10)列車事故 欲深くミスをする
「うぅぅうう、もちろん欲しいですよ。散財してるので」
『おっし、じゃーそっちに王子さまが視察にいっててな、この事故で帰ってこれないらしい、そっちの役人にお前がいるって伝えておくから、仕事振られたらよろしくー』
「はぁ?! 無理ですよ!! まだツアーに参加してる状態なんですから! 途中離脱できるわけないって切れてるし!!!」
思わずホテルのロビーで叫んでしまった。
「あ、ヴァレンティナ様。大きな声が響いていたのでもしかしてと思ったら、ヴァレンティナ様どうされましたか?」
「あーー添乗員さーん。今職場に電話したところ、その、電車が止まった関係で、こっちにきている職場の関係者も帰れなくなったらしく、そのお仕事を手伝ってもらうかもと言われまして……」
「え?! ヴァレンティナ様のお仕事って……あー、なるほど、だからここなのか」
「?」
「それでしたら、振られた際には、私にお知らせください」
そうにこやかに添乗員はいうと、こっそりと耳打ちした。「お勤めは、王宮ですよね。本日このホテルにアルベルト殿下が宿泊されてるそうです、ではー」と和かに手を振って去ってしまった。
「え、うそ」
なんか混んでるなーって思ったのは警備の関係ですかね? もかして。
まークヨクヨ悩んでも仕方ないです、どうにもならないので。ということで、ヴァレンティナは気持ちを切り替えて、このままホテル内を散策を始めた。ついでに飲み物でも買えたら良いと思ったが、1階にあるエントランスのカフェを覗いたら街のカフェの相場よりも3倍の値段だったので諦め、部屋に備え付けの飲み物で我慢しようと決めた。
2階にはお土産コーナーに、宝石店とドレス店、やっぱり高級ホテルなので何かあった時のための店らしく、どれもお値段が素敵な価格だ。
こんなパーティードレス着てみたいな、なんて思いながらショーウィンドウを覗いていたら声をかけられた。
「あら、ヴァレンティナちゃん。あなたも散策中?」
「あ! キーシナ夫人! 旦那さんは一緒じゃないですか?」
「あー夫は仕事に呼ばれちゃったわ。ここだけの話、王子様がいらっしゃってるんですって、で、その警護に呼び出されたのによー。ついでに私服で目立たないからってー」
「わー、呼び出されるんですね。どうしよう、私も呼び出されるかもしれない」
「あら、ヴァレンティナちゃんも王宮関係者?」
「関係者というかー末端で働いてますね。事務官として」
「あら、意外。侍女や女官じゃないのね」
「あはははは」
思わず笑って誤魔化してしまう、まぁ、女性なら普通そっちの道を行くのが普通だ。でもそっちは5年以内に結婚しないと、お局呼ばわりされる上に売れ残りと揶揄されたり、男女の色恋沙汰やセクハラパワハラが酷いと先輩たちから聞いていたので選ばなかったのだ。
逆に、王宮の事務官にいった先輩から、バリキャリな女しかいないから、ある意味気が楽、ただし性格によると言われ、かつ「貴方なら平気そう」といわれたので選んだのだ。
「あら、噂をすれば、あれ王太子殿下じゃない?」
「え、本当だ」
キーシナ夫人の目線の先には、吹き抜けの一階にいる集団にむかっていた。その中心部に王太子殿下がいた。
こちらは、2階にるというのに、ヴァレンティナは思わずキーシナ夫人の後ろに隠れてしまった。
「あらあらーん? もっと近くで見なくて良いの?」
「いえ、今はいいです。まだ旅行を満喫したいので」
「おほほほ、そうよね〜」
「じゃ、私は一旦部屋に戻ります」
そういうとヴァレンティナは慌てて階段に向かった。
ふと視線を感じてみれば、一階からこちら側を見ている王子と目が合ったきがした。いやきっと話し声が下から見上げただけだろう。
ヴァレンティナは心の中で、いや、なんとなくなんですけどね。遊んでたのでちょっと気まずいというか、本当はこの時期って令嬢のみなさん、点数稼ぎの活動時期なのんですよね。なんて言い訳を紡ぎながら、廊下を走り抜けた。
階段を登っている最中に話し声がしたから響いてきた。
「それで、事故の原因はわかったか?」
「まだ正確な情報がきていないのですが、人為的に起きたものだそうです」
その言葉に思わず足を止めてしまった。ヴァレンティナは思わず手すりから身を乗り出して下をみれば、ゾロゾロと王子たち一行が登ってきていた。
「捜査本部は立ち上がったか?」
「はい、隣のホテルで準備しています。被害状況もわかってきています」
「そうか、人数は?」
「精一杯回している状況で……」
「殿下、王宮から一人事務官がここに滞在しているという情報がきています」
ヴァレンティナは、これはやばいと思って慌てて部屋に戻った。
旅行先で仕事なんてしたくない、断固したくない、何よりも今の格好は完全に浮かれた格好なのだ。
上は、ノースリーブなうえに胸元が大きく開いたフリルの襟で可愛いく、一応この国に戻った時に腕を軽く隠す程度で、丈の短い透け感のあるお飾りの上着。ウエストは、一人で着脱できるは柄の可愛いコルセット、スカートは真っ白な透け感のある生地が重ねたふわりと広がる。
何よりも、髪型が髪の毛もハーフアップで二つお団子にしている。これは魔道列車で椅子に寄りかかるためにそうしていたのだが、年齢的にちゃんと全部髪の毛を纏めろと言われてしまう。
「とりあえず、お買い物に行こう! 部屋にいなければ捕まらない! 外のカフェならお手頃価格の店があるはず」
カバンにお金と写真機、そして魔具草紙をつっこんで部屋を出たところで人にぶつかった。
「あっ、すいま…せぇ…ぇ」
「………………こんにちは、ヴァレンティナ嬢」
目の前に王子が立っていた。しかも何か呟いていたが聞こえず、この浮かれた格好について派手とか言われたのでは?! と焦ってしまったが故に失言をしてしまった。
「げ、殿下」
「げ?」
「おほほほ、なんでもないですわ〜」
「それより、こないだとは随分違う格好をしているね」
「えっと、その旅行中でして。まぁ、その……羽目を外していたと言いますか」
しどろもどろで答えながら周りを見るに、横に警護の男性二人と、後ろからひょっこり顔をだしたのは、側近のベアグリルスだった、ヴァレンティナは思わず手を伸ばして捕まえていた。
「ベアグリルス!!」
「わーヴァレンティナ今日の格好かわいいね! この間の茶会でもそういうかわいい服を着てくればよかったのに〜、似合うよ〜」
「あ〜〜〜ありがとう!! 口が上手くなったね!! 貴方もここにいたんだね!!」
アイコンタクトでどういうことかと必死に送るも、ベアグリルスは目線を泳がせて合わせようとせず、無理だと全力で拒否された。
「うんうん。殿下、睨まないでー。怖いよー。それで、ヴァレンティナに手伝って欲しいことがあるんだー」
「う……」
「ごめんねーお休み中に〜人手不足でさー」
「はぁ、ヴァレンティナ嬢、申し訳ないが着替えてきてくれ。その格好では、その胸元が」
「胸元……殿下ってむっちりすけべ?」
「……ほう? 大抵の男は胸が好きだが?」
「まぁまぁ、殿下落ち着いて。ヴァレンティナ、今から一緒に来てもらう場所は女性が少ないから、なるべく露出が少ない格好がいいかなって」
行きできた服が露出はこれよりは少ないといえば、少ないが、持ってきた服は全部、ワインや皿の緩衝材として包んで旅行カバンギッチギチに詰めているのであれを掘り返すなんてやりたくないし、あの服もあまり変わらないだろうと思ったら、つい声に出していた。
「ないです」
「「え」」
「これが一番露出が少ない服です。だって南国に行ってたんですから」
「そ、そっか。んーじゃー僕の上着を」
ベアグリルスが脱ぐ前に殿下が上着を脱いで、前から服を被せてしまった。
「あの、前後ろ逆なんですけど」
「とりあえず……上まできっちり着てほしい、後ろの護衛も困ると思うから」
ヴァレンティナは殿下の耳が真っ赤に染まっていることに気づいた。え、意外に初心?とか思ってしまったが、旅行で頭のネジが緩んでいたがこの国の貴族は貞淑さを美徳としているのだ。平民は特にそこまで厳しくないが、貴婦人はいろいろルールがある。
「不格好になる」
「ヴァレンティナ、僕の上着をきて、僕にはもう婚約者がいるからね」
「着ることは確定なんですね」
「おい、なんで」
「殿下、貴方の立場上、上着を着ていないなんてこと許されるものではありません。それに記者に見られたらどうするおつもりですか? しかも横に殿下の上着を着た女性がいる。勘違いされますよね? 少し調べられれば彼女は候補者の一人に名を連ねているとバレますよ。今は仕事として一緒に行動しますが、他の候補者たちは知らないのですよ?」
「う……」
「確かに。ベアグリルス、上着借りるわね」
「えぇ」
ベアグリルスの上着を借りて、殿下の上着を返すと何故か不服そうな顔をされてしまった。一旦部屋に入り、荷物は貴重品だけにして、貸してもらった上着を首元までしっかり着る。
「意外にブカブカだわ。やっぱりベアグリルスも男の人なんだー、胸元はちょっときついけど」
上着が白いため、そこまで変な格好には見えない。部屋を出れば殿下が待っていた。
「あ、すいません。お待たせいたしました」
「……着太りするタイプか」
ヴァレンティナはしっかりと殿下の呟きを拾ってしまった。王子様の仮面はどうした! と言いたかったが、ベアグリルスが走って戻ってきた、予備の上着を持ってきているあたり、さすがベアグリルスと思いながら一緒に殿下たちが使っている作戦会議室に連れて行かれた。




