12)列車事故 貴族社会
「ぐっすり眠ってる」
「殿下……どういうおつもりですか?」
「どうした改まって、ベアグリルス」
「彼女は、後ろ盾がありません。……筆頭候補でもありません」
「そうだね……だが、私の婚約者候補だ。それに懐かしい感じがするんだよね〜、それに同い年だし、他の候補者は子供っぽく見えてしまうけど、彼女は可愛いね」
そういいながら、眠るヴァレンティナの髪の毛を手ですいた。口元までブランケットで覆い隠されてしまって少し残念に思っていた。
頭を撫でても、全く反応せず熟睡している様子に、大丈夫だろうかと違う意味でアルベルトは心配になった。
「殿下、あなたも休んでください」
「そうは言っても、いつ新しい情報が来るかもしれないじゃない」
「とりあえず、表向きは線路の切り替えのポイントで起きた脱線事故として、報道されています」
「なるほど、嘘はついていないね。怪しい人物は捕らえられたのか?」
「いえ、ただ、救出した乗客の人数と乗車時の人数が合っていないそうです」
「逃げられたか」
「たぶん」
「とりあえず、私を狙っての犯行なのか、反社会組織なのか、それとも彼女を狙ってなのか、わかると良いのだけれど」
アルベルトはベアグリルスを見上げていうと、彼は目を逸らした。
「……殿下、おやすみください」
「話の腰を折るか……。まぁ、少し調べた限りそうだろうとは思ったよ。書物を管理するブライリー家なら知ってるかなと思っていたが」
アルベルトはベアグリルスにだけ聞こえる程度の音量で語ると、彼は焦ったように話を遮った。
「殿下!」
「はぁ、わかっている。そう睨むな。休むさ、だから上には報告しないでくれ」
シーっとポーズをしたアルベルトに、ベアグリルスは大きな深いため息を返し「わかりました」と答えた。その答えに満足して、アルベルトは一人がけソファに座り直し腕を組んで目を閉じた。
「彼女と一緒のタイミングで起こしてくれ。一緒に夕食を食べる」
「はぁ、かしこまりました」
ベアグリルスはため息をついて返事をすると部屋を出ていった。もちろん、扉は開けっぱなしだ。
アルベルトは目を閉じても、完全に熟睡できる状態ではなかった。
本来、乗るはずだった列車が脱線事故を起こしたのだ。人為的だと言わざる負えない。命が狙われることは今までもあったが、今回は周りを巻き込むほどの事故だった。
市長が自慢げに話す図書館に興味が湧き、最終日の直前で予定を変更し寄ったことで難を逃れたのだが。
「ヴァレンティナ嬢もあの列車に乗る予定だった……」
2ヶ月前のあの時間の列車の乗車リストには、ツアー客が利用する予定だった。だが、自分の公務が入り込んだことで1ヶ月前に乗車時間が変更されて、ツアー客たちは一本後の列車に乗車する予定に変わっていた。
だがこの変更は公にされていない。変更を知って仕掛けたのか、知らずに仕掛けたのか。
うっすらと目を開けて、ソファへと目を向ける。規則正しく上下するブランケットに少し安心しつつも、しっかりと扉が開いている様子に、小さくため息が出てしまった。わかっているが信用されていない、なんて思いながらも。
「私たち二人が一緒にいることで何かわかるかもしれないね、ヴァレンティナ」
ずっと貴族社会から隔離されていた女性。どんな秘密があるんだろうかと、不謹慎にもアルベルトはワクワクしていた。
時間になってベアグリルスが起こしにくると、頭をフラフラさせながらもヴァレンティナは目覚めた。ぐーっと大きな腹時計を鳴らしつつも、その瞳はまだ開いていない。
「すごい音だね。ヴァレンティナ、起きてる?」
「おきてるぅ……お腹すいた……」
「殿下は、エスコートしないでください、記者に取られたら面倒なので」
エスコートしようと手を伸ばしたところでベアグリルスに遮られてしまった。
護衛もきてしまい、諦めて寝ぼけたままのヴァレンティナはベアグリルスのエスコートで一緒に下の階に移動した。ディナーに用意されたレストランには数人まだ人がいる。
客に扮した護衛が奥さんと楽しげに会話をしているが、ヴァレンティナに気づいて指を刺している様子に、ベアグリルスの目がほら言ったでしょと言わんばかりに見てきた。
「はぁ、部屋でとればよかったな」
「食べる場所はないですし、料理を運ぶ距離がありすぎます」
「わかってるよ」
思わず出た愚痴にベアグリルスが反論してきた。
椅子に着席した時には、ヴァレンティナもしっかり覚醒したらしく、目が泳いでいた。
「あの、夕飯って殿下とご一緒する形なんですか?」
「えぇ、その方が早いですし。私も一緒なので、言い訳はいくらでもつけられますから、安心して、ヴァレンティナ」
「ありがとう、ベアグリルス」
「二人は仲がいいな」
「「幼馴染ですから」」
「私も幼馴染だろう?」
アルベルトの問いかけに対して、二人は顔を見合わせて「どうする?」という感じで首を傾げる姿にデジャブを感じた。
「……」
「あ、料理が来ましたよ。殿下、わー五つ星ホテルの料理はおしゃれですね。写真機持ってくればよかった」
「殿下の奢りだから、飲み物も自由に頼んでいいよ。たとえば、一番高いワインとか」
「一番高いワイン!!」
「こらこら、一応経費として落とすんだからやめてくれ」
「経費で落とせない部分は殿下のお財布からですからね」
「……」
「そうなんだ……では、遠慮なくありがとうございます! ビンテージワインひとつボトルで!」
「おい!少しは遠慮後ろ」




