第8章「祈りと再生の海の祭り」
祈りは、かたちを持たない。
けれど、人々が心をひとつにするとき、それは力になる。
そして、町はその祈りによって、再び息を吹き返す。
台風一過。
雲ひとつない空が、西伊豆の町を明るく照らしていた。
「……ほんとに、晴れたんだな」
悠馬は空を見上げて、そっと息を吐いた。
—
「海の祭り」は、予定どおり開催されることとなった。
それも、例年よりもはるかに大規模な形で。
堂ヶ島ではサンセット音楽クルーズが、土肥金山では黄金の宝探し・最終ステージが、
そして恋人岬では**“願いの花火”イベント**が控えていた。
—
町の人々が動き、観光客が集まり、笑い声が響く。
神輿が通り、子どもたちの手には金色の風車が回る。
悠馬も、町の案内役として走り回っていた。
「椎名さん!会場案内、もう一人頼めますか!」
「悠馬兄!宝探しの参加者、定員オーバーだよ!どーする!?」
「よし、落ち着け!一人ずつ整理券だ!急げ!」
—
そして夕方。
堂ヶ島の沖、船上では美しいピアノの音色が流れ、
赤く染まる海をバックに、人々が静かに聞き入っていた。
その隅で、悠馬はベンちゃんの姿を探していた。
(……どこだ)
ベンちゃんは、朝から姿を消していた。
—
恋人岬。
“願いの花火”イベントの会場に、悠馬はようやく彼女を見つけた。
真っ白なワンピースに、潮風になびく髪。
その姿は、まるでこの海そのもののように神々しかった。
「……来てくれたんだ」
「来ないわけないだろ。お前が立てた企画なんだからな」
ベンちゃんは、静かに笑った。
「……私ね、もうすぐ本当に戻らなきゃいけないみたい」
「……そうか」
「でも、この町の人たちの笑顔、悠馬の頑張り、全部見届けられてよかった。
私がやりたかったのは、こういう“繋がり”だったのかも」
—
花火が、一発、空に上がった。
大輪の光が夜空に咲く。
続いて、二発目、三発目——
悠馬は、ベンちゃんの手を取った。
「神様でもなんでもいい。
俺は、お前ともっと一緒に居たい。
これからも、ずっと西伊豆で、一緒に笑って、ケンカして、飯食って、そうやって……生きていきたい」
ベンちゃんの目に、涙が浮かんだ。
「それ、今さら告白?」
「……ああ、今さらだ」
「じゃあ、私からも。悠馬、大好きだよ」
—
その瞬間、空にひときわ大きな花火が咲いた。
それは、まるで二人の“願い”が形になったかのように、美しかった。
—
翌朝、ベンちゃんの姿は消えていた。
—
しかし悠馬は、不思議と悲しくなかった。
彼女がくれた笑顔とぬくもりが、町にも、自分の心にも、しっかり残っていたから。
別れは終わりではなく、始まりなのかもしれない。
誰かを想い、誰かと繋がる——
その温かさが、人の生きる力になる。
西伊豆の海は、今日も穏やかに、すべてを包んでいた。
次回予告
次回、第9章「別れと誓い」
ベンちゃんが姿を消した朝、悠馬はある決意を胸に歩き出す。
神と人との恋——それは本当に終わったのか?
再会の可能性、そして未来への一歩が描かれます。
※この物語を題材とした関連動画です。こちらも是非覗いていただけましたら、幸いです。
https://www.youtube.com/watch?v=ILAdiTUZJpA




