プロローグ
*
俺は夢を見ていた。
――うわぁああああああっ!?!?
――きゃぁああああああっ!?!?
――マコトっ!!モトカぁあああああっ!!
目の前で、魔人に殺される双子の少女。
俺は二人を助けようと手を伸ばしたが届かず、二人の命が目の前で散らされていくのを、見ることしか出来なかった…
――…兄さん、後は…、任せたよ…っ!
――ボク達の世界を…、守って、兄ちゃん……っ!
――マコト…っ!!モトカぁあああ…っ!!
俺は…、彼女達を、双子の妹達を救うことが出来なかった……
*
『はい!お疲れ様っ!』
突然、聞き慣れない少女の声、いや、いい加減聞き飽きた少女の声で強制的に目を覚まさせられた俺、天星陽人。
『酷いなー、もう!もうすぐ次の並行世界に着くから、その世界における君の前世の記憶をはっきりと思い出させてあげようと思ったのに〜!』
「…余計なお世話だよ……」
おかげで、目覚めは最悪だ…
いや、厳密にはまだ俺は起きてはいない。
ここは、夢と現実の狭間のような空間だ。
目の前に浮かぶ、やたらと露出度の高い服を着た、頭の上に漫画とかでよく見る天使の輪っかが乗った巨乳の美少女、【転生の女神】スターラ様は、悪びれる風も無く、こう続けた。
『まぁ、確かに〜?妹ちゃん達を魔人に殺された夢を見た後じゃ気分は悪いよね〜…、っとと、ゴメン、ゴメンて!悪かったってば〜!だから、精霊術で攻撃しようとするの止めて〜!?』
「……、はぁ…、まぁ、いい。それより、次に俺達が向かう世界は…、」
『そう!“ワールドサルミリア”、魔法科学の発展した世界、そこで君は、転生した前世の双子の妹ちゃん達と再会し、彼女達の魂に眠る“精霊石の欠片”を回収することが、その世界で君達に課せられたミッションだよ!』
俺は、どうやら転生者らしい。
それも、何度も何度も、いくつもの世界、並行世界を股にかけて転生を繰り返してきている、筋金入りの転生者だ。
そして、現世の俺は、かつての妹達と再会するために、いくつもの並行世界を旅する冒険に出ることとなった。
その目的は、前世の妹達の魂に宿る“精霊石の欠片”を集め、集まったそれらから“太陽の精霊石”と呼ばれる、全属性の精霊術を扱うための特別な“精霊石”を復活させること。
そして、その復活した“太陽の精霊石”をもって、来たる災厄の日に備えるのだ、という。
“精霊石の欠片”は、全部で八つ、それぞれ、炎、水、氷、雷、風、土、草、木の属性を持つ。
そして、妹達の人数は、前世の妹が七人と、現世の妹である天星陽火を含めて、全部で八人。
ちょうど妹の数と、精霊力の属性の数が同じというわけだ。
現在、集まった“精霊石の欠片”は二つ。
まず一つは、前世の妹、天海月火の魂から回収した雷の精霊力を宿した欠片。
もう一つが、陽火の魂から回収した水の精霊力を宿した欠片。
「じゃあ、次の世界では、二つの“精霊石の欠片”を回収出来るわけだな?」
『ま、そういうことだね!
…と、そろそろだね。次、君が目覚めたら、そこは“ワールドサルミリア”、かつて君が後悔し、涙しながらも、妹ちゃん達の意思を繋いで、世界の平和を未来の人々に託した世界だよ』
「今度は、余計なサブミッションは付いてこないんですよね…?」
俺の元いた世界“ワールドアクア”では、並行世界からやって来たという亜人種、“鬼人”が暗躍していて、その企みを阻止するために陽火や月火と共に戦った。
俺はそのことを踏まえた上で、本当に妹達を探し出して、再会するだけでいいのか、と尋ねたのだ。
すると、スターラ様は嫌らしい笑みを浮かべながら、こう答えた。
『さぁ?それはどうかな?』
「何…!?」
『あくまでも、ミッションは君の前世の妹、…そうだね、出血大サービスで二人の現世における名前を教えたげるけど、前世のマコトちゃんこと“天美陽良”ちゃん、前世のモトカちゃんこと“天美月良”ちゃんを見つけ出し、再会することだよ。
その過程において巻き起こる事件に関しては、そのミッションの内に含まれていると、私は解釈しているけどね』
「それって…、つまり、またここでも何か事件が起こるってことじゃねぇか…」
『それこそ、神のみぞ知る、ってね♪んじゃ、“ワールドサルミリア”へ行ってらっしゃーい!』
すると、俺の意識が再び遠のき、スターラ様の姿が見えなくなっていった……
*
「…ぃさま!、お兄様っ!」
「お兄ちゃん、起きて!」
二人の妹の声で、俺は目を覚ました。
「ん…?ああ、おはよう、月火、陽火…」
「おはようございます、お兄様♪」
「それより、お兄ちゃん!外見て、外っ!」
陽火に言われた通り、俺はベッドから降りると、カーテンを開けて、窓の外を見た。
「これは…っ!」
窓の外に広がっていた世界は、まさしく…!
「……俺達のいた世界だな」
「でしょ?」
目の前に広がっていたのは、俺や陽火のいた世界と、寸分変わらぬ見た目の世界だった。
俺達は、スターラ様の計らいで、父さんと母さんも含めた家ごと、『異世界転移』することになった。
だが、少なくとも、今目の前に見える風景は、俺の現世における世界と全く同じように見えていた。
「…ねぇ、本当にあたし達、並行世界にやって来たと?」
「ん〜…、分からん。
だが、スターラ様は確かに、次起きたら“ワールドサルミリア”と言っとったけんな〜…」
「まぁ、あくまでも風景が元の世界に似ているというだけなのでは?わたくしの世界も、部分的にお兄様達の世界と似ていた場所はありましたし、地名などの呼び方もほぼ同じでしたから」
月火の言う通りだ。
俺の前世の記憶にある並行世界は、どの世界においても、言葉や文字は共通していたし、地名なんかもほとんど同じだった。
ただ、住んでいる人種が違ったり、歩んで来た歴史や、常識なんかが微妙に異なるというだけの世界だった。
だから、窓から見た風景が同じだからといって、元の世界だということにはならないハズだ。
「おーい!!陽人!陽火!月火ちゃん!下に降りて来ーい!」
と、その時、一階から父さんの声が聞こえてきたので、俺達三人は呼ばれるがままに、一階のリビングへとやって来た。
リビングには、すでに着替えを済ませた父さんと母さんが、テレビを見ていた。
俺達は、挨拶もそこそこに、リビングのテーブル席に着くと、母さんがこう言った。
「三人とも、ほら見て!TVのニュース!」
言われるがままに、俺達がテレビへと視線を向けると、朝の情報番組をやっていて、アナウンサーがニュースを読み上げているところだった。
『…続いてのニュースは、昨日、洞海湾に現れた魔獣“イカゲッソー”に関する情報です……』
魔獣という単語が出てきたことで、この世界は間違い無く、俺達の元いた世界ではないことは確実となった。
「魔獣だとよ!」
「私達、本当に並行世界に来たのね〜」
父さんと母さんは何処か他人事のように、のほほんとしている。
一方、月火は、厳しい目線を向けながら、こう呟いた。
「この世界にも、魔獣が存在しているんですのね…!」
月火のいた世界、“ワールドフラワレス”には、“魔獣”や“魔生物”といった魔術を扱う生物が存在した。
魔獣は、元々“ワールドフラワレス”には存在していなかったのだが、別の並行世界からの侵略者、魔人種達との戦争の影響で、大気中に残存魔力、“マナ”が含まれるようになった。
それらマナが気流などによって一地点に集まり、一定量以上のマナが貯まることで発生する現象を“マナプール”と呼び、そこからさらに気温や気圧、湿度など様々な影響が重なることで、この“マナプール”から魔獣が自然発生するようになった。
だから、この世界でも同じようなことが起きているのだろう。
少なくとも、俺の前世の時はそういう事象は確認されていなかったハズだから、俺の死後でそういう環境の変化があったのだろう。
などと考えている間にも、テレビのアナウンサーによるニュースの読み上げは続いていく。
『……それに対して、民間魔法師組織“ダブルナイン”は、“魔法戦姫マジピュリー部隊”の派遣を行い、直ちにその鎮圧に成功致しました』
「「「“マジピュリー部隊”?」」」
聞き慣れない単語に俺達が疑問符を浮かべていると、テレビの画面には、赤と青と黄色、そして白い、見るからに魔法少女な衣装を身に纏った少女達が現れ、イカの怪物(こいつが魔獣イカゲッソーだろう)と戦っている映像が映し出された。
「わっ!魔法少女だ!!」
「あらあら!なんと可愛らしい!」
陽火と月火が、画面に現れた魔法少女の姿に釘付けになる。
俺もまた二人と同じように釘付けになっていたが、理由は少し違った…
「まさか、あれは…?」
目の前で戦う魔法少女達の一人、黄色い衣装を身に纏った少女に、見覚えがあった。
いや、正確には彼女のことは初めて見るのだが、一目見て感じたのだ。
この感じは……!
そんな俺の疑問に答えるかのように、映像の最後で、四人の上半身がアップとなった写真が差し込まれた。
『…今回もまた、彼女達マジピュリーによって福岡の平和は守られました。改めて、マジピュリーレッド、マジピュリーブルー、マジピュリーホワイト、そしてマジピュリースカイの四人の活躍に…、』
「やっぱりっ!!マコトだっ!!」
黄色い衣装の魔法少女、“マジピュリースカイ”の写真を見て、俺は確信して、思わず叫んでしまった。
「え、お兄ちゃん!?」
「マコトって…、まさか、あの方が…?」
「ああ、間違い無い!
マジピュリースカイ、彼女が俺の前世の妹、双子の姉の方のマコトだ!!」
思いがけない形で、前世の妹、双子姉妹の姉の方、マコトこと天美陽良に出会うのだった。