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西伊豆物語  作者: Yama


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10/11

第10章「その日、海が輝いた」

想いは、時を越える。

言葉にできなかった心の声も、

姿を失ってしまった愛も——


きっと、海がすべてを包み、

ふたりを、再び引き合わせる日が来ると信じていた。

それは、ちょうど一年前の祭りの日と同じ日だった。

町は再び賑わい、観光客の数は去年の倍以上に増えていた。


堂ヶ島のクルーズ船も増便され、

土肥金山では金探しゲームの新エリアが追加され、

恋人岬にはカップルたちが列をなしていた。



「おい椎名、テレビの取材来るってよ!」


「マジか、こりゃこっちも身なり整えないと……あ、でも俺、今汗だくなんだけど……」


地元の若手たちと笑い合いながら、悠馬は町の中心で走り回っていた。



午後、ふと時間が空いた悠馬は、一人で浜辺に向かった。


日差しは強く、波の音は静かだった。


そのとき——


「……よう」


後ろから、聞き覚えのある、懐かしくて、優しい声がした。


振り返ると、そこには——

白いワンピースに身を包み、浜辺に立つベンちゃんの姿があった。


「……夢か?」


「夢だったら、触ってごらんよ」


悠馬は、恐る恐る手を伸ばす。

彼女の手は、温かかった。


「……本物……なんだよな……」


「うん。ただいま、悠馬」



それから、しばらく言葉が出なかった。


ようやく悠馬が口を開いた。


「……戻ってきたのか?神界のルールはどうしたんだよ」


「うん、少しだけね。“この町に、まだやることがある”って、お願いしてきたの。

そしたら、“あと一夏だけ”って、許してくれた。神様も、案外情が深いんだよ?」


悠馬は、顔をゆがめながらも、笑った。


「もう……お前ってやつは……」


「ほら、せっかく戻ってきたんだからさ、案内してよ。

西伊豆の今、一番キレイな場所」



二人は、堂ヶ島へ向かった。

サンセットクルーズに乗り、並んで船の先端に立つ。


「……今年も、海が輝いてるな」


「うん。悠馬が守ってきたからだよ。

町の人たちも、観光客も、子どもたちも……

この海があるから、繋がっていられる」



日が沈み、空がオレンジに染まる。


悠馬は、ポケットから小さな箱を取り出した。


「……何これ?」


「開けてみろよ」


中には、小さな真珠で作られた指輪。

それは、彼がひとつずつ浜辺で集めた貝と、地元の職人に頼んで作ってもらったものだった。


「お前が、もう一度来てくれる気がしてさ。……馬鹿みたいだろ」


「馬鹿じゃないよ」


ベンちゃんの目に、涙が浮かんだ。


「私もね、この町で生きてみたかった。

神様じゃなくて、“普通の女の子”として、悠馬と——」


「なら、これからだ」


「……え?」


「お前が神様だろうが幽霊だろうが妖怪だろうが関係ねぇ。

西伊豆の未来に、俺はお前と一緒に居たい。

……俺と、結婚してくれ」



ベンちゃんは、泣きながら笑った。


「いいよ。

こっちの世界で、ちゃんと“人間”として生きていく。

悠馬と一緒なら、きっとできる気がする」



船の上、ふたりの影が寄り添う。

空には星が瞬き、海は金色の光を反射して——


その日、海が本当に、輝いていた。

“神様と人間”という枠を超えて、

ひとつの恋が、ふたりの決意が、町を変え、未来を照らした。


この物語は終わる。

だが、西伊豆の海は、これからも静かに輝き続けるだろう。


【完】


『西伊豆物語』


エピローグ(後日談)

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