静かに笑う。その笑みはまるで、嵐の中で微動だにしない巨木のように揺るがない。


「化け物…なんて言われたけど、これでわかるだろう?」


三人は一瞬の隙もなく、ルーシェの圧倒的な剣技の前に押され続けた。スピード、力、間合い――全てが桁違いで、抵抗する隙など与えられない。


気づけば、三人は路地の壁ぎりぎりまで追い詰められ、ルーシェの大剣が視界いっぱいに迫る。その姿は、まるで陽光そのものが形を変えたかのような圧倒感。


「さぁ、次はどう動く?」


ルーシェは静かに問いかける。三人は呼吸を整える間もなく、再び攻撃を試みるも、圧倒的な間合いと剣技の前に、思うように身体が動かない。圧倒されたまま、彼らはルーシェの前に立ち尽くすしかなかった。


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