第6章「恋人岬、告白未遂」
恋人岬にある“愛の鐘”には、こう言い伝えられている。
「大切な人と一緒に3回鳴らすと、その恋は永遠になる」
けれど、人の想いは、言葉にしなければ届かない。
たった一言が、こんなにも難しい——
海に面した小高い丘の上にある、恋人岬。
観光地として有名なこの場所には、たくさんのカップルたちが訪れる。
この日、悠馬とベンちゃんもそこを訪れていた。
金山イベントの成功を祝う“打ち上げデート”——という名目だったが、
どこかぎこちない空気が流れていた。
—
「……風、気持ちいいね」
「……ああ」
視線が合っても、どちらもすぐに逸らす。
あれほど自然に笑い合っていたはずなのに、今日は妙にぎこちない。
—
展望台の先にある、“愛の鐘”。
カップルたちが順番に鐘を鳴らし、写真を撮っていく。
笑い声が響き、祝福のように風が吹く。
「ねえ、あれ鳴らしてみようよ」
ベンちゃんが言った。
「別に、そういう関係じゃ……」
「じゃあ、“願い事”で鳴らすってことでさ」
ベンちゃんは笑っていたが、その目の奥には、どこか寂しさがあった。
—
並んで鐘の前に立つ。
小さな台の上、足元に書かれた文字が目に入る。
「『この鐘を三度鳴らし、想いを伝えよ』……か」
「じゃ、せーの——」
カン……カン……カン……
鐘の音が西伊豆の海に響く。
沈黙。
潮の香りが、風に乗って流れてくる。
—
「悠馬」
ベンちゃんが、静かに言った。
「もしさ……私が、ずっとこのままここに居たら、迷惑?」
「……迷惑なわけ、ないだろ」
「じゃあ、もし私が……」
その先の言葉は、風に消えた。
悠馬は、拳を握りしめる。
(言え。言うんだ、今こそ)
「ベンちゃん……俺は、お前のこと——」
「やっほーい!写真撮ってくださーい!」
突然、若いカップルが駆け寄ってきた。
手にはスマホ、満面の笑み。
「すみません、今ちょっと……」
「あ、ごめんね~すぐ済むから!」
あっという間に鐘の前は賑やかに。
悠馬は言葉を飲み込み、ベンちゃんも黙って立ち去った。
—
帰り道。
車の中には、再び静寂が流れていた。
「……さっき、なんて言おうとしたの?」
「……大したことじゃないよ」
「そっか」
—
夜、寝室で布団に入っても、悠馬の胸は重かった。
(なんで……言えなかったんだ)
天井を見つめながら、小さくつぶやいた。
「……俺のバカ」
—
その言葉を、隣の部屋で聞いた者がいたことに、悠馬は気づいていなかった。
恋心は、時に臆病で、不器用だ。
けれど、そのもどかしさこそが、恋の醍醐味なのかもしれない。
あと一歩——その踏み出し方が、分からないだけ。
次回予告
次回、第7章「嵐ふたたび、女神の選択」
再び近づく台風。そして迫られる、神としての決断。
ベンちゃんの“本当の想い”が、明かされるとき——
物語は、静かに、そして激しく動き出します。
※関連動画です。https://youtu.be/6T5lKtNLJMo




