第9章「別れと誓い」
失って、初めて気づくものがある。
それは、自分にとってどれほど大切だったかということ。
けれど、人はそれでも前を向く。
その想いが、次の未来をつくると信じて——
朝、目覚めると、家の中が静かだった。
食卓の上には、昨夜のままの湯呑みがひとつ。
いつもは勝手に起きて、朝ごはんを作っていたベンちゃんの姿が、どこにもない。
悠馬はすぐにわかった。
「……行っちまったのか」
—
寝間着のまま、玄関を出る。
朝の風が頬を撫で、潮の香りが心を締めつける。
浜辺に降り立つと、そこには、小さな貝殻がひとつ。
それは、かつてベンちゃんが作った“お守り”の飾りだった。
悠馬はそれを手に取り、じっと海を見つめた。
「ありがとう。……本当に、ありがとうな」
—
それから数日。
町は祭りの余韻と、静けさに包まれていた。
悠馬はというと、以前にも増して忙しく動き回っていた。
新しい観光企画の打ち合わせ、漁協との地域振興計画、SNSでの情報発信も始めていた。
「おい椎名、スマホ触ってるのなんて珍しいな!」
「今時アナログじゃ、観光客呼べねぇからな。努力中だよ」
—
ふと、彼の背中を見た町の人が呟く。
「……あいつ、変わったな。なんか、顔つきが違う」
—
その日の夕方。
悠馬は岬の丘にひとり立っていた。
恋人岬。
あのとき鳴らせなかった鐘に、手をかける。
カン……カン……カン……
鐘の音が、海に響く。
「お前が居たから、俺は変われた。
あの日、海に沈んでいた俺を、もう一度引き上げてくれたのは……お前だった」
ポケットから、あの貝殻のお守りを取り出す。
「今度会えたら、ちゃんと言うからさ。
俺は、お前を……一生、忘れねぇよ」
—
そのとき、突風がふわりと吹いた。
耳元に、どこか懐かしい鈴の音のような風の響き。
悠馬は、ふと空を見上げる。
雲の切れ間から、光が差し込んでいた。
「……またな、ベンちゃん」
—
町に戻ると、子どもたちが金山イベントの続きをやっていた。
「悠馬おじちゃん!また宝探しやりたいー!」
「あぁ、次はもっとすげぇ仕掛け用意しとくからな。楽しみにしとけ」
笑顔で手を振りながら、悠馬は胸の奥にある温もりを抱きしめた。
愛した人が去っても、想いは残る。
その想いが、人を強くする。
そしていつか、その強さが——新たな奇跡を呼ぶのだろう。
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次回予告
次回、最終章 第10章「その日、海が輝いた」
季節は巡り、再び訪れる西伊豆の夏。
そして——浜辺で起こる、最後の奇跡。
悠馬とベンちゃんの物語、感動のフィナーレへ。
どうぞご期待ください!




