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第8話「米騒動」


 俺は商店街の通りを、逃げ惑う人々に対して逆走しながら、炎の上がっている方向へと向って行った。


 そこで、俺が目にしたのは、黒い服面に、防災ジャケットのようなものを着て、さらに銃などの武器で武装した集団が、商店に並ぶ野菜や肉、米、総菜などといったありとあらゆる食料品をかき集めている光景だった。



「ひゃっはーっ!!大量っ!大量っ!!」


「ここの商店街に並ぶ店の食料品、根こそぎ奪っちまえっ!!」


「んで、売れる商品は貧乏人共に転売して大儲けだっ!!ヒャッハーッ!!」



 うん、どこからどう見てもクズな連中だな。

 同情の余地無し、やってヨシ!



「おい、お前ら」



 しかし、俺も鬼じゃないので、連中が素直に謝れるんなら、多少は手心を加えてやっても、



「あぁっ!?んだてめぇっ!?」


「ガキが舐めた口ききやがって、()()()ぞ!?」



 と、連中がいきなり俺に「くらす(殴る)」と言いながら銃を向けてきたので、俺は一切の手心を加えることなく殲滅することに決めた。



「『雷鎧武装エレキアーマー』」



 全身に雷をまとうと、その瞬間、俺の体感で周囲の時の流れがゆっくりとなる。


 そうして、俺は一人ずつ、その顔面を殴り飛ばしていく。

 音よりも早く動いているため、武装集団の声は聞こえない。

 だが、突然仲間達が吹き飛ばされていくのを見て、パニックになっているのが雰囲気で分かった。


 ここより少し離れた場所にいた連中が、異変に気付いて、銃を構えていくのが見えた。

 だが、高速で動く俺の姿が見えるわけもなく、連中は狙いを何処に定めていいかも分からず、ただ右往左往しているだけだった。



 そうして、俺が現場に来てから時間にしてわずかに数秒で、商店街を襲った武装集団は全滅していた。



「ふぅ…、さすがに精霊術の概念が無いこの世界で()()()を相手に、雷の精霊術で無双するのはやり過ぎたな…」



 というか、警察が駆け付ける前に退散しないと、下手したら俺もしょっぴかれるかもしれん。

 大臣の息子が武装集団を相手に大立ち回りなんて、マスコミがこぞって根掘り葉掘りあること無いこと書き散らして、大事になりかねん。



 というわけで、ここから立ち去ろうとしたところで、背後に人の気配を感じたため振り返ると、そこには…、



「おっと!動くなよ!?この女がどうなってもいいのか!?」


陽火はるひ…っ!?」


「ご、ごめんなさい…、お兄ちゃん…っ!」



 そこには、集団のボスっぽい雰囲気をかもし出すやたらとガタイのいい男が、右腕に陽火はるひを捕まえ、左手に持ったマシンガンを陽火はるひに突き付けているのが見えた。



「な…、なんで陽火はるひが…!?」


「ごめんなさい…!あたし、お兄ちゃんが心配で、追いかけて来て…、そしたら…、」


「ちょうど、ここら一帯に残りの爆弾を仕掛け終えて帰って来た俺と出会でくわした、ってわけだ」



 なるほど、この男に見覚えが無いのはそのせいか…

 くそ、まさか別で動いている奴がいたとはな…



「それより、てめぇ…、一体何をしやがった?見たところ一人みてぇだが…、てめぇのようなガキが一人で武器を持った連中を一瞬で叩きのめした、ってのか…?冗談だろ…?」



 男は人質を取っているせいか、この状況を見て、驚愕してはいるが、余裕のある表情を見せている。

 やれやれ、とんだ素人だな…


 この状況で奴がすべきは、人質を殺し、その怒りで冷静さを失った俺を殺すか、そもそも人質など取らず、不意を付いて俺を殺しておくべきだったのだ。


 こんな悠長に話をしている場合では無いハズなのだ。



 第一、俺がこの場に一人だと決め付けるのも悪手だ。

 俺が武装集団にまだ仲間がいたことを知らなかったように、この場には俺以外にもう一人、頼れる妹がいるのだ。



「炎の精よ、集いて我が力となり、敵を貫けっ!『ファイヤーランス』っ!!」


「うぎゃあああああああああああっ!?!?」



 そこへ現れた月火つきひが、精霊術で作り出した炎の槍で、マシンガンを持つ男の左肩を貫いたのだ。

 炎の槍で肩を貫かれた男は、血飛沫ちしぶきと叫び声をあげながら、その場に崩れ落ちた。



陽火はるひっ!!」


「お兄ちゃんっ!!」



 俺は解放された陽火はるひの元に駆け寄り、震える陽火はるひを抱きしめた。



「やれやれ…、素人のくせにマシンガンなんて()()を持ち出して何がしたかったのかしら?ごっこ遊びがしたかったのなら、幼稚園から人生をやり直してくればよいのですわ」



 そこへ、月火つきひが呆れた表情を見せながら、俺達の元へとやって来た。



「まぁまぁ、そう言うなって月火つきひ、そのおかげで陽火はるひがこうして無事やったんやけ、結果オーライっちゃ」


「ですわね…

 それよりも陽火はるひさん、お怪我はありませんか?わたくしの足が遅いばかりに陽火はるひさんに怖い思いをさせてしまって…、本当に申し訳ありませんでした……」


「ううん、月火つきひちゃんは悪くないっちゃん…、あたしが勝手に飛び出しただけやけん…」


「まぁ、陽火はるひは子供の頃から足速いもんな、月火つきひが追い付けんでも仕方無いっちゃん」


「わたくしも、それなりに運動神経には自信があるのですけど…、陽火はるひさんの先程の走力は、まるで空気抵抗を無視でもしているかのごとく、とんでもない速さでしたわ…

 それだけお兄様のことが心配だったのか、あるいは…、」


「っと、のんびりしとー場合やないっちゃん!月火つきひが倒した男が言っちょったけど、この辺に爆弾を仕掛けたって!」


「爆弾ですか…、また厄介なものを…」


「どどどっ、どうすると!?お兄ちゃん、月火つきひちゃんっ!?」

 

「一番手っ取り早いのは、男に爆弾を解除させることやけど…、」


「…どうやら気絶しているようですわね」



 月火つきひに肩を炎の槍で貫かれて、その痛みと皮膚が燃える熱さから、男は気絶してしまったようだ。



「まったく…、あの程度の傷で気絶するなど…、本当に情けない男ですわね、失禁までして!」


「いや、月火つきひちゃん、さすがにそれは…、」


「失禁…、そうか、この辺一帯に水をばら撒けば、爆弾も湿気しけって起動しなくなるんやないと?」



 俺の意見に、月火つきひは「なるほど」と頷くが、同時にこう言った。



「しかし、その水はどうやって?

 水の精霊術が使えれば可能でしょうけど、今のわたくし達では…、」


「それが、今の俺なら使えるんだな、これが…!」



 そう言って俺は、つい今しがた、陽火はるひを抱きしめた時に、陽火はるひの中から出てきた、濃い青色に輝く二つ目の“精霊石の欠片”を、月火つきひに見せた。



「それは…、まさか…!?」


「ああ…!おあつらえ向きに、水の精霊術を扱うための、“精霊石の欠片”だ!」



 俺はそう叫ぶと、その“精霊石の欠片”を握り締めて、水の精霊術の詠唱を始めた。



「水の精よ、集いて我が力となり、周囲を満たし、味方を癒せっ!『スプラッシュヒール』っ!!」



 すると、俺の掌から、商店街一帯に水のシャワーが降り注いだ。

 これは、味方のみを対象とした全体回復系の精霊術で、この水を浴びた味方の傷や体力を回復させる効果がある。

 当然、敵にはその効果は発動せず、単なる水飛沫が身体にかかるだけとなる。


 この術によって、燃えていた商店街の建物の火が消え、同時に仕掛けられているだろう爆弾も着火することなく、事態は終息した。



「ふぅ…、こんなもんかな?」


「す、すごい、お兄ちゃん…!」


「さすがですわ、お兄様!」


「いや、別に大したことはしとらんし…、というか、早いとここっから退散しよう!警察が来る前に、この場から離れんと!」


「何故ですの?お兄様の活躍を世間の皆様に知らしめなければ、」


「この世界には精霊術なんてもんは存在せんから、逆に、未知の力を使う俺達はコイツら(武装集団)よりも危険で怪しい人間だって思われかねんっちゃん!」


「むむ…、それは困りますわね…

 では、少し名残惜しくはありますが、さっさとお兄様達の家に戻りましょう!」



 ということで、俺達は警察が駆け付けて来る前に、柳町やなぎまち商店街を後にするのだった。



「……あたしも、精霊術を使えたら………」



 と、その帰る途中で、陽火はるひがポツリとそんなことをつぶやくのが聞こえた…




 

 家に帰ると、早速夕方のニュースで、先程の武装集団による柳町やなぎまち商店街を襲った米騒動の一件が報道されていた。

 米騒動と言っても、米屋だけが狙われたわけではなく、厳密には食料品強盗と言った方が正しいのだろうが、マスコミはキャッチャーな表現を殊更ことさらに好むため、最近、九州国の各地で起きているこれらの強盗事件のことを、米騒動と呼んでいる。


 それはともかく、ニュースでは、武装集団が何故か集団で感電した状態で倒れており、商店街一帯だけが、雨でも降ったかのように何故かびしょ濡れになっていた、という報道がされていて、俺達のことや、リーダーの男が肩を貫かれた上で火傷を負っていたことなどは報道されなかった。


 解説者などの話によれば、最初に使われた爆弾で、いくつかの電線が切れ、そこに局所的な大雨が突然降ったことで、雨に触れた電線から漏電し、武装集団はそれによって感電したのでは無いか、ということだった。

 …まぁ、普通に考えてあり得ない説だが、この世界において精霊術が知られていない以上、不可能な事象を取り除いていって、後に残った事象が、例えどんなに信じ難いことであったとしても、それが真実である、というかの名探偵シャーロック・ホームズ氏の言葉を借りるまでもなく、そういう結論に達せざるを得ないだろう。



 何にせよ、今回の騒動における死者がゼロだったことだけが救いだろう。



「これも、お兄様のおかげですわね」


「まぁ、結果だけを見ればな。あの後、連中の仕掛けた爆弾が起動しとったら、商店街は壊滅状態やったろうけんな…」


「でも!お兄ちゃんは一般市民なんやけん、無茶せんでよね!?」



 と、陽火はるひからはこっひどく叱られた。

 確かに、前世では世界を救った英雄だったかもしれないが、今の俺は単なる一般人だ。

 かつての記憶を取り戻し、力も一部取り戻したからと、少々調子に乗っていたことは否定出来ない。


 だから、かつての俺の力を知らない陽火はるひが、武装集団を相手にする俺の事を心配してくれたのも無理は無い。



「まぁまぁ、陽火はるひさん、お兄様があの程度の武器(玩具)で遊んでいるような連中に遅れをとるわけがありませんわ」



 一方、月火つきひは、かつての俺の力を知っているだけに、あの程度の、武器の扱いもろくに知らないような武装集団(素人連中)を相手に、俺が負けるハズが無いと無条件に信じてくれているわけだ。

 まぁ、実際にその通りではあるのだが、やはり陽火はるひとしては納得いかないというのが事実だろう。



「でもでも!危ない事はせんでっ!!お兄ちゃんが十分強いことは分かったけど……」


「ああ、ごめんな、陽火はるひ。やけど…、多分これから俺はもっと厄介な事に巻き込まれるのは間違いないやろうけん、確約は出来んな…」


「それは……、」



 何せ、スターラ様曰く、俺はこれから数多あまた並行世界パラレルワールドを巡り、そこに、俺と同じく転生した前世の妹達と再会して世界を繋げ、最終的に世界を救う救世主とやらにならなければならないらしいのだ。


 となれば、今後、その世界を救うための、何かしらの危険な騒動に巻き込まれる可能性がある、ということになる。



「やけど…、あたしはお兄ちゃんのことが……、」



 と、普段はこれでもかというくらい、俺に対して塩対応な態度を取ってきた妹が、今にも泣き出しそうな表情で、俺を心配そうに見つめてくるのだ。



「それでしたら、」


『だったら、陽火はるひちゃんも戦う力を手に入れればいいんだYO!』



 そこへ、月火つきひのセリフを遮って、俺達の前に姿を現したのは、くだんの女神、スターラ様だった。



「スターラ様…、何か用ですか?今、月火つきひが何か大事な事を言おうとしてたんですが…」


『おっと!それは失敬失敬!でも、月火つきひちゃんも、私と同じ事を言おうとしてたよね!?』



 と、スターラ様が月火つきひに振ると、「…ええ、」と苦虫を噛み潰したような表情でそう答えてから、こう続けた。



「これは、あくまでもわたくしの予想ですが、陽火はるひさんには少なくとも、風の精霊術を使える適正がありそうだと感じましたの」


「えっ!?」


「つ、月火つきひちゃん、それ本当っ!?」



 月火つきひのその発言に、陽火はるひが全身を乗り出して、月火つきひに詰め寄った。



「え、ええ…、あくまで予想と言いますか、勘と言いますか……、陽火はるひさんが先程見せた、あの空気抵抗を無視したかのような足の速さの理由ですが、あれは単なる運動神経の良さとか、火事場の馬鹿力とか、そういったレベルでは無く、()()()()()()()()()()()()()()のではないか、と…」



 月火つきひのその推測に、スターラ様がこう答えた。



『ピンポンピンポーン!大正解(せいかーい)っ!!パチパチパチー!確かに、陽火はるひちゃんには、“風の精霊術師”としての才能があるし、もっと言えば、精霊術以外の能力とかが眠ってたりするんだよねー!』


「な…っ、」


「なんですってー!?」



 俺と月火つきひは同時に驚きの声をあげるのだった。

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