第14話「最後の晩餐、そして次の並行世界へ」
*
「風の精よ、集いて我が力となり、敵を射てっ!『ウィンドアロー』!」
突如放たれた風の矢が、俺と“雷化”して戦っていた鳩破の胴体を貫いた。
『かは…ッ!?な…、何…、が……ッ!?』
「な、何っ!?」
「え…っ!?鳩破!?それに、お兄様っ!?」
胴体を貫かれた鳩破は口から血を吐き出しながら驚愕の表情を浮かべていたが、それは俺や、そして少し前からこの場に来ていた月火にとっても同じことで、一瞬何が起きたのか分からなかった。
(今の攻撃は風の精霊術によるもの…、ということは、まさか今のは陽火がやったのか…!?)
(ですが…、目に見えない程の速さで動く二人の動きを正確に捉え、鳩破だけを狙い撃ちにするなんて、一体どうやって…!?)
((いや、今はそれよりも…!))
口には出さなくとも、俺と月火は同じ事を考えているのが分かった。
俺と月火は視線だけで合図し、頷き合うと、ほぼ同時に中級クラスの精霊術の詠唱を始めた。
「百の雷精よ、集い来たりて我に力を与えよ!そして、彼の敵をその雷で貫けっ!『エレキジャベリン』っ!!」
「百の炎精よ、集い来たりて我に力を与えよ!そして、彼の敵をその炎で貫けっ!『ファイヤージャベリン』っ!!」
俺と月火は、雷の槍と炎の槍を精霊術で作り出し、傷口が再生し始めていた鳩破めがけて投擲した。
『グギャァアアアアアアアアアアアッ!?!?!?』
俺達の攻撃は、鳩破の頭と心臓を貫いた。
『あ…、ガ…、こんな……、バカな……ッ!?』
鳩破は、信じられないという表情を浮かべながら、全身を雷と炎の槍で焼き尽くされながら、今度こそ完全に消滅していった。
『陰魂回収』によって回収した魂の量が想定より少なかったのと、先程俺が放った上級クラスの精霊術『エレキパニッシュメント』で、残機を削っていたのが功を奏したわけだ。
「や、やった!勝っ…、………」
その時、ついさっき風の精霊術を放ったと思しき、この戦いの功労者でもある陽火が、突然電池が切れたかのように、ばたりとその場に倒れ込んだ。
「陽火っ!?」
「陽火さんっ!?」
俺と月火は慌てて陽火の元に駆け寄った。
「息はあるようですわね。ですが、かなり荒いですわ…!」
「凄い汗だ…!それに、体温も高い、熱があるのか…!?」
『あー、それは能力の反動だね〜』
と、そこへ、例の殴りたくなるような呑気な口調で話す女神様の声が聞こえてきた。
『ちょっ!ひどーい!暴力はんたーい!これでも私、か弱い女の子なんだぞ♪』
振り向けば、そこには予想通り、薄っすらと透けたスターラ様の姿があった。
俺はそんなスターラ様に対し、ため息をつきながらこう答えた。
「世の中男女平等だからな」
『男女平等はんたーい!そこは男女公平にしなきゃ!遺伝子的に異なる生物が、常に平等でいられる社会なんて、それ自体が不公平!出来る出来ないを明確にして、互いが納得し、互いに利益を得られる公平な社会の実現こそが、真に理想的な人類社会の構築となるのである!by【転生の女神】スターラ』
「言ってる事は立派ですけど、女神様が仰ると凄く胡散臭く感じますわね…」
『月火ちゃんまで酷いな〜…、まぁ、美少女からそういう目で見られるのも、なんか背徳感あって、ゾクゾクするねぇ〜…!』
相変わらずぶっ飛んでるな、この女神様は…
いや、今はそれよりも、この人には色々と聞かなきゃいけないことがある。
『ああ、“天使属”とか“悪魔属”のことよね?それより先に、今の陽火ちゃんの状態を知りたいかな?』
そして、やはり相変わらずと言うか、こちらの考えを全て見通しているスターラ様。
こういう所は、やはり彼女が神様である所以、といったところか…
『よせやい、そんなに褒めて照れるじゃんか〜♪そんなに褒めたって何も出ないぞ?あ、おっぱいなら出せるけど見る?』
そう言って、徐ろに胸元を開けて、本当に胸を出そうとしてきたから、俺は慌てて止めた。
何故なら…、
「それは遠慮しとくわ…」
『え〜?遠慮すんなよ〜?本当は見たいんだろ、童貞く〜ん?』
「スターラ様?」
何故なら、月火のオーラで、周囲の気温が氷点下近くまで下がっていたからだ。
『あ……、うん…、ごめんね、月火ちゃん、調子に乗り過ぎました…、はい……』
「それよりも…、スターラ様は先程陽火さんに、新たなチート能力が覚醒する云々と仰ったようですが、陽火さんは大丈夫なんですよね?」
「何!?新たなチート能力!?陽火に!?」
陽火には、いくつかのチート能力が眠っているらしい。
それというのも、本来俺に与えるべきだった、所謂“転生特典”というやつを、間違って双子である陽火に与えてしまったからだという。
そして、そのチート能力と思われる一つ目の力が、“精霊力のオーバーフロー”で、通常の精霊術師よりも、遥かに多くの精霊力を収束し、通常ではあり得ない威力の精霊術を発動出来るという力。
その力のせいだろう、先程鳩破に対して放った初級の精霊術である『ウィンドアロー』が、胴を貫く程のとんでもない威力になっていた(あれでも力を抑えていたつもりらしく、本気でやれば鳩破が吹き飛んでいたかもしれない、とのこと…)。
『そうそう!その名もずばり『超感覚』っ!!所謂“超能力”の一種だね』
「「超能力!?」」
スターラ様曰く、超能力というのは、全ての人類種において覚醒する可能性のある超常の力で、よくあるのは、死に瀕した状態から復活する際などに目覚める可能性があるという。
『歴史上においても、ブッダとかイエス・キリストとかの話は聞いたことあるんじゃない?』
「まさか…、ブッダやキリストが超能力しゃかだった、と…?」
『まぁ、そういうことになるね〜。まぁ、彼らの場合は、その能力が強過ぎて、そのまま神格クラスになった超々レアケースだけどね』
「それで、陽火の『超感覚』ってのはどんな能力なんだ?今の陽火は大丈夫な状態なのか?」
『『超感覚』ってのは、読んでそのまんまの能力だよ。超要約するなら、一時的に身体の全感覚が研ぎ澄まされて、とんでもない力を発揮する、みたいな?
さっきので言えば、陽火ちゃんの体感速度が、陽人君達の動きが止まって見えるくらいにスローモーションになってた、って感じかな?
んで、その反動で身体が悲鳴をあげちゃってる状態が今の陽火ちゃん。まぁ、知恵熱みたいなもんだから、次起きた時には元気になってるよん』
“雷化”による超高速移動がスローモーションに見えるって、なかなかにエグい能力だな…
「…陽火のことは分かった。それで、鳩破の言ってた“天使属”とか“悪魔属”ってのは、一体何なんだ?」
『ん〜…、その説明はまた今度でいい?私、喋り疲れちゃったから、そろそろ帰りたいんだけど?』
コイツ、マジで一回ぶん殴っちゃろうかな…?
『まぁまぁ、それなりに長い話にもなるから、今晩、君達の夢の中で話してあげるよ。
そして、起きた頃には、次の並行世界に着いているハズさ♪』
「え!?次の並行世界に!?」
『そういうこと。
だから、今夜はお父さん達に、しばしのお別れってことで、きちんと挨拶しとくんだよ?』
「いや、ちょ、待っ、」
言うことだけ言って、スターラ様は姿を消してしまった。
俺と月火は、しばし呆然としていたが、そこへ母さんと父さん、そして二人の部下である人達がやって来たので、俺達は事情を話し、その場を父さん達に任せて、俺達は気絶した陽火を連れて、一足先に家へと帰るのだった。
*
今回の事件は、謎のテロ集団による首相暗殺事件として、世間に公表されることとなった。
また、首相の死に伴い、参議院選挙前にも関わらず、内閣の総辞職が決まり、参院選挙後には衆議院の解散もあるかもしれないということで、九州国の政治はしばらくゴタゴタしそうだった。
それから、陽火に関しては、帰宅後には何事も無く目覚め、「能力使ったせいか、異様にお腹空いた……」と言って、夕飯前のおやつと称して大里にある“資◯んうどん”でごぼ天うどんとカツとじ丼を2杯ずつたいらげていた。
『超感覚』は、それだけカロリーの消費量が高いということなのかもしれない…
そして、色んな事後処理を終えて帰って来た父さんと母さん(父さんは内閣総辞職にあたり、農水大臣を辞めることになった、と笑顔で語っていた)も加えた五人で、“焼き肉ウ◯スト”で夕食をすることになった。
その席で、俺達は改めて父さんと母さんに、世界とやらを救うために、俺の前世の妹達と再会する旅に出ることを伝えた。
「…というわけやけん、今日の夜、俺達はこことは違う世界、並行世界に行くことになったけん」
「そうか…」
「あ、でも、スターラ様の話しぶりやと、今生の別れってわけでも無いみたいやし、世界を救ったら、」
「なら、私達も準備せんとね♪」
「「「え?」」」
母さんのその発言に、俺達は素っ頓狂な声をあげてしまった。
「え、準備って、何の…?」
「何のって、決まっとーやろ、私達もその旅に付いて行くっちゃん!」
「「「ええっ!?」」」
さも当たり前のように俺達の旅に付いてくると言った母さん。
父さんもまたその気のようで、少し焦げたカルビを本ダレ(“焼き肉ウエ◯ト”では焼き肉のたれが、本だれ、味噌だれ、レモンだれと三種類用意されている)に付けて、口に運びながらこう言った。
「いやー、しかし、楽しみやなー!陽人の他の妹達と会うの!」
「い、いや、でも父さん仕事は!?」
「何言っとーとや?さっき大臣クビになったって言ったっちゃろ?」
「いやいや!?大臣辞めても、議員としての仕事はあるっちゃろ!?」
陽火のその真っ当な意見に、今度は母さんが、いい感じに焼けたマルチョウを味噌だれに付けて、口に運びながらこう言った。
「そっちも辞めてきたわよ?
こうなるんやないかって思って、父さんと母さん、議員の仕事も含めて、スパっと全部の仕事辞めてきちゃったわ!」
「表向きには、テロを阻止出来なかった責任を取って、みたいな感じでな!ハッハッハ!」
「というわけやけん、晴れて父さんも母さんも明日から無職!」
「やけん並行世界だろうが、何処だろうが、お前達に付いて行くぞ!ハッハッハ!」
「えぇ〜……?」
いや、なんか二人ともとんでもない事をあっけらかんと言ってるけど、無職って…
いやいや、それより!
「ですが、お義父様達もわたくし達の旅に連れて行けるのでしょうか?」
「そうそう、それっちゃん!スターラ様は、俺が眠ってる時に、妹が側にいれば、妹も一緒に『異世界転移』出来る、みたいな話やったけん、父さん達は『異世界転移』の対象外なんやないと?」
俺がそう言うも、父さんと母さんは焦った様子も無く、平然とこう言った。
「そこを何とかしてもらえるよう、女神様とやらに頼んでくれんかな?」
「そうよ、そうやないと、仕事辞めた意味が無くなるやん」
「勝手に仕事辞めたんは自分達やろうに…、しかしスターラ様に頼むって言われても、」
『まぁ、正直無理な話だよね〜、大人数を『異世界転移』させるのぶっちゃけ疲れるし…』
と、いつからそこにいたのか、母さんの隣に座ったスターラ様が、生焼けのタンを取り皿に取って、岩塩をかけてから口に運んでいた。
『うん!やっぱタンは生焼けに限るね!』
「いや、生焼けのタンは危なくないかっ!?」
『ツッコむのそっち!?』
「スターラ様がおるんはなんかもうそんな気がしとったよ……」
「ですわね…」
俺も陽火も月火も、最早神出鬼没なスターラ様そのものに対しては、すっかり慣れてしまっていた。
「おお!貴女が【転生の女神】スターラ様ですか!おお…!なんと神々しい…っ!!」
「本当っ!なんて美しい方なんでしょう!女の私が嫉妬しちゃう程の美しさだわ!」
『も〜、仕方ないな〜!特別だよ〜?二人も一緒に『異世界転移』させちゃおー!』
「「チョロい」わね」
父さんと母さんが「計画通り(ニヤリ)」みたいな顔しとるけど、なんだこの茶番……
「え、えっと、スターラ様…?あの、マジでお父さんとお母さんも『異世界転移』させると…?」
陽火が確認の意味でそう尋ねると、スターラ様は『女神に二言は無い!』と言って、こう続けた。
『というか、お父さん達も一緒なら、もういっそ家ごと移動した方がコスト的にも楽だし、ぶっちゃけ助かる、みたいな?』
「は?家ごと!?」
『そうそう。ほら、一度に大量購入した方が、分けてバラで買うよりお得みたいな感じ?』
そんな感じなのか!?
『まぁ、神様の力にも色々あるのよ、ってことで、『異世界転移』の条件を微修正!
①陽人君が前世の妹と再会し、“精霊石の欠片”を手に入れること。
↑これは変わらずね!
②その上で、陽人君が眠りについた時。この時、妹ちゃん達が側にいれば、その妹ちゃん達も一緒に『異世界転移』出来る。
↑この条件に追記で、“また、陽人君が陽人君の実家の中で眠りについた場合、その家の中にいる陽人君の家族も一緒に『異世界転移』出来る”ってことで、どうかな?』
「どうかなって言われても、スターラ様がそれでいいなら……」
『オッケー!なら、今晩、また夢の中でお会いしましょう、シーユーアゲイーン!』
そうしてスターラ様は、まだ生焼けのタンを全部口にかっ込んで、消えて行った(※良い子は真似しないでね!)。
こうして、俺達は家族揃って並行世界の旅に出ることが決まったのだった。
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“焼き肉◯エスト”での夕食の後、帰宅した俺達は、就寝時間まで、風呂に入ったり、談笑したりしてしばらく過ごした。
スターラ様の話では、俺達が寝ている間に家ごと『異世界転移』するそうなのだが、ほんとうに大丈夫なのだろうか…?
一抹の不安を覚えつつも、俺は一人自室で、陽火と月火はすっかり仲良くなったようで、同じ部屋で一緒の布団で横になり、眠りについた。
*
『はい、お疲れ様〜』
スターラ様のその言葉で、俺が目を覚ますと、そこは白い何も無い空間で、隣には陽火と月火が眠っていた。
目は覚めているが、ここは恐らく俺がスターラ様と最初に会った夢の中の空間なのだろう。
「俺達だけか…?」
父さんと母さんはいないのか?という意味で尋ねると、スターラ様はこう答えた。
『この場所にはね。大丈夫、心配しなくても、ちゃんと家ごと『異世界転移』させるから、お父さんとお母さんも一緒に次の世界に連れて行くよん♪』
「そうか…、まぁ、別に心配はして無いが…」
「んん……?」
「ん…、ここは…?」
と、そのタイミングで陽火と月火が目を覚ました。
『二人もお疲れ様〜♪』
「スターラ様!」
「…ということは、ここは夢の中、ということですの?」
『そ、そ!話が早くて助かるよ、月火ちゃ〜ん♪』
「それで、わざわざ俺達だけをこの空間に呼んだってことは、話してくれるんだよな?」
『“天使属”と“悪魔属”のことだよね?正直あんま面白い話とは思えないけどね〜…?』
スターラ様は気乗りがしない様子だったが、それでも話をしてくれた。
*
一人の神様がいました。
その神様がある時、気紛れに、一つの世界と、多種多様な生物を作りました。
その世界に、また別の神様が気紛れで、神様に限りなく近い知能を持ったホモ・サピエンス、つまりは現生人類を作って放り込みました。
すると、ホモ・サピエンスはその世界で急速に進化し、繁栄し、その世界で生まれ、進化してきたネアンデルタール人などの旧人類達を滅ぼしてしまいました。
その人類同士の戦いは、神様達にとっては何ということは無い他愛の無い事象でしたが、神様に仕える者達、“天使”達と“悪魔”達には大層面白く、興味深い事象に映ったそうなのです。
そこで、天使達と悪魔達は、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスのような戦争を、より高度な次元で愉しむために、現生人類を、“天使属”の人類と“悪魔属”の人類に分けて、現生人類同士で争わせ始めた、というわけなのです。
最初の内は、一つの世界で愉しんでいたのですが、やがてその熱は互いにどんどん過熱していき、見て愉しむだけに飽き足らず、天使や悪魔達が、世界に干渉するようになりました。
高次の存在が世界に干渉した結果、そこで歴史は分岐し、世界そのものが分岐して、いくつもの並行世界が生まれていったのです。
*
スターラ様は、そこまで話したところで『さて、ここまでで何か質問は?』と言って、一息ついたが、正直、質問したいことだらけだったが、
「何か質問と言われても……、」
「しょ、正直話のスケールが大き過ぎて……」
俺と月火は話のスケールの大きさに、思考が追い付いていかなかった。
「えっと…、じゃ、じゃあ、天使と悪魔ってのは、スターラ様の部下みたいな存在なん?」
と、果敢にも陽火が質問をした。
『まぁ、ざっくりと言えばそんな感じだね!さっきの説明で、“神様に仕える者達”みたいな表現をしたけど、天使と悪魔を説明するのに、人類の言葉として適切な表現が無いから、そう言っただけで、厳密には少し違うんだよね。だけど、彼らは私達神様の部下みたいな認識でとりあえずは大丈夫!』
本当にざっくり説明するなら、
神様の下に存在する天使と悪魔という上位の生命体、さらにその下に存在するのが我々知的生命体、現生人類ということらしい。
『まぁ、無理矢理例えるとして、神様に当たる存在を君達現生人類とするなら、天使と悪魔が犬とか猫みたいな存在で、現生人類はカブトムシとかクワガタみたいな感じかな?』
「それは…、いや、何でもない…」
スターラ様から見れば俺達はカブトムシやクワガタってことか…
『確かに、大多数の人からすれば、カブトムシやクワガタは特に価値の無い、自身の生活とは無縁な存在かもしれないけど、人によってはカブトムシやクワガタにとんでもない価値を見出す人もいるわけじゃん?』
「つまり、スターラ様はわたくし達に価値を見出した数少ない神様の一人、というわけですわね?」
『まぁ、そういうとこだね』
うーむ…、分かったような分からないような……
いや、理解するのはよそう。
土台、俺達人類と神様とでは文字通り次元の違う存在なのだ、神様達の考えを完全に理解することは不可能なのだろう。
『ま、そういうこと!
さて、そういうわけだから、この話はここまでにして、本題となる“天使属”と“悪魔属”の人類種の説明をしよっか』
そう言うと、スターラ様の背後に“天使属”と“悪魔属”という文字が現れ、その間に縦の一本線が入って、表のようなものが浮かび上がった。
『これまたざっくりとした説明だけど、神様が作った現生人類、つまりは“能力を持たない人間種”に、天使と悪魔がそれぞれの能力を分け与えるような感じで、人間種を進化…、いや、進化とは違うか…?ん〜…、でも、この現象を適切に表現する人類の言葉は無いから、便宜上進化ってことにしとくよ!つまりは、“能力を持たない人間種”を天使風に進化させた人類種が“天使属”!悪魔風に進化させた人類種が“悪魔属”!ってわけさ!』
そしてスターラ様がホワイトボードを叩くような感じで、背後の何も無い空間をバーン!と叩くと、“天使属”と“悪魔属”と書かれた文字の下に、新たな文字が書き込まれていく。
“天使属”の下には、
・神人種(“エルフ”とか)
・(精霊術、錬成術を使う)人間種
・亜人種(“吸血鬼”とか)
・竜人種※ただし天使を裏切った裏切者!
“悪魔属”の下には、
・魔人種
・(霊能力を扱う)人間種
・獣人種(“猫獣人”とか)
・妖獣人種(“妖猫”とか)
という感じだ。
『まぁ、これを見て分かる通り、“天使属”の人類種は、自然界の力を扱う術を行使する種で、“悪魔属”の人類種は、自身の中に宿る力を扱う術を行使する種、ってことだね!』
「お、おぅ…?」
陽火の思考回路はショート寸前のようで、目を白黒させていた。
「これを見ると…、わたくし達人間種でも、“天使属”と“悪魔属”で分かれているようですわね?」
月火の言う通り、確かに“(精霊術、錬成術を使う)人間種”と“(霊能力を扱う)人間種”で分けられている。
“錬成術”が何かは、俺も分からなかったが、精霊術は自然界に存在する精霊力を扱う術で、“霊能力”は一部の人間が持つ“霊力”と呼ばれる力を扱う術のことだ。
『そうそう。
それは世界の分岐によって、人間種がそれらの世界にそれぞれ適応していった結果、自然界の力を扱う“天使属”と、自らに宿る力を扱う“悪魔属”とに分岐進化した結果だね。
ポケ◯ンで言うなら、ニョ◯ゾが、物理型のニョ◯ボンと、特殊型のニョ◯トノに進化する、みたいな?』
スターラ様、ポ◯モンにも詳しいのか…?
いや、神様だから俺の思考を読んで、俺達に分かりやすい例えをしてくれただけかもしれない。
『まぁ、そういうわけだから、君達が今日戦った“鬼人”は亜人種なので“天使属”、そして精霊術師である陽人君達も“天使属”、ということになるわけ!』
「え!?じゃあ、あたし達仲間割れしてたってこと!?」
陽火がそう言うと、スターラ様は首を横に振りながらこう答えた。
『それは少し違うかな。
“天使属”とか“悪魔属”ってのは、あくまで天使と悪魔がやってるゲーム盤における区分であって、私達神様視点から見ればどちらも同じ人類種だし、君達人類種から見れば、自分達に危害を加えてくる存在は敵で、その逆は味方。そして敵味方なんてのは状況が変われば変わるもの』
確かに、国同士で戦争することもあれば、同盟を組むこともあるし、同じ国の人間同士でも争うことはある。
要はそういうことなのだろう。
『そういうこと!
さて…、今日の所はこの辺にしとこうかな?
もうそろそろ君達の目覚めの時間になるみたいだからね!』
そう言うと、スターラ様の姿が徐々に透けていき、俺達のいる空間も、段々と暗くなってきていた。
『さて、次に君達が行く世界は“ワールドサルミリア”、魔法科学の発展した世界だよ!』
「「魔法科学!?」」
陽火と月火がそろって驚きの声を上げた。
「魔法科学の世界ってことは、次の世界で再会する妹は…、」
『そう!次の世界で出会う陽人君の妹は、ズバリ双子!双子の姉妹と再会し、二つの“精霊石の欠片”を手に入れることが、次の世界でのミッションだよ!』
そして、意識が遠のく直前に、スターラ様は指をパチン!と鳴らして、こう叫んだ。
『ではではお待ちかね、『異世界転移』術はつどーう!』
魔法と科学の世界、“ワールドサルミリア”へ行ってらっしゃ〜い!』