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第13話「陽火の覚醒」


 あたし達が鳩破はとばの攻撃から、人々を守っている間に、当の鳩破はとばとお兄ちゃんは、目に見えない程の速さでこの場からいなくなり、何処かへ行ってしまった。


 あたし達の背後では、未だに人々が混乱しており、ちょっとしたパニックになっていた。



「まぁ、無理もありませんわ…

 何せ、突然目の前で人が亡くなり、さらには総理大臣が角の生えた()()に変身したのですから」



 月火つきひちゃんの言う通り、鳩破はとばの使った呪術『陰魂(マイナス)回収(ソウルイーター)』によって、お立ち台の近くにいた鳩破はとば支持者の人達数名の魂が抜かれ、命を落としていた。


 自身の支持者であっても、容赦無くその魂を奪った鳩破はとばという男の所業に、あたしは怒りを隠せなかった。



陽火はるひちゃん!月火つきひちゃん!」



 とそこへ、人々の避難指示をしていたあたし達のお母さんがやって来た。



「お母さん!避難指示の方は大丈夫なん!?」


「ええ、後はSPに任せてきたわ。

 それより、陽人はるとちゃんと総理…、いえ、鳩破はとばは何処へ?」


「それが…、」


「お兄様達はここから近くの場所、わたくし達の世界と地図が変わりないのであれば、恐らくは大芝生広場辺りに移動致しましたわ」



 月火つきひちゃんが、確信めいた口調でそう言った。



「え!?何で分かると!?

 お兄ちゃん達、一瞬で見えんくなったやん!?瞬間移動かって感じで!」


「ええ、確かに。

 ですが、前世でお兄様とずっと背中合わせで戦ってきましたから、姿は見えなくとも、お兄様の波長的なものを感じられるんです」



 な…、なんだと…!?


 なんてうらやまけしからん能力…!

 そんなのあたしだって欲しい!!



「ふふ、大丈夫ですわ、陽火はるひさん。お兄様に対して素直になった今の陽火はるひさんなら、その内きっと分かるようになりますわ♪」



 本当かな…?

 あたしにはそうなる未来が全く見えないんだけど…



「い、いや!今はそれよりお兄ちゃんのことっちゃん!あたし達も大芝生広場に行かんと!」


「ええ…、それはその通りなのですが……」



 そこで、意外にも月火つきひちゃんがしぶるような表情を見せた。



「え?何で?こういう時やと、月火つきひちゃん、真っ先にお兄ちゃんのとこに向かいたがるやん!」


「ええ、ですが…、わたくし達が行って足手まといにならないかと…」


「どういうこと?」


「お兄様は『雷鎧武装エレキアーマー』という、全身に雷をまとう術、言うならば“雷化”という常人ではまともに目で追うことすら出来ない領域で戦っています。それに対して、鳩破はとばもまた、恐らくは呪術による“雷化”によって、お兄様の速度に付いて行っているわけです」



 確かに、この時鳩破(はとば)は“鬼人デーモン”の種族固有呪術である『雷神化』によって、お兄ちゃんと同じく“雷化”して戦っていた。



「そんな、常人には目で見ることすら出来ない二人の戦いの場に、わたくし達が行って、果たして足手まといにならないかと…」



 そんな風に弱気になる月火つきひちゃんに、あたしはこう言った。



「さっき月火つきひちゃん言ってくれたやん!」


「え?」


「『姿は見えなくとも、お兄様の波長的なものを感じられる』って!」


「…っ!」


「だったら!あたし達にも出来ること、あるハズっちゃん!」


陽火はるひさん…!」



 そこで、あたしはお母さんの方へ振り向いて、「止めないで、お母さん!あたし達行くから!」みたいな、ドラマとかアニメでよくあるお約束的なセリフを言おうと口を開いた。



「お母さん、あた…」


「よし!二人とも行っといで!」


「…し達行くけん、止めんとってぇえええ!?」



 セリフの途中でお母さんに「行って来い!」と言われたものだから、あたしのとっておきの決めゼリフは最後の方変になってしまった…



「お兄ちゃんを助けられるのは、陽火はるひちゃん達だけしかおらんのやろ?」


「そ、それはそうやけど…、」


「なら、行っといで!ここで決めなきゃ、女がすたるわよ?」


「お母さん…!」


「ありがとうございますお母様、必ずお兄様を連れて、三人で戻って来ますから」


「うん!行ってらっしゃい!」



 お母さんに背中を押され、あたし達はお兄ちゃんと鳩破はとばの戦う大芝生広場へと走って向かうのだった。





「雷の精よ、集いて我が剣となれっ!『エレキソード』!」


『雷の呪いよ、我が意に従い、我が力となれっ!『ライジングソード』!』



 俺と鳩破はとばはほぼ同時に詠唱を行い、雷の精霊力と、雷の呪力で出来た剣を、それぞれに持つと、互いにそれを構えてぶつかり合う。



「はぁああああっ!!」


『うぉおおおおっ!!』



 剣と剣がぶつかり合う度に、バチバチッ!と激しいスパークが飛び散る。


 現世では剣を振る経験は勿論、剣道すらもしたことが無い俺だったが、前世での戦いの経験からか、自然と身体が動く。

 相手の振り下ろす剣を下から受け止め、横にはじいて相手の体勢を崩し、返す刀で相手に斬りかかるが、相手は横にバランスを崩しながらも、そのまま地面を蹴って倒れていく方向に転がって俺の攻撃を避ける。



『雷の呪いよ、雷の矢となりて、敵をてっ!『ライジングアロー』!』



 しかも、相手は転がりながら詠唱をし、立ち上がると同時に俺に向かって正確に雷の矢を放ってきた。



「うぉっ!?」



 俺は飛んでくる雷の矢をバックステップで避けつつ、避けきれない分は剣で叩き落としていく。



『なるほど、その若さの割に戦い慣れてはいるようだが…、甘いな』



 すると、一瞬で俺の背後に回り込んでいた鳩破はとばが、持っていた雷の剣で、俺の心臓を狙って鋭い突きを放つ。


 俺は、思いっ切り字面を蹴り上げ、バク転で鳩破はとばの突きをかわすと、そのまま空中で詠唱をする。



「水の精よ、集いて我が力となり、敵をばくせっ!『スプラッシュチェーン』!」



 俺は、水の鎖を右手から繰り出して、鳩破はとばを縛り上げた。



『何…ッ!?水の精霊術だと…ッ!?』



 まさか俺が水の精霊術を使えるとは思っていなかったようで、驚きの声を上げる鳩破はとば



『こんな馬鹿なッ!?一人の人間が複数の属性の精霊術を使えるなどと…ッ、聞いたことが無いぞッ!?キサマ…、どうやったッ!?』


「んなの、教えるわきゃねぇだろ!

 千の雷精よ、集い来たりて我に力を与えよ…!」 



 俺は、雷の精霊術の中でも最高威力の術を放つための詠唱を始めた。

 最高威力の術を放つには、通常よりも少し長い詠唱と、精霊力をチャージするための時間が必要なので、あらかじめ何かしらの方法で相手の動きを封じておく必要がある。

 今回は、水の精霊術『スプラッシュチェーン』で、相手の動きを封じた形になるが、本来なら味方の援護などによって、詠唱時間を稼ぐというのが普通だろう。



『く…ッ!?おのれッ!?何故切れんッ!?』



 鳩破はとばは最初、力尽くで水の鎖を引き千切ろうとしていたがビクともせず、ならばと『雷神化』によって、全身に電気をまとって、水の鎖を電気分解しようとしたが、それでも水の鎖は破壊出来なかった。


 水は一般的に電気を通すイメージだが、それは中に不純物などが含まれているためだ。

 しかし、今回俺が使用した『スプラッシュチェーン』は、限りなく不純物を取り除いた“超純水”で作られており、この“超純水”はほぼ絶縁体のため、電気を通さないのだ。


 勿論、普段の水の精霊術で扱う水は、ここまで純度は高くなく、普通に電気を通すわけなのだが、相手が雷属性の術を使う相手だと、時と場合によって、水の純度を変えて対応する必要がある。

 例えば、今回のように敵の動きを封じる場合は、電気分解されないよう純度を上げ、目眩めくらましなどで使う場合は、純度を下げ、あえて相手の術で水を分解させることで水蒸気爆発を起こさせたりする。


 ただ、水の純度の調整はなかなか難しく、熟練者にしか扱えない技術なので、水属性の術者以外で、こういうことが出来るということを知る者は少ないだろう。



 閑話休題。



 そうして鳩破はとばの身動きがとれない間に、俺は最高威力の術の詠唱を進める。



「…そして、の敵にその力でもって、天上の怒りを与えよっ!『エレキパニッシュメント』っ!!」



 俺が両手を前に突き出すと、鳩破はとばめがけて、頭上から目もくらまんばかりの稲光を伴って、強烈な稲妻が炸裂した。



『ぐぉおおおおおおおおおッ!?!?』



 常人ならば、確実に感電死する程の強烈な稲妻を喰らい、鳩破はとばの全身は黒焦げになり、その場に崩れ落ちた。


 だが、その直後、砕けた鳩破はとばの破片が逆再生しているかのようにくっついていき、やがて、無傷の鳩破はとばが再生された。



『ふむ、今のは危なかったな。

 先程、『陰魂(マイナス)回収(ソウルイーター)』で人間の魂を吸収していなければ、確実に死んでいたぞ?』


「ちっ、やはりか……!」



 “鬼人デーモン”や“吸血鬼ヴァンパイア”などに代表される亜人種の最大の特徴は、不老不死に近い存在である、ということだ。


 例えば“吸血鬼ヴァンパイア”は、脳と心臓を同時に破壊しない限り死ぬことはなく、その見た目も、ある程度まで成長した段階で老いなくなる(歳はとる)。

 そして“鬼人デーモン”は、その種族固有呪術『陰魂(マイナス)回収(ソウルイーター)』によって回収した魂の分だけ蘇生出来る、という特徴がある。


 ただし、どちらも完全なる不老不死では無いため、普通に病気などで死ぬことはあるし、魂の残機が無くなれば普通に死ぬ。



『確かに、魂の残機が無くなれば、私は死ぬが、果たして君に私を殺しきれるかな?』


「いいよ、付き合っちゃるよ…!

 アンタが死ぬまで殺し尽くしてやるっ!」



 俺と鳩破はとばは、再び全身に雷をまとい、“雷化”した状態で戦闘を再開した。





 ドンッ!!という地響きと共に、空から強烈な雷が大芝生広場に落ちるのが見えた。



「かっ、雷っ!?」


「今のは、恐らくお兄様の放った術ですわ!」


「ってことは、あそこにお兄ちゃん達はいるんだね!?」



 あたし達は、その雷が落ちた辺りを目指して走った。


 そして、大芝生広場に辿り着くと、中央辺りに大きな焦げ跡があり、そこが先程大きな雷が落ちた場所だろうと思われた。

 さらに、その大きな焦げ跡を中心に、芝生の至る所に焦げ跡が、現在進行系で付いていた。

 時折バチバチッ!というスパークの飛び散る音と光が見えるので、恐らく今この場で、お兄ちゃんと鳩破はとばが“雷化”した状態で戦っているのだろう。



「さて…、いざここまで来たのはいいですが、ここからどうしますか、陽火はるひさん?」


「む〜…、なんとかしてお兄ちゃんの援護をしたいけど…、」


「下手な攻撃はお兄様の邪魔になりかねませんし…、何かいい案があれば…」



 勢いでここまで来たはいいけど、やっぱり超高速移動で戦うお兄ちゃん達の姿を目で捉えることは不可能に近い。



 ここまで来て、本当に何も出来ないの……?



 と、その時、あたしの脳内に、女神スターラ様の声が聞こえてきた。



『諦めちゃそこで試合終了だぜ、陽火はるひちゃん?今こそ、君の、もう一つのチート能力の覚醒の時だっ!!』


「そ、そんなこと言われても、どうしたらいいと!?」


『簡単だよ、君の大好きなお兄ちゃんのことを強く想うだけさ♪』


「えぇ!?いや、そんなことで!?というか、そもそもあたしのもう一つのチート能力って何なの!?」



 だが、あたしの最後の問に対しての答えは帰って来なかった。



陽火はるひさん…?どうかしましたか?」



 と、隣にいた月火つきひちゃんが、突然、()()()を話し始めたあたしを心配して声をかけてきた。

 スターラ様の声は、月火つきひちゃんには聞こえておらず、あたしにしか聞こえていなかったので、あたしのセリフは、月火つきひちゃんからは独り言に聞こえたわけだ。



「いや…、なんか今スターラ様からの声がしたんやけど……、」



 あたしは、先程のスターラ様の声を、そのまま月火つきひちゃんに伝えた。



「……なるほど、お兄様のことを強く想え、ですか。

 でしたら、その通りにされたらいいのでは?」


「でも、それで、どんな能力が使えるようになるんか分からんし…」


「どんな能力であれ、きっと今のお兄様を助けられる素敵な能力に決まっていますわ!」


「…!そうだと…、いいけどねっ!」



 月火つきひちゃんに背中を押される形で、あたしは目を閉じ、お兄ちゃんのことを考えた。



(お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃんっ!!)



 脳内でお兄ちゃんの姿を思い浮かべる。



(お兄ちゃんを助けたい!お兄ちゃんの力になれる力が欲しいっ!!あたしが、お兄ちゃんを助けるんだっ!!)



 強い想いでそう願うと、次の瞬間、周囲から聞こえていたバチバチッ!というスパーク音が消え、芝生の焦げた匂いもしなくなった。

 いや、それだけじゃない、風の音や空気の匂いなど、普段感じている音や匂いが全くしなくなっていたのだ。



「え……?」



 何が起きたのか分からず、目を開けると、さらに驚くべき光景が広がっていた。



「時間が……、止まってる……!?」



 目の前には、雷の剣を持ったお兄ちゃんと鳩破はとばが、互いの剣を振り下ろした状態で静止していた。



「ええ!?つっ、月火つきひちゃんっ!!お兄ちゃん達が止まっとーっ!?なっ、何でぇっ!?」



 と、隣の月火つきひちゃんへ視線を向けたのだが、なんと月火つきひちゃんも、その場でまばたき一つせず、ピタリと止まっていたのだ。



「えっ!?ええっ!?なっ、何が起きとーと!?」



 よくよく見れば、空の雲や、飛んでいる鳥なんかも、その場で止まっており、今この場でまともに動けているのは、どうやら自分だけらしかった。



「な…、何なん…?これが、あたしなもう一つのチート能力…?」



 まさか、あたしのもう一つのチート能力は『時間停止』…!?

 そんなの滅茶苦茶チート過ぎんっ!?


 …などと思っていたら、目の前にいるお兄ちゃんと鳩破はとばの姿勢が、わずかに変わっていることに気が付いた。



「あれ?お兄ちゃん達、少し動いとる…?ということは、『時間停止』やなくて、『スローモーション』?それとも、もっと違う何か…?」



 いや、今はこの能力について考えてる場合じゃない。


 今なら、あたしの攻撃が鳩破はとばに当たるのではないか?



 あたしは左手で弓を構えるイメージをしながら、右手に風の精霊力を集めて、風の矢を生成する。



「風の精よ、集いて我が力となり、敵を射てっ!『ウィンドアロー』!」



 あたしの右手から放たれた風の矢は、()()()()()()()鳩破はとばへと向かって飛んでいき、その胴体を貫いた。


 その直後、ゆっくりと動いていた時間が、元に戻った。



『かは…ッ!?な…、何…、が……ッ!?』


「な、何っ!?」


「え…っ!?鳩破はとば!?それに、お兄様っ!?」



 時の流れが戻ると、胴体を貫かれた鳩破はとばは口から血を吐き出しながら驚愕の表情を浮かべ、同じように、お兄ちゃんと月火つきひちゃんも何が起きたのか分からずに困惑していた。


 だけど、今が好機と見た二人は、すぐに詠唱を始めて、傷口が再生し始めていた鳩破はとばに対して、精霊術を放った。



「百の雷精よ、集い来たりて我に力を与えよ!そして、の敵をその雷で貫けっ!『エレキジャベリン』っ!!」


「百の炎精よ、集い来たりて我に力を与えよ!そして、の敵をその炎で貫けっ!『ファイヤージャベリン』っ!!」


『グギャァアアアアアアアアアアアッ!?!?!?』



 二人の息の合った同時攻撃は、鳩破はとばの頭と心臓を貫いた。



『あ…、ガ…、こんな……、バカな……ッ!?』



 鳩破はとばは、信じられないという表情を浮かべながら、全身を雷と炎の槍で焼き尽くされ、消滅していった。



「や、やった!勝っ…、………」


陽火はるひっ!?」


陽火はるひさんっ!?」



 直後、あたしは急激な目眩めまいに襲われ、そのまま意識を失っていった……

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