第5章「土肥金山の宝探しとすれ違い」
誰かが輝いて見えるとき、自分の影が濃くなることがある。
それは嫉妬でも、羨望でもなく——
ただ、置いていかれるような、静かな孤独。
悠馬の胸に、そんな思いが生まれはじめていた。
「宝を探せーっ!金塊はどこだーっ!」
土肥金山。
かつて日本有数の金鉱として栄えたこの場所は、今では観光地として知られている。
今年の祭りでは、ここで“金山トレジャーハント”という新しいイベントが開催されることになっていた。
その企画は、もちろんベンちゃんの発案だった。
—
「わー!これ、本当に金じゃないの!?」
「ねえ、ヒントもう一個ちょうだい!」
子どもたちはキラキラと目を輝かせ、宝探しマップを握りしめて金山を走り回っていた。
ベンちゃんは受付で「謎の案内人」として、変装までして応対していた。
麦わら帽子にサングラス、首にスカーフを巻いたその姿は、どこか陽気な“観光マダム風”。
「ようこそ~金の迷宮へ!発見者にはベンちゃん特製お守りプレゼントでーす!」
地元の親子連れ、観光客、高校生……
皆がベンちゃんの陽気さとアイデアに惹かれ、会場は大いに盛り上がっていた。
—
その様子を、悠馬は少し離れた場所から眺めていた。
「すっかり人気者だな……」
そう呟いたとき、近所の漁師仲間が声をかけてきた。
「なあ椎名。あのベンちゃんて子、何者なんだ?あんなに企画力あって、気配りできて、盛り上げ上手で……もしかして、東京から来た地域おこし協力隊とかか?」
「いや、まあ……ちょっと訳ありでな……」
曖昧に笑いながらも、心のどこかがざわついていた。
皆がベンちゃんを見ている。
楽しそうに笑う彼女の周りには、人が集まる。
それは誇らしいはずなのに、なぜか、自分だけが置いていかれているような——
—
夕方、イベントが終わり、片付けの最中。
ベンちゃんが手に軍手をはめて、悠馬の元にやって来た。
「ねえ、どうだった?成功だったでしょ!」
「……ああ、大盛況だったな。よくやったよ」
「……なにそれ。“よくやったよ”って、なんか他人事みたい」
「……」
「悠馬?」
「別に、なんでもない」
そう言って、悠馬は作業に戻った。
ベンちゃんは、少し寂しげに彼の背中を見つめていた。
—
その夜、家に帰っても二人の間には言葉が少なかった。
あれほど騒がしかった食卓も、今日は静かだった。
—
「ねえ、私……なにか、悪いことした?」
風呂上がり、ベンちゃんがぽつりと訊いた。
「……してない。お前は、すごいよ。
みんなに好かれて、笑って、楽しませて……俺なんかとは違う」
「違う、って……悠馬、何言ってんの?」
「……なんでもねぇよ。忘れてくれ」
—
静まり返った部屋に、波の音が遠く響いた。
二人の間に、目に見えない潮の流れが生まれていた。
人と人との距離は、見えない波のように揺れる。
近づいたと思えば、少し離れ、また戻ってくる。
それでも、その波の動きが、やがて“絆”を形づくるのかもしれない。
※関連動画です。https://youtu.be/AM4ksxozE0g
次回予告
次回、第6章「恋人岬、告白未遂」
関係が揺れる二人。
向かった先は“恋人岬”——願いが叶うと言われる岬の鐘を前に、
果たして悠馬は想いを伝えられるのか?
もどかしくも甘い、ふたりの距離感に注目です。




