第4章「堂ヶ島、二人きりの夕陽」
夕陽が海に沈む瞬間、すべての音が止まったように感じるときがある。
まるで時間が息をひそめ、空と海だけが語り合っているような——
そんな静けさの中で、人は心の奥にある声に気づく。
堂ヶ島。
切り立った断崖と奇岩、そして神秘的な青の洞窟で知られる西伊豆屈指の観光名所。
「うわーっ!これが“トンボロ現象”!?すごい、ほんとに道が現れてる!」
夕方前、干潮のタイミングを見計らって訪れたベンちゃんは、まるで子どものようにはしゃいでいた。
靴を脱ぎ、スカートの裾をたくし上げ、潮が引いた道を裸足で歩く。
「ベンちゃん、ちょっと落ち着けって……!」
「だって!見てよこれ、自然の奇跡だよ!?
しかも向こうの島、歩いて渡れるなんてロマンしかない!」
悠馬は苦笑しながらも、カメラを向けた。
シャッターの先には、海風に髪をなびかせる彼女の横顔。
太陽の光が彼女の輪郭を淡く染めて、まるで映画のワンシーンのようだった。
—
その後、クルーズ船に乗り込み、二人きりでサンセットクルーズへ。
「ほら見て!海の色が変わってきたよ」
ベンちゃんは船の先端に立ち、手を広げた。
夕陽が水平線に沈みかけ、空は朱から金へ、そして紫へと染まっていく。
「西伊豆の海って、こんなに綺麗だったんだね。毎日見てるのに、気づかなかった」
「……そうかもな。俺も漁でばっかり見てて、こんな風に景色として見たのは久しぶりだ」
静かに並んで立つ二人。
波の音と、船のエンジン音。
その隙間に、言葉にならない何かが流れていた。
—
「悠馬って、昔からここに住んでたの?」
「まあな。ガキの頃からずっと。親父が漁師で、その跡継いだ」
「他に夢とか、なかったの?」
「……夢、か。そうだな……あんまり考えたことなかったな。
でも、漁は嫌いじゃない。海に出て、魚を獲って、町の人たちに届けて……」
「ふふ、やっぱ悠馬って、ちゃんと“地に足ついてる”感じする」
「お前は?」
「ん?」
「神様って……夢とか、あるのか?」
ベンちゃんは、少しだけ黙った。
「あるよ。神様だって、誰かとちゃんと“繋がって”みたいって思う。
お願いごとを聞くだけじゃなくて、一緒に笑ったり、怒ったり、泣いたり……」
「……それって、恋じゃないのか?」
悠馬がそう呟いた瞬間、ベンちゃんは目を見開いた。
風がふわりと吹き、沈む夕陽が二人をオレンジ色に染めた。
「……かもね」
彼女は、小さく微笑んだ。
—
クルーズが港に戻る頃、空には最初の星が瞬いていた。
その夜、悠馬はなかなか眠れなかった。
同じ景色でも、誰かと見ると、違って見える。
その「違い」に気づいたとき、人は少しだけ、心を開くのかもしれない。
堂ヶ島の夕陽は、二人の距離をほんの少しだけ、近づけた。
次回予告
次回、第5章「土肥金山の宝探しとすれ違い」
祭りのイベント準備は順調……のはずが、
ベンちゃんの人気が急上昇!?
人の輪の中で、悠馬の心に小さなすきま風が吹き始める——。
次回もお楽しみに!
※次回投稿予定は、私の仕事の関係で土曜日を予定です。




