番外編①「月下の告白」 〜ベンちゃん視点〜
神としての役目を果たす日々の中で、ふと見つけた一人の男。
朽ちかけた木のようで、それでも海に立ち続けていた。
椎名悠馬。
あの夜、彼が沈んでいく姿を見て——私は、神の規則を破った。
(人間に情を移してはならない)
(地上に留まりすぎてはならない)
そんな掟、あの時の私には、どうでもよかった。
彼を見ていたら、放っておけなかった。ただ、それだけだった。
—
一緒に暮らすようになって、
彼の生活は、想像以上に素朴で、無骨で、でも温かかった。
炊飯器の蓋を開けるときの真剣な顔。
漁の準備をする朝の背中。
イベントの準備で夜遅くまで資料を作っていたあの日。
彼の言葉は多くないけど、行動には全部、優しさが詰まっていた。
—
恋人岬で鐘を鳴らしたあの日。
彼が何か言いかけて、結局言えなかったその瞬間——
私はもう、完全に、彼に恋をしていた。
(ダメだよ、ベンちゃん。神様なのに、こんなに人間っぽくなっちゃって)
そう思いながらも、心のどこかでは、願っていた。
——ずっと、このままいられたら、と。
—
祭りの夜、彼の告白を聞いたとき、
私の時間は、一度、止まった。
「俺と、一緒に生きていきたい」
神様としてじゃなく、「一人の女」として愛される。
それがこんなに嬉しくて、苦しいものだなんて、知らなかった。
—
神界に戻ってからも、彼のことは忘れられなかった。
風に揺れる暖簾、浜辺の砂、あの家の縁側。
どこを見ても、彼のことばかり思い出す。
それでも、願いは届いた。
「もう一度、あの町で、人として生きたい」
その祈りが、神々に届いた。
—
だから私は今、再びこの町に立っている。
ベンちゃんではなく、
“椎名弁天”として——
—
そしてきっと、今度こそ言う。
「悠馬、大好きだよ。神じゃなくて、女として、あなたが好き」
—
この気持ちは、永遠に守りたい。
西伊豆の海のように、静かに、深く。
関連動画です。https://youtube.com/shorts/T0wm4aAxeEs?feature=share
番外編②「浜の人情と女神様」〜町の人視点〜




