6)旅行は心の洗濯です。
「うみーーーーーー!!!」
船の甲板で思わず腕を広げて、海風を全身で浴びる。ちょっと若者向けのフリルのついた服は風に靡いてヒラヒラして楽しい! 帽子は飛んでしまうので手でしっかり握り締めているが、すりぬけてふっとびそうだ。耳元ではビュービューと風を切る音が聞こえる。
港まで、魔道列車で二時間移動してからの海! 船で二泊したのに、キーワナオ国の本島に停泊して島巡りをして、帰りにまた船で二泊して魔道列車で首都まで戻るのだ。そして次の日は仕事! ハードスケジュールです。
ちなみに借りている本は置いてきた、旅行中はやることが多いからね! 写真をとって日録用の記事も書いて、今回からは王宮に提出する課題も書かないといけない。
「あ、日録と課題の内容は気をつけないと、日録やってるのバレるのは恥ずかしいし。いや、でも社交魔具交流紙面なんて王宮の人たち見るかな? しかも旅行専門なんて」
実は私、利用者登録をしているのだ。しかも社交魔具交流紙面で人生羈旅という名義で日録を書いているのだ。学院時代では読むだけだったが、せっかく旅をしてるのだから思い出がてら書いたのがきっかけでやめられなくなっている、しかも時々投げ銭をしてくれる人がいるため、少しだけ懐が潤ってくれてありがたい。
利用している人は新しい物付きの人と、大体が金持ちの家の人が多い。やっぱり社交魔具交流紙面を買うのに値段が張るのと、魔素網に接続するための機材がとてつもなく高いのだ。
まー魔術回路を勉強していれば自力で接続できるので、そういう知識を持ってる人も利用しているらしい。私は学校で魔術を習った時に、担任が社交魔具交流紙面をやっていて、自力で接続する方法を教えてもらったのだ。
「さて、何しよう! 無料で遊べる場所多すぎる〜!」
ポシェットから取り出したのは船の予定表が書かれた紙だ。船に乗る際に添乗員からも説明を受けたが、30分後に避難訓練を受けないといけない、海難事故が起きた時にどこの救命船にのるか決められているらしい。
サボることはできず、船内専用の個人魔具腕輪でちゃんとやったかチェックされる。これは部屋の施錠や買い物、イベント時の点呼に使うちょっと高級な道具だ。
「とりあえず、避難訓練してから、ウエルカムシャンパンを飲んで〜チェックラリーかなー」
説明を読んでいると、船内を把握するためのチェックラリーらしい、しかも全部回ったら景品がもらえるとか。さっさと避難訓練を済ますと、船内地図を片手にスキップしながら歩いていると、年配の夫婦に声をかけられた。
「あら、ヴァレンティナちゃんじゃなーい!」
「あ! キーシナ夫人!! もしかして同じツアーですか!?」
「キーワナオ国ツアーよ!」
「同じです〜!!」
キーシナ夫人は前に南の島に行くツアーで一緒だった人で一人参加仲間として仲良くなったのだ。年齢も離れていたので、連絡先は交換せずその場限りのお友達的な感じで過ごした気さくなご婦人だ。私と同じくらいのお子さんが3人いるらしい。
当時は夫婦で参加予定だったのを、旦那さんがすっぽかして仕事に行ったので、一人で参加していただけなんだけど。旦那さんには何も連絡せずに来ていたせいで、ツアー途中に旅行業者経由で連絡が来て、ホテルの通話機越しに夫婦喧嘩したりして面白かった。
「彼女が、前君が言ってた子か」
キーシナ夫人の後ろからヌッと出てきたのは、武人のような大きな体で貫禄を持った、年配の紳士様だった。
「あ、紹介するわ。これが、仕事中毒人間の私の夫よ〜。今回は忘れずにちゃんとついてきたわ〜。貴方、この子が、ヴァレンティナちゃんよ。私と一緒に海に入ったのねー」
「はい!」
「妻が世話になった」
「いえいえ、こちらこそ! 楽しい旅でした」
「そうだ、ヴァレンティナちゃん、あの時一緒に買った水着もってきた?」
「持ってきました!!」
「じゃーこの後一緒にその水着きてプール入りましょう!!」
「はいります!! 一人で着る勇気なかったので嬉しいです!」
「え、エリス。あの水着をきるのか? ちょっと露出が」
「南の国ではあれが普通よ〜ね〜。じゃー一時間後にプールで集合ね!」
「はい!」
慌てる旦那さんを無視してキーシナ夫人はウキウキで部屋へと戻っていった。
「旦那さん、尻に叱れてるんだろうな……。こうしちゃいられない、プールの準備しなきゃ!」
急いで部屋に戻って水着に着替え、上からふんわりとしたワンピースを着れば準備万端。
プールは最上階のデッキの真ん中にあり、すでに何人か入って遊んでいた。子連れの親子もいるため、子供達が楽しげに騒いでた。
意外にも、ビキニを着てくつろいでる女性がいたおかげで、合流したキーシナ夫人と堂々とワンピースを脱いで、プールに入った。
「旦那さんは一緒じゃないですか?」
「あー置いてきたわ〜。ちょっとうるさかったから♡ まぁ、ご機嫌取りにお酒でも持ってくるんじゃないかしら〜二つ」
「え?」
その言葉通り、有料の飲み物を旦那さんが持ってきた。
あの顔で、南国のお花で飾られた飲み物を運んでくる姿は目立っており、キーシナ夫人は爆笑しながらカクテルを受け取り、しかももう一つは旦那さんのではなく、私の分だった。
「い、いいんですか?」
「いいのよー。ねーって、どこ向いてるのよ、マリス」
「いや、若い子の肌を見るのは良くないだろ。お嫁入り前の子なんだから」
「……はぁ、そういう固いところ嫌いじゃないわよ。ダーリン」
「わーお、熱ーい」
ヒューヒューと言いながら、ちゃっかりカクテルも頂き、キーシナ夫人と映える写真をお互い取りながら楽しんだ。
満足するまではしゃいだら、キーシナ夫人とはそこで一旦お別れし、私は着替えてから腹ごしらえのために朝7時から夜の9時まで自由に出入りできるダイニングへ、そこには常に食材が並んでおり、サラダからフルーツ、パン、言えばお肉まですぐ焼いてくれるので、好きな食べ物を選んで腹を満たした。
「無制限に食べれるのって良いわー。船旅っていいものね。ハマりそう」
船内では無料のイベントもやっている。とりあえず、ホールで演奏が始まるらしいので見にいくと南国の衣装を着た音楽家たちが演奏していた。
知らない曲ばかりで聞いていて楽しかったが、プールではしゃいだせいか、体が重く一緒にダンスする体力がなかったため、休憩がてら隣接しているカフェテリアで持ってきた魔具草紙を広げた。
とりあえずここまでの内容を日記としてしたためる。
「キーシナ夫人にまた会えたし、今回の旅も楽しそうだわ」
その言葉通り、船内で会うたびに一緒に何かしらで遊んでいたのであっという間の二日間だった。しかもキーシナ夫人と一緒にカジノ体験をしたら、まさかの所持金が増えて心置きなく買い物ができるようになった。
まだ移動しているだけなのに、日録ネタがいっぱいだ。
キーワナオ国に着いた時間がお昼だったため、日差しはとてつもなく強く、速攻で持ってきていた日傘をさした。本日の服装は南国らしく、肩の部分がリボンになっているワンピースでポニーテールにしてみた、完全に浮かれた格好だ。自国だったら絶対にしない、同僚がみたら年齢を考えろとかいわれる格好だ。
荷物は現地の旅行業者の関係者が運んでくれるので手ぶらでそのまま観光だ。
まずは、名所となっている島々が一望できる高台から。
「すごい、綺麗」
青い海、そして白い橋が放射線状に島々へ伸びていた。橋の上は路面電車がガタゴトと音を鳴らしながら走っていく。
風が吹けば橋に設置された筒を通って綺麗なハーモニーが聞こえた。橋ごとに音階が変わっていて地元の人たちはこの音で、今どこのらへんで強い風が吹いているとか判断して小船を操作してるそうだ。
胸いっぱいに空気を吸えば、自国とは違う空気の香り、そして日常音。
「きたーーー!!」
思わず大きな声でバンザイすると笑われてしまった。
「ヴァレンティナちゃん、興奮しすぎよ〜」
「えへへへ」




