4)幼馴染達は? ※別視点
「なぁーーー!!!」
「落ち着け、ハルアス!!」
ヴァレンティナを王妃様が待つ部屋に連れて行ったあと、二人は控え室に足早に戻り、室内に入った瞬間お互いの肩を掴んでいた。
「落ち着けるか、ベアグリルス!! なぁ、シノン超可愛くなってなかったか? てか小さくね?」
「小さくない、僕たちがでかくなっただけだよ!! 可愛くなってた!!」
「そうか! てか、年下に見えて一瞬、わかんなかったし」
「それな!」
「でも、見た目ほとんど変わってなくないか!! 髪型が淑女になっただけで!」
「当たり前だろ! 昔みたいに降ろしたりポニーテールだけじゃダメなんだよ!」
「あれは反則だよ!」
「本当に!!」
「てか、昔は見上げてたのにさ!」
「そう! 今、見上げられてるの!!」
「上目遣いな!!」
「それな!!」
「あれで同い年は反則」
「反則すぎる!」
「うっさいなぁ! さっきから二人とも、誰のことを話してるんだ?」
二人を見上げながらお茶を飲むシオンの呆れた声で、二人はハッとして手を離し居住まいをただした。
「いたんだ、シオン」
「あ”?」
「すまない、ちょっと冷静さを失っていた」
「で」
「おっと、あぁ、そのヴァレンティナだったな」
「ふーん。ヴァレンティナ様の話だったのか、え? 二人と同い年なのか?! え、マリエッタ様くらいの年齢じゃないのか?!」
「それは流石に言いすぎじゃね? てかお前もリスト見ただろうが」
「確かに見たけど……年齢までみねーよ。ハルアスに言われるとムカつくなぁ」
「んだとぉ!」
「落ち着け、ハルアス。でも、見た目の印象はエレオノーラ様くらいだよね。まーそれでも幼く見えるけど」
「君も若く見えるけどね」
「僕はあそこまで幼く見えないだろ」
「まぁ、お前は身長があるしな、俺と同じだし」
ハルアスはベアグリルスの頭と自分の頭を手で高さ確認した。昔は自分の方が若干デカかったのになと思いながら。
「ふーん。でも二人と同い年なら、殿下とも同い年だろ?」
「えっと「うん、そうだよ。だから驚きだよね。他の令嬢は年下なのにさ」」
ベアグリルスがハルアスの言葉を遮って話し始めた。お前は黙っておけとアイコンタクトを送り黙らせた。ハルアスは少々口が滑りやすい質なのだ。
「確か、後ろ盾ない令嬢だろ? 俺たち向けかな?」
「それは分からないよ。どうやら王妃様が絡んでるみたいだし」
「なるほど。」
「それに、不用意な発言は控えた方がいいよ。殿下に聞かれたらどうするんだよ」
「俺がなんだって?」
ベアグリルスはびくりと肩を震わせて振り返ると、ちょうど殿下が他の側近と一緒に戻ってきていた。
「お帰りなさい殿下」
「どうでしたか? 令嬢達は」
「はぁー。全員子供すぎて……はぁ、面倒だ」
殿下は大きなため息をつきながら、胸元を緩めるとソファに乱雑に座り背もたれに体を預けて寝そべった。
「令嬢達には見せられませんねー」
「見せなければいい。まぁー今の所、調査通り妃候補はあの二人だろう。政治的な話が少しできていたしな、他は無理だ」
「やはりそうですか」
「他の方々の印象はどうですか?」
「若すぎて、今日だけでは判断がつかないな。女の武器を使おうと必死だった感じはあるが。いかんせんこどもすぎて、無理だ。側室にするにしても、王子妃を立てらるくらいの分別がつく人間かどうかはまだわからないからな、選びようがない」
殿下の言葉に、他の側近が食いつくように発言した。
「なるべく早く判断した方が良いと思いますよ」
「はぁ、ルシアン。欲望がダダ漏れているぞ。お前がおこぼれで婚約者が欲しいだけだろう」
「はい!」
「そんなんだから断られるんだ」
「ぇー」
殿下の言葉にベアグリルスとハルアスはお互いアイコンタクトをした。不用意な発言をしないために黙ろうと。
「「……」」
「でも、殿下。早めに選ばないと、年長者の令嬢にとっては婚活に響きますよ」
「はぁ、そうだな」
「そうですよ。そもそもこの時期に候補者を選出したのも、有力候補の令嬢達の学院卒業間近になったからで、卒業後は社交デビューですよ」
「あぁ。選ぶのを急がせるためにだろ」
殿下は憂鬱そうに答えた。
最終的に選ぶのは彼自身だ。未来の国を背負っていく女性を選ばなければならない。政治的にも能力的にも最適解の女性を選ぶことで、周りにも自身の能力を示さなければならなかった。
「まぁまぁ、まだ1回目のお茶会なんですし。そうそう、ベアグリルスとハルアスとおしゃべりしていた令嬢は、あのあと王妃様に呼ばれて二人が送りました」
シオンが報告をすると、殿下は顔を上げて片眉だけあげて訝しんだ。本来なら、ベアグリルスとハルアスどちらかが報告してくるはずだ、とくにおしゃべりなハルアスが先ほどから黙っている。
「そういえば、あの伯爵令嬢と知り合いだったんだっけ、二人は」
「えっと、そうっすね」
「はい。彼女の父上が存命の時に交流があっただけなんで」
「そうそう!」
ハルアスのぎこちない受け答えとは打って変わって、ベアグリルスはハキハキ喋った。殿下は自分の違和感が当たっていることに気づいた。長い付き合いで分かる、二人は何か隠している。
「へー、だからか。なんか見たことがある気がするんだよなー」
「「へー……記憶力の良い殿下がめずらしいですね」」
「何ハモってるんだよ。気持ち悪いな」
明らかに様子がおかしい二人に他の側近も訝しんだ。
「どうしたんだよ」
「気持ち悪いな」
「幼馴染が可愛くなって興奮したらしいですよ」
「そ、そうなんですよー」
「うんうん、さっきは騒いでごめんねーシオン」
「全くですよ」
「ふーん」
殿下は末端に座っていた令嬢を思い出していた。
二人が仲良く話していたのは、確かヴァレンティナ・シノノメ。お茶会の場では、真正面にほぼ座っているにも関わらず、存在感が薄くうっかり忘れそうになる程だった、印象に残っているのは静かに周りの話を聞いていて、まるで侍女達のように目線を合わせず、気配を殺しているようだった。
事前にみた資料だと、当主不在のために、王家が領地を管理運営している。彼女自身に何も権限がない伯爵令嬢。
「シノノメ家か……表向きは王家……母上が現在管理しているところだな」
シノノメ家は古くから王家に使える一族で、技術集団だと言われている。東の土地にある湿地帯に住んでいるのだが、さまざまが工夫と技術で暮らす彼らは、様々芸術品を生み出している。
王家の管理であれば、色々と話を聞く会があるはずなのに、今までシノノメ家について触れられたことがなかったことに気づいた。
「……意図的に隠していたのか?」
思わず呟いた自身の言葉で、その可能性に気づいた。同時に二人が詳しく話さないのは、母親である王妃に口止めされているのではないかと予想した。庭園での散歩では、3人とも楽しそうな雰囲気で会話をしているのを遠目でみていたが、会話まで聞いていなかったのが悔やまれた。
後ろ盾がないということで、彼女のことは候補として除外していたのだ。
「……あまり彼女の資料は読み込んでいなかったな。シオン、あとで執務室にもってきてくれ」
「かしこまりました」
「「……」」
「どうした二人とも」
「「いえ」」
「君たちと親しかったんだ、昔はそれなりに交流ができる地位だったんだろ? それとも初恋か?」
「「黙秘します」」
二人の反応に思わず眉間に皺がよった。資料を寄越すように言ったときの二人は少し焦った様子だった。彼女を調べると何かまずいことでもあろうのだろうか?
二人とは幼い頃からよく遊び悪ふざけもした仲だ、大抵の出来事は知っていると言っても過言ではない。そんな二人の初恋はそれぞれ別の令嬢だったはずだ。しかもベアグリルスは初恋を実らせて婚約中だ。
それなのに二人とも黙秘すると宣言した。
二人には内緒で、彼女の身辺調査をする必要があるなと殿下は思った。




