2)候補者のお茶会
「名ばかりだといえど、身だしなみはしっかりとしないとね」
ドレス屋にいけば、早速王太子殿下の婚約者話で盛り上がっていた、候補者は5人、その中で有力候補は二人だとか。皆好き勝手にお話してくれるので、順番待ちの間いろいろな話が聞けた。
「ご学友からは選出されなかったそうよ」
「あら、貴方知らないの? ご学友同士で婚約してしまったのよ」
「フィオレンティア公爵家が心血注いで教育された令嬢が参加されるそうよ」
「どのくらいのものなのかしらね」
「候補者は全員社交デビューしていないから、学院での出来事しかないのよね」
「カンロージェ辺境伯もかなり教育熱心だったとか」
「候補者といっても、あくまでも候補よ」
「はい、お母様」
「今年の流行は何かしら。できれば殿下の好みが分かればいいのだけれど」
皆すごい情報網だし、きっと耳をそばだてて他の情報も仕入れているのだろう。侍女たちがおしゃべりもせずに、人によってはメモまでしていた。
「ここにきて正解だったかな。それにしてもお値段が……普段の既製品の服屋と違うから仕方ないけど。足りるかな。とりあえず小物類だけ買っておこう」
王室のお茶会にはいろいろルールがあるから、用意しないといけない。
女性は、扇子、日傘、ハンカチ、手袋。何にでも合わせられるシンプルなものを選んだが、これだけで、普段私が買っている服と同じ値段になってしまった。
慌ただしく準備をしていると、さっそく王太子殿下との顔合わせのお茶会への招待状が届いた。
どうやら招待状や伝言は直接本人に伝えるのが義務付けられているのか、毎回従者が変わるものだから毎回侍女と間違われて揉めるため、担当者を固定して欲しいと願い出るとあっさり通ってしまった。
「本来であればあり得ませんが、ヴァレンティナ様は我々を懐柔できるほどの財力も人脈もないと言うことなので、特例で許可がでました」
と安い紅茶を啜りながら担当者のブラスティーアに言われてしまった。毎回面倒なやり取りをする徒労を考えたら、まぁ嫌味の一つくらいどうってことはない。仕事で言われる嫌味の方が大変だし。
それに、王妃様から支度金をいただけたので、王子との顔合わせのお茶会に着ていける服は買えた。色々趣味でお金を使い過ぎているせいで、夜会用のドレスを買うには流石にお金が足りなくてまだ買えていないが、夜会なんて呼ばれることはないだろう。
顔合わせ当日にブラスティーアがエスコートも兼ねてくれると言うことで迎えに来てくれたのだが、私の格好を見て眉間に皺を寄せてきた。
「おかしいですか? 既製品ですが、一応流行を少し取り入れたものにしましたが」
派手すぎず、地味すぎないテラコッタ色のドレスの胸元は、レースで首元まで隠し年齢相応の格好にした。髪の毛も綺麗にまとめて、編み込みのお団子にして、規定通りのお茶会に相応しいおしゃれな小さな帽子をつけて完璧だ。
「……もう少し若々しい格好の方が似合いますよ。ヴァレンティナ様は童顔ですから」
「……丸顔なだけで童顔じゃないです。砕けた言葉を使ってるから若く見られるだけで「まぁ、そう言うことにしておきましょう。いきましょうか」」
「え、話を流す気ですか? ねぇ」
「……」
何度も顔を合わせているおかげで、ちょいちょい本音が聞けるようになっていたが、もしかして、私舐められているのでは? これは由々しき事態。
どおりで仕事で喧嘩振ってくる奴が多いわけだ。流行りの淡いメイクをしていたが、強強メイクに変えるべきだなと心の中でメモをした。
王宮からの迎えの馬車に乗って、ブラスティーアのエスコートで顔合わせの場所となる庭園へと向かう、途中で婚約者後方の人たちの情報収集であろう貴族達とすれ違った。
王宮の制服を着た人にエスコートをしてもらっている姿を見て、思うことがあるらしく、皆ジロジロ見ながら小声で話をしている様子に、思わず小さくため息をついてしまった。
「大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫です。そうだ、今後のエスコートもブラスティーア様になるのでしょうか?」
「上からの命令がなければそうなる可能性がありますが、噂を考慮して持ち回りになる可能性があります」
「なるほど、かしこまりました」
昔懐かしい王宮の庭園には白い大きなテントが張られその下には、丸いテーブルが並べられていた。周りには給仕をする従者と侍女が綺麗に並んで、出迎えている。
ブラスティーアのエスコートはここまでだ。招待状の紙を入り口にいる従者に渡せば、名前が呼ばれる。
「シノノメ伯爵令嬢、ヴァレンティナ様」
王太子殿下も王妃様もいないが、入り口で恭しくお辞儀をする。
従者の横に控えていた侍女が「ご案内いたします」とお辞儀と共に名乗り出て歩み始めた。その後についていく。
大丈夫、予習はしっかりとしたのだ、ここで少しでもミスをすれば王妃様の顔に泥を塗ってしまうし、貴族たちの格好の噂のネタになどされたくない。既にされているだろうし。
テントに近づくと、すでにきている令嬢達に睨まれた。
「お初にお目にかかります。ヴァレンティナ・シノノメと申します。以後お見知り置きを」
一応テントに入る前に自己紹介をするもガッツリと無視されてます。
まぁー予想できたことなので、笑顔のまま案内された二つの丸いテーブルのうちの下座に着席。
みんな年下だから、学院に通っていた時と被っていないし、社交界にも顔を出していないので、誰が誰だかさっぱりわからない。
彼女達は現在進行形で学院に通っている子もいるので、私よりも情報を持っているはずだ。
とりあえずドレス屋さんで仕入れた情報から考察するに、私から左側に座っているのは、子爵家のマリエッタ・デュランス様だろう。焦茶色の髪の毛をキツく巻いたロールヘアを好んでしていて、宝石を散りばめたリボンをつけていて似合っている。あどけなく可愛らしい少女で、今年15歳になったとか。
右側に座っているのは伯爵家のイザベリーナ・ニウギネプリア様だろう。紫がかった黒髪を緩やかに巻いた髪の毛が色っぽいが18歳で学院は卒業済み。彼女はあまり情報が流れてこないけど、物静かで色っぽいせいか殿方に人気だったとか。あと、陰湿だと言われていたが具体的な内容を聞けなかったので真偽不明。
次にもう一つの上座のテーブルでイザベリーナの隣に位置する席に座っているのが、生真面目だという噂の辺境伯のヴィクトリア・カンロージェ様。きつい目をして、きっちりと髪の毛を巻き上げてまとめている。流行りのオシャレは嫌いだそうで、私と似たような保守的な色合いと昔ながらのデザインのドレスだ。
17歳だと言うのに、ババア臭くない? と思ってしまう。彼女なら原色寄りのドレスで似合うものがあるだろうにと勝手に想像してしまった。
最後のもう一人は、婚約者候補筆頭の公爵令嬢であろう。案の定、「フィオレンティア公爵家エレオノーラ様」と名が呼ばれて振り返れば、従者と侍女を引き連れて現れた。
今年16歳、公爵家自慢の姫君だ。優秀な教師をつけられていて学院での成績は常に上位。長いブロンドヘアを緩く巻いて、小さな宝石の髪飾りをいくつも散りばめられている。
大きな瞳は自信に満ち溢れている。
「綺麗だわ」
思わず呟かずに入れないほどの凜とした少女だ。筆頭と噂されるだけある。
予想通り、彼女は上座に座った。
彼女が登場したということは、王子の登場だ。
「王太子、アルベルト殿下がご到着なさいました」
高らかに宣言された声が響き、皆が席を立って入り口を見れば、側近と一緒に庭へと入ってきた。
金髪は日差しを浴びて煌びやかに輝き、青い瞳はまるで湖面の輝き自信に満ち溢れた力強さもあり、一度見たら目が離せない美しさがある。
学院で見かけた時よりも、男らしさが増して格好がよくなっていた。にこやかに微笑み、落ち着いた声で話す姿はまさしく理想通りの王子様だ。
昔を知らなければ一目惚れしてファンクラブにでも入っていただろう。
着席すれば、一人ずつ自己紹介をすることになった、最後の私の番で名乗ったら少し驚いた表情をされてしまった。
まぁ、ほぼ没落しているのと変わらない爵位だし、後ろ盾のない私が参加するとは思わなかったんだろうけど、事前にリストを渡されてるだろうに、驚くとは失礼な! 王妃様から直々に指名されたのだ出ないわけには行かないだからな。
挨拶をし終えれば、あとは家のことについて殿下が一人一人聞いていく形となったが、やはり私の番になったさいには困った顔をされてしまった。その表情も綺麗なおかげで、令嬢達がうっとりと眺めているんだけど。
「シノノメ家は現在当主不在のため、領地は王家が管理されております」
「あぁ……そうだったね」
「はい、日頃からよくしていただいており、今回も格別な待遇に感謝しております」
「……そうか、……確か……うん、母上に伝えておこう」
殿下はしばし考えると王妃からの招待だと気づいたらしい。令嬢達は私と殿下の会話を理解できたのは、どうやら二人だけで、一瞬眉間に皺を寄せて不愉快そうな顔をされてしまった。
王子の提案で、庭を巡ることになった。きっと会話のネタがつきたんじゃないだろうかと、勝手に邪推してみる。あとどのくらいここにいなければならないのか、さっぱりわからないし、まーぶっちゃけ暇なのだ。
「殿下、私の家の庭では今渡り鳥がきていて、とても美しい白い羽をしていますの」
「もしかして白春鳥のことかしら?」
「っ! 近づいてはダメだと言われているのでわかりませんわ」
「ここの庭園は殿下が好んでいたとお聞きしました」
おー早速ばちばちやりあってるー! 果敢にもマリエッタが話しかけたのにヴィクトリアが突っ込んでしまった。年下なんだからそんな意地悪しなくてもいいのにと思うが、ここは彼女達にとって戦さ場か。
「大変だわー」
殿下の周りに4人の女性。殿下の身長が高いから女性達に埋もれても顔がしっかり見える。
思わず少しずつ歩調を緩め、ゆっくりと後をついていくようにすれば集団から距離ができた。
ほんのすこしだけ胸が痛むのは、きっと何も考えず男女混じって純粋に駆けずり回った庭園で、男女という明確な括りをもって歩いているからだろう。
学院で見かけた時からわかっていたことだ、もう住む世界が違うし、気軽に言葉を掛け合える立場ではなくなった。
「どうして思い出って煌めいて見えるのかしらね。……殿下の顔は変わらず素敵だし」
思わずそう呟くと、背後で笑う気配を感じて振り返ると殿下の6人の側近のうち二人だけ真後ろに立っていた。
「ぁ、すい「ぷっ。シノンは昔から殿下の顔好きだよね」」
「?!」
「そういえば、そうだったね。シノンって”黙っておすまし顔でいれば絵本の中の王子様なのに”ってぼやいてたよね」
二人の言葉に思わず見上げ、顔を凝視した。




