16)公爵家のお茶会1
「私って押しに弱かったっけ?」
結局「男に二言はない」というリアリスに言いくるめられてドレスを貰ってしまったのだ。
しかもドレス屋にではなく、リアリスの実家であるマムティークエ従伯爵家に連れてこられ、ご家族にも紹介されてーのドレス採寸をして軽くお茶をして帰ってくるという怒涛の一日を過ごしたのだ。
一応お友達として紹介され、久しぶりの再会の記念ということでドレスをあげたいという話になっていたが、兄夫婦もリアリスと同じノリだったため、どう思われていたかさっぱりわからなかった。
そして、お茶会の三日前に採寸し完成したドレスが届けられたのだ。
「”幼馴染のご好意ってことで受け取れ”って……ありがたい……けど、いいのか?! わたし!! でもありがたい!!!」
添えられた手紙はテーブルに置いて、ドレスを体に当てれば落ち着いた若草色のドレスはお茶会にピッタシな装いだった。しかも一着だけでなく、殿下と交流会に良さそうなドレスと夜会用のドレス一着まで用意されているのだ。
自分のリメイク中のドレスと見比べて、明らかにプロが作ったドレスの方が失礼じゃないし綺麗だ。
「ん〜〜〜素敵すぎる〜〜〜!!自分好み〜!!! ありがたく着よう! ていうかこんなオシャレなの着たい!!」
自分のサイズに合わせて仕立てられているのだ、着なければ勿体無い!! それにお茶会参加者は魔道具を持参しないといけないのだ。
珍しいものか面白いものをと書かれていたが、ヴァレンティナが持っている魔道具は実用的なものばかりで、お金さえ払えれば誰でも所持しているものばかり。
しかも、結局王妃様と面会することができなかったので、シノノメ家が所持している魔道具を確認することもできなかった。
「やっぱり、あれを買うかー」
面白いものとして唯一知っている魔道具、ちょっとマニアックなお店で売っている物だ。学院街の近くにある魔道具屋で、安いものから高いものまで売っているのだが、そこに”一度だけランダムで願いが叶う花”という意味不明な魔道具が売られていた。
オーパーツと紹介されているのに金額はちょっとした高級品くらいの値段でしかないので、完全に偽物だろうと皆が思っている、本物であればかなりの高額商品になるはずだからだ。
なにより願い事が叶うと書きながら、ランダムという意味不明な魔道具のため誰も買わず埃がかぶっている状態。
なのだが、実はこれ本物のオーパーツなのだ。
「本当にこれを買うのか? 返品しろって言われても受け付けないよ?」
「えぇ、面白いものっていう要望なので」
「まぁ、ある意味面白いものだろうね〜」
店員も売れるとは思っていなかったらしい。
とりあえず購入したが、貴重な魔石の粉末が入った美しいバラの形をした魔道具だ。起動方法は自分の魔素を送り込んでお願いすればいいらしいが、見える範囲の魔術式を見る限り記憶の保存と保護をした後に何か行うらしいと言うことしか見えなかった。
「メインの術式が見えない。これ絶対わざとだろうな、作った人性格わるー」
とりあえず、テーマにあったものは手に入れたので、これでお茶会の準備は終了だ。
当日、ヴァレンティナは新しいドレスに身を包み、綺麗な箱に魔道具を納め、身だしなみチェックが終わればあとは家を出るだけ、というタイミングでリアリスが訪ねて来た。
「どうしたの?」
「エスコートしに来た」
「えぇ?!」
「流石にそのドレスで乗合馬車に乗ったら攫われるぜ」
「さ、攫われるって大袈裟な〜」
「大袈裟じゃないだなー。警備兵のほうで不審者を捕まえたら、貴族女性が乗合馬車に乗ってるって言う情報を得たって報告が来てね。候補者の行動ってある程度監視されてるからすぐに君だってわかったけど」
「うそ!!」
「本当、本当〜ていうことで、ドレスめっちゃ似合ってるよー」
「あ、ありがとう」
「じゃー行こうか〜」
そう言って、ヴァレンティナの手を引っ張ると、自身の腕に乗せて何かいう前にエスコートをしたのだった。アパートを出ればすぐ目の前に馬車が停まっており、そのまま公爵家へ移動となった。
「なんか、色々ありがとうございます」
「気にすんなよ。俺にとっては役得だし……まぁ、俺政治的なやりとり苦手だしー」
「こらこら、殿下の側近なんだから〜気にしてよ〜!」
「三男坊だぜ? 誰も気にしないって。側近って言ってもベアグリルスみたいな仕事をしているわけじゃないし、ほぼ護衛兼雑用係なんだよねー」
悪戯っ子の笑みを浮かべながらリアリスはあっけらかんと言った。殿下の雑務で使いっ走りに行かされたり、ご夫人方の盾にされた話などを聞いているうちにあっという間に公爵家についてしまった。
「それじゃー俺はここまでだから、二、三時間後に迎えにくるからさ」
「わかったわ。何から何までありがとう」
「どういたしまして、お姫様」
「もう」
リアリスはウィンクしながらそう言うと、馬車に乗って去っていった。玄関にはすでに使用人が待機しており、招待状を見せれば深々とお辞儀をすると「こちらです」と言って中へと案内された。
ホールを突き抜け中庭へ出ると、神殿のような大きな東屋が建てられており、その中で行うようだった。
主催であるエレオノーラは、淡い水色のドレスを見に纏い花々に負けないほどの美しさで、その場に佇んでいた。優雅に、それでもしっかりと使用人たちに指示をだす姿はすでに女主人としての才覚を表している。
「ようこそ、我がフィオレンティア公爵家へ」
「ご招待いただき、誠にありがとうございます」
ヴァレンティナに気付き、優雅に挨拶する姿は一切の隙がなく、羨ましくもあった。
他の令嬢たちも集まればお茶会の始まりだ。お菓子のおいしさや、紅茶の風味の感想と貴族らしいやりとりを聞きながら、前回とは違ってマリエッタは大人しく、イザベリーナと一緒にお茶のおいしさを褒めていた。
ヴァレンティナはにこにこ笑みを浮かべながら、「美味しゅうございます〜」としか言えず。もっと気の利いた言葉を捻り出そうと思う前に、エレオノーラが他の人に話題を振っていた。
ヴィクトリアは済ました顔をしているが、少々苛立っている様子が垣間見得た。
どうしてだろうと不思議に思っていると、お茶会のメインでもある魔具を見せ合ったところで理由が明らかとなった。
ヴィクトリアの魔具は一般的に売られている仕掛け絵本だったのだ。他の令嬢たちは、ヴァレンティナと同じくオーパーツと呼ばれる、古代の魔具を持ち寄ってきていた。
オーパーツの特徴は装飾が多く外側に機動するための魔術の文言が必ず書かれているので、見分けがつきやすいのだ。
ヴァレンティナは思わず「実物の仕掛け絵本の魔具は初めて見ました」と発言しかけたが、マリエッタの発言で慌てて噤んだ、危うくマリエッタの攻撃の矛先がこちらにくるところだった。
「えーヴィクトリア様のってデパートでよく売ってる魔具じゃないですかーしかも子供向け〜」
マリエッタが早速笑いながら指摘すると、ヴィクトリアは顔を真っ赤にしつつも反論した。
ヴァレンティナは思わず、カップを両手に持って飲み物を口にしていて話せませんのポーズをとりつつ観戦モードに入った。
「別にオーパーツを持ってくるなんて一言も書いていなかったじゃない。それに、これは今有名のタリーエッズが制作した魔具よ!」
「そうなんですねぇ〜。私の妹がその絵本持ってるんでぇ〜。エレオノーラ様もぉ〜お持ちじゃないですかぁ?」
「そうね、私も叔父様からプレゼントされたわ。叔父にとってはまだまだ子供に見えるみたいで」
「わかりますぅー叔父様、叔母様ってそうですよねぇ〜!」
「ふふふ、ヴィクトリア様は普段は領地にいらっしゃるそうですから、王都のおもちゃが珍しかったのではないですか?」
なんと珍しくイベリーナが参戦してきた!
「なんですって、カンロージェの領地をバカにしておりますの?! この国の防衛を担っている我が家に対して無礼ではありませんこと?!」
「無礼だなんて、そんな。私は、ただ珍しいからお選びになったのでは? と思っただけですわ。馬鹿になんてしていませんわ、ねぇ」
「自意識過剰じゃないですかぁ? ヴィクトリア様ってぇ〜おもちゃ買うタイプに見えなかったしぃ〜」
「そうねぇ。あ、ヴァレンティナ様は王都住まいですし、仕掛け絵本なんて見たことがありますでしょ?」
「へ?! えぇっと、プレゼントで喜ばれると言うのは聞いたことが……えっと、ありましたが! 私の歳では絵本は手に取らないですし、送る相手もいませんので初めて見ますよ!」
凄い! 凄い! と思ってボケッと観戦していたら、まさかイベリーナに話を振られるとは思わず、変な声が出てしまった。なんとか捻り出した回答に今度はエレオノーラが反応した。
「そういえば、ヴァレンティナ様は働いておりましたね」
「そ、そうですね」
両手でカップを握りしめた状態で対応する年上女性ってやばいだろうと内心思いながら、冷や汗をかいていると、周りがざわつき始めたのに気づいた。
他の令嬢も周りの空気に気づき振り返ると、使用人たちが慌てているようだ。
「お茶会の最中よ何があったの?」
「お嬢様! ご歓談中失礼します」
早足できた使用人が伝えるよりも先に、騒ぎの中心人物が現れてしまった。
「やぁ、お邪魔するよ」
「「「殿下!!」」」
みな、慌てて席から立ち上がり、お辞儀をする中、殿下は使用人が持ってきていた椅子を奪うように手に持ち、ヴァレンティナの横に椅子を置くと座ってしまった。
「で、殿下。そちらではなく、ぜひ私の横に」
「いや、末席で良い。近くに寄って顔を出しただけだ、招待状もないしな」
「まぁ、殿下は魔具に興味を持ってこられたのでは、と勘繰ってしまいましたわ」
エレオノーラの発言にヴィクトリアは悔しそうな顔をするも直ぐに扇子を広げて顔を隠した。他の二人も一瞬表情が動いたが、すぐに笑みを浮かべて殿下を歓迎している様は、立派な貴族だ。
「エレオノーラ嬢は鋭いな。君が提出してくれた茶会の内容が気になってしまってね、珍しい魔具が見れるかと思って、寄ってしまった、野次馬というやつだ」
「まぁ、嬉しい限りですわ」
ニコニコ笑顔のエレオノーラの様子に、ヴァレンティナはわざわざ魔具を用意させた意図がわかってしまった。殿下が珍しい魔具好きだからこそ、興味を持ってもらうためのモノだったのだ。あわよくば、次の交流会の話題の布石、運が良ければ乱入といった所だろうか。
ある意味、公爵家としてお茶会は大成功だ。
「えっと、殿下。エレオノーラ様の横に」
公爵家に睨まれたくないのでヴァレンティナは殿下に席の移動を促すも悪い笑みが返ってきた。
「良いではないか、ヴァレンティナ嬢。……ワインは美味しかっただろう?」
「ぁ、はい」
「殿下とヴァレンティナ様はずいぶん親しいのですね」
「あぁ、彼女は王宮の勤め人だからね、列車事故で足止めを喰らった際に仕事を手伝って貰ったんだ。彼女に取っては災難だったようだが、その代わり高いワインを奢ったんだ」
「あはははは、その節は、美味しゅうございました」
列車事故の時に、ビンテージワインは飲めなかったが、実はちゃっかり高いワインを飲ませてもらったのを思い出し、ヴァレンティナは口を噤んだ。
調子に乗って飲むんじゃなかったと後悔するも、後の祭りだ。




