番外編②「浜の人情と女神様」〜町の人視点〜
椎名悠馬ってやつはな、昔から無口で、ちょっと不器用だったけど、
根っこは優しい男でな。
親父さんが亡くなって、漁を継いでからも、
朝早くから海に出て、文句も言わず、よくやってたよ。
でもな、あの頃の悠馬は、どこか、抜け殻みてぇだった。
—
そんなある日だ。
急に変わったんだ、あいつ。
会議ではしっかり意見を言うようになって、
観光の企画も持ってくるし、SNSだって始めやがった。
最初は「どうした椎名、悪いモンでも食ったか?」って笑ってたが、
ふと思ったんだ。
(……もしかして、女か?)
—
しばらくしてから、俺らの中で噂が立ち始めた。
「椎名の家に、誰か来とるらしいぞ」
「なんか見たことねぇ、綺麗な姉ちゃんが歩いとった」
「幽霊じゃねぇのか!?」
で、ある日、悠馬に聞いたんだ。
「お前さ、もしかして女……?」
そしたら、少し照れた顔してこう言った。
「まぁ……ちょっと、縁があってな」
——なんだそれ。説明になってねぇ。
—
でもな、あの女の人、町でもすっかり人気者になってな。
“ベンちゃん”ってあだ名で呼ばれて、
イベントの仕切りやら、観光案内までしてくれて。
見た目も中身も、どこかこの町に馴染んでてさ。
気づいたら、もう「居て当たり前」になってた。
—
……で、急に居なくなったときはな、正直、みんな寂しかったよ。
でもな、また戻ってきたんだ。
しれっと、普通に。
悠馬も何も言わねぇから、誰も突っ込まねぇけどな、
たぶんみんな、気づいてる。
(あれは、ちょっと……普通の女じゃねぇ)って。
でも、いいんだよ。
神様だろうが何だろうが、この町を愛してくれて、
悠馬を変えてくれた。——それだけで、もう充分だ。
—
最近じゃあ、“弁天通り”なんて小道までできちまった。
観光ポスターのモデルは、あの“姉ちゃん”だ。
西伊豆も、まだまだ捨てたもんじゃねぇな。
—
空を見上げると、今日も海が光ってる。
悠馬と、あの女神様が並んで歩いてる姿を見て、
みんな、なんとなく笑ってしまうんだ。
(……やっぱ、あいつら、お似合いだわ)
—
神様も、町の一員。
西伊豆ってのは、そういう場所なのさ。
これにて、『西伊豆物語』本編・エピローグ・番外編すべて完結となります。
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