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西伊豆物語  作者: Yama


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9/11

第9章「別れと誓い」

失って、初めて気づくものがある。

それは、自分にとってどれほど大切だったかということ。


けれど、人はそれでも前を向く。

その想いが、次の未来をつくると信じて——

朝、目覚めると、家の中が静かだった。


食卓の上には、昨夜のままの湯呑みがひとつ。

いつもは勝手に起きて、朝ごはんを作っていたベンちゃんの姿が、どこにもない。


悠馬はすぐにわかった。


「……行っちまったのか」



寝間着のまま、玄関を出る。

朝の風が頬を撫で、潮の香りが心を締めつける。


浜辺に降り立つと、そこには、小さな貝殻がひとつ。

それは、かつてベンちゃんが作った“お守り”の飾りだった。


悠馬はそれを手に取り、じっと海を見つめた。


「ありがとう。……本当に、ありがとうな」



それから数日。

町は祭りの余韻と、静けさに包まれていた。


悠馬はというと、以前にも増して忙しく動き回っていた。


新しい観光企画の打ち合わせ、漁協との地域振興計画、SNSでの情報発信も始めていた。


「おい椎名、スマホ触ってるのなんて珍しいな!」


「今時アナログじゃ、観光客呼べねぇからな。努力中だよ」



ふと、彼の背中を見た町の人が呟く。


「……あいつ、変わったな。なんか、顔つきが違う」



その日の夕方。

悠馬は岬の丘にひとり立っていた。


恋人岬。

あのとき鳴らせなかった鐘に、手をかける。


カン……カン……カン……


鐘の音が、海に響く。


「お前が居たから、俺は変われた。

あの日、海に沈んでいた俺を、もう一度引き上げてくれたのは……お前だった」


ポケットから、あの貝殻のお守りを取り出す。


「今度会えたら、ちゃんと言うからさ。

俺は、お前を……一生、忘れねぇよ」



そのとき、突風がふわりと吹いた。


耳元に、どこか懐かしい鈴の音のような風の響き。

悠馬は、ふと空を見上げる。


雲の切れ間から、光が差し込んでいた。


「……またな、ベンちゃん」



町に戻ると、子どもたちが金山イベントの続きをやっていた。


「悠馬おじちゃん!また宝探しやりたいー!」


「あぁ、次はもっとすげぇ仕掛け用意しとくからな。楽しみにしとけ」


笑顔で手を振りながら、悠馬は胸の奥にある温もりを抱きしめた。

愛した人が去っても、想いは残る。

その想いが、人を強くする。

そしていつか、その強さが——新たな奇跡を呼ぶのだろう。

※この物語の関連動画です。よろしければこちらにもお越しいただけましたら幸いです。

https://youtube.com/shorts/n11YJY7hT8g?feature=share


次回予告


次回、最終章 第10章「その日、海が輝いた」

季節は巡り、再び訪れる西伊豆の夏。

そして——浜辺で起こる、最後の奇跡。

悠馬とベンちゃんの物語、感動のフィナーレへ。


どうぞご期待ください!

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