第11話「天星家の一族」
*
陽火と月火が風呂に入っている間、俺は夕食の準備でキッチンに向かっていた。
今日は、仕事でいつも帰りが遅い両親が、珍しく早く帰って来ると連絡を受けていたので、五人前の夕食を準備するために、いつもより早く仕込みをしていたのだ。
そうして、ある程度の仕込みが終わったところで、陽火と月火が風呂から上がってきた(何故か、ツヤツヤしている月火に対して、陽火は少しぐったりしていたが…)ので、夕食の準備をバトンタッチし、俺が風呂に入ることになった。
ちなみに、風呂上がりの二人の服装は、今日柳町の商店街で買ってきたばかりのカジュアルな半袖長ズボンの部屋着で、色違いのお揃いコーデとなっており、陽火が薄い緑色、月火が淡い白色だった。
そうして、入れ替わりに風呂場へやって来た俺だったが、風呂に入る前に脱衣所で、脱衣籠に入った二人の下着が目に入ってしまい、そのせいで二人が入った後の風呂だということを意識してしまって、風呂場で悶々としてしまったのは、思春期の男子として仕方が無いことだろう。
なまじ、今朝、月火と再会した後、あっちの世界で共に風呂に入り、月火の生おっぱいや無毛の生恥丘などを見てしまっていたこともあり、俺のムスコは盛んにアピールをしてきていた。
そうとは知らない、俺の妹達は、仲睦まじく夕食の準備の続きを始めて、俺が風呂を上がる頃には、すでに人数分の料理が揃っていた。
今夜は、大分仕込みの味付けにこだわった唐揚げに、陽火自慢の手作りポテトサラダ、そして北九州の伝統の味、ぬか炊きだ。
ぬか炊きとは、イワシやサバなどの青魚をぬかで炊き込んだ、北九州の伝統料理で、優しくて懐かしい味のする料理だ。
「さて、あとはお父さん達が帰って来るのを待つだけやけど…、」
と陽火が言ったタイミングで、玄関ドアの開く音がし、二人の男女、つまり俺と陽火の両親がキッチンに入って来た。
「ただいま!」
「あら!もう夕飯出来ちゃってるじゃない!待たせちゃったかしら?」
俺の父、天星信大現九州国の農林水産大臣を務める。
そして、その秘書を務めるのが、俺の母で、天星真愛という。
「お帰りなさい、お父さん、お母さん!ご飯は今出来たばっかやけん、二人とも先にお風呂入って、」
「いや!今すぐに食べよう!」
「そうね、せっかくの二人の手料理だもの!冷める前に頂きたいわ!…って、あら?そちらの女の子は…?」
そこで、月火の存在に気が付いた父さん達。
さて、月火のことをどうやって説明したものかと悩んでいると、月火がカーテシーのようなポーズを取りながら、二人に自己紹介をした。
「初めまして、お義父様、お義母様、わたくし、お兄様の前世の妹で、こことは別の世界、並行世界からやって来ました、天海月火と申します、以後お見知り置きを」
って、いきなりぶっ込んできたぞ、この妹!?
さすがにいきなり前世の妹だとか、並行世界だとか言い出したら、頭のおかしい子だと思われて、追い出され、
「おお!陽人の前世の妹かっ!わざわざ並行世界からご苦労様!」
「これはこれはご丁寧に。陽人が前世でお世話になって〜♪」
あれ!?なんかすんなり受け入れられてる!?
「いえいえ、お世話になったのはわたくしの方でして…!主に夜とか…♥」
「あらあら♥その辺の話、詳しく聞きたいわね〜♪」
「いやいや!そんなことより!!父さんと母さんは、月火が俺の前世の妹で、並行世界から来たって話を本当に信じとーと!?」
「なら、陽人は、月火ちゃんが嘘をついとるとでも?」
「いや、そうは言っとらんけど…」
「なら問題無い。義理の娘の言う事を信じらん親が何処におるか」
「父さん…」
いや、そもそもその前提となる義理の娘という情報をあっさり信じてくれたことに驚いているんだが…
いや、そもそも父さんからすれば、月火はまだ義理の娘ですら無いぞ…
「まぁ、こういう仕事をしとーけんね、相手が嘘ついとーかどうかは相手の目を見れば分かるとよ」
母さんのその一言で、俺は合点がいった。
政治の世界は綺麗なことばかりでなく、むしろ汚いことが多い世界だ。
そういう世界で生きているからこそ、相手の嘘には敏感なのだろう。
「さ、話は後にして、まずは食事としよう!父さん達着替えてくるから、もう少し待っててくれ!」
こうして、最大の懸念点であった並行世界云々の話は、両親にあっさりと信じてもらえたので、次は本題となる鳩破総理の件について、両親に説明することになった。
*
それから、着替えてきた両親と共に食卓を囲み、最初の内は他愛の無い話から始まり、俺と月火の関係だったり、その他の俺の前世の記憶について少しだけ語ったりした後に、いよいよ本題へと入った。
俺達は、【転生の女神】スターラ様から聞いた話を元に、現九州国の総理である鳩破茂郎が“鬼人”で、国民達の不評をわざと買うような政治を行っているのは、そうすることで国民達の負のエネルギー感情を増大させて、その負の感情に染まった人々の魂を喰らおうとしているのではないか、という話をした。
そして、鳩破総理が“鬼人”かどうかを確かめる方法として、俺の精霊術『雷鎧武装』を使って、雷系の術の発動兆候として、先行放電を利用する方法を説明した。
もし、本当に鳩破総理が“鬼人”ならば、彼は“雷の呪術師”であるため、俺の発した先行放電に気付き、何かしらのアクションを起こすのではないか、と。
「確かに、雷の術の発動兆候である先行放電を感知すれば、命の危機を感じて、咄嗟に何かしらのリアクションを起こす可能性は高いな…」
「まぁ、仮にそれで判別付かなくとも、そういう大規模なことを行うには、何かしら舞台が必要になるんじゃないの?」
母さんのその質問に、俺は頷いた。
「確かに…、魂を喰らうのに直接その場に全員を集めて儀式を行う、みたいなことは必要無いけど、例えば、テレビの電波なんかを通じて大規模呪術を行使し、そのテレビ放送を見ていた人々の魂を喰らう、なんてやり方は可能かもしれない…」
あくまでも憶測の域は出ないが、なんとなくそんなやり方が可能なのではないかという予感があった。
この予感が何なのか分からないが、この予感は大きく間違っていないという感覚が、俺の中にあった。
これも、女神様とやらの力なのか…?
それはともかく、俺のそんなふわっとした予測に対し、月火がこう言った。
「わたくしは、呪術のことに関してはサッパリですが、でも、お兄様の言ってることは大きく間違っていないと思いますわ」
「月火…!」
「というのも、近年、わたくし達の世界で、とある宗教団体の教祖であり、“雷の精霊術師”でもあった人物が、雷の精霊術を悪用した電波ジャックを行い、“サブリミナル効果”などを利用した大規模な洗脳計画が実行されたことがありましたから、呪術でも似たようなことが可能なのではないでしょうか?」
「アミノサプリ効果って何?」
と、陽火がアホな聞き間違えをした。
対して母さんが、呆れた表情をしながら、陽火にこう言った。
「はぁ…、陽火ちゃんは数学以外のことも、ちゃんと勉強しておきましょうね?」
「うぐぅ…、はい……」
母さんの言う通り、陽火は数学以外の成績は中の下、といったところで、興味の無いことにはとことん興味をもたないが、興味を持ったことはとことん突き詰めるという、いわば天才肌ともいえる性格をしている。
「それはともかく、そういうことであるなら、これから始まる参院選のテレビ討論会に、鳩破総理は顔出しで各局に顔出しするから、計画を実行に移すなら、その辺りが怪しいわね」
そこで、本性を現した鳩破総理を叩けばいい、と母さんは言う。
確かに、相手に呪術を発動させてさえしまえば、敵であることは確定するので、遠慮なく倒す事が出来るわけだが…
「ああ、母さんの言う通りだな…
だが、計画が実行されてからでは遅いからな…、出来ればその前に、陽人の言った先行放電で鳩破総理の正体を突き止め、先手を取りたいところだ」
「ええ、勿論、父さんの言う通りよ。私の意見は、あくまでも、陽人の作戦が上手くいかなかった時のための最終手段。
私だって出来れば被害は出したくないもの」
「しかしそれならば、こちらは早く動くに越したことはないな。
そうなると…、今週末に行われる、参議院選挙の応援演説の場が狙い目か」
父さんによると、今週末に北九州市役所前の通りにて、参議院選挙の立候補者の演説があるらしく、それに鳩破総理が応援演説のために参加するらしい。
そこに、俺達がボディガードとして、総理のすぐ近くに潜り込めるようセッティングしてくれるらしい。
「大まかな作戦としては、総理の側で、陽人が雷の術を発動させるふりをし、その先行放電だけを総理に飛ばして、それを受けた総理の反応を確認して、総理が“鬼人”かどうかを判断する、といったところかな?」
「でも、もし本当に鳩破さんが“鬼人”だったとして、陽人ちゃん達だけで対応出来るの?」
と、母さんが俺達のことを心配してそう尋ねた。
対して、陽火が自信満々にこう答えた。
「大丈夫っちゃん、お母さん!お兄ちゃん、めっちゃ強かったんやけ!何せ、今日柳町商店街を襲ったテロリスト達をたった一人で一瞬でやっつけたんやけ!……あ」
陽火は言った後で、「しまった!」という顔をしたが、もう遅い。
「それって、今日起きた米騒動のことか?」
「何かニュースやと、武装集団が最初に使わった爆弾で、いくつかの電線が切れて、そこに局所的な大雨が突然降ったことで、雨に触れた電線から漏電して、それによって武装集団が感電して気絶したって言っとったけど…、あれ、陽人ちゃん達がやったと?」
「あ〜…、まぁ、そんな感じ、かな…?はい…」
俺が決まり悪げに白状すると、父さん達は呆れたような溜息をつきつつ、父さんがこう言った。
「まぁ…、結果論だけで言うなら、被害が大きくなる前に対処してくれて感謝するが、あまり無茶はしてくれるなよ?」
「はい、スイマセン…」
「でもまぁ、武装集団を相手に無傷で制圧出来る程度には、陽人ちゃんの力が強い、ということは分かったわ」
「うむ、母さんの言う通りだな。
…とは言え、“鬼人”とやらの力がどの程度か分からん以上、油断は禁物だぞ?」
「ああ、分かっとるよ、父さん」
父さんも母さんも、本心としては俺達を危険な目に合わせたくないのだろうが、この世界では精霊術や呪術といった力が知られていないため、“鬼人”を相手にまともに戦えるのは、精霊術を扱える俺達だけ、もっと言えば、相手が雷の使い手である以上、同じく雷の使い手である俺しか、まともに対処することは出来ないだろう。
「…さて、この話はここまでにしましょ?詳しい計画の詳細は、明日以降詰めるとして、それよりも陽火ちゃん?」
と、母さんが陽火に視線を向け、ニヤニヤした表情を浮かべながら、こう続けた。
「陽火ちゃんってば、いつの間にか陽人ちゃんと仲直りしとーやん?何かあったと〜?」
「ふぇっ!?」
唐突に俺達の関係についての話を振られて、変な声を出した陽火。
「そっ、そんな、別に何も無いし!?というか、そもそもあたし達は、別にケンカとかしとったわけやないし…!」
「そうか?ここ最近ずっと、お前達あんま会話も無くて、なんかよそよそしかったっちゃろ?」
と、父さんまでもがこの話に乗ってきた。
というか、両親はほぼ一日中仕事してて、帰って来ない日すらざらにあったというのに、最近俺達の会話があまり無かった(主に陽火の方が、俺との会話を避けていたのだが)ことまで把握してたことに驚いてしまった。
俺としては、両親に心配かけたくなくて、表面上は陽火と仲良くやってるつもりだったんだが…
「お前らの親なんやけん、そんくらいは分かるっちゃ!」
「ただ、二人とも思春期やし、本気で嫌いあっとーわけやないのも分かったけん、口出しはせんようにしとったけどね?
…で、どうなん?本当に何も無かったと?」
「本当に何も無かったって言いよろーもん!」
陽火は顔を真っ赤にして否定する。
だが、そこへ月火が訳知り顔でこんな事を言った。
「うふふ♪お母様、お父様、本当に今日は何も無かったんですのよ?ただ、陽火さんが少しだけ素直になった、ということですわ♪」
「ちょっ、月火ちゃんっ!?」
月火のその意味深な発言に、俺と父さんはポカンとしていたが、母さんだけは「なるほどね〜♪」と顔をニヤニヤさせながら納得したような表情を浮かべていた。
それからは、再び他愛の無い会話で、家族の団らんを過ごした。
そうして、色々あった8月13日という一日が終わった。
朝起きたら異世界転生してて、前世の妹と再会したと思ったら、魔獣と戦い、前世の妹と風呂に入っていたと思ったら元の世界に戻って来て、武装集団と戦って…、とあまりにも濃すぎる一日だった。
個人的には、転生した月火と再会出来たことは勿論だが、拾の妹の陽火とも昔のように普通に話せるようになったこと、それが嬉しかった。
だが、それ以上に、これからの戦いに、また妹達を巻き込むことになるということが心配でならなかった。
俺は、前世の妹達を最後まで幸せにしてやることが出来なかった。
だからこそ、転生した今、俺は妹達に前世で与えられなかった幸せを与えてやりたいと思っている。
そのためにどうすればいいか、今はまだ正解が分からない。
ただ一つ確かなのは、今世では自分も含めて誰も死なせない。
命を捨てる覚悟では無く、命を守る覚悟で戦って、最後まで生き延び、そして妹達と共に幸せな未来を築く。
それが、転生した今の俺の、たった一つの目標だ。
*
そんな決意をした夜、俺の部屋に陽火と月火が訪ねてきた。
「お兄様に大切な話があって参りました」
月火にそう切り出されて、一瞬ドキリ!と心臓が跳ねた。
というのも、今朝の風呂場での一件が思い出されたからだ。
まさか、あの風呂場での続きをしようとでも言うのか…!?
『お兄様に、前世から守り抜いたわたくしの初めてを、捧げます…♥』
俺の脳内に、両手でその美しい乳房を隠しただけの、一糸纏わぬ姿の月火の姿が思い浮かんだ。
いやいやいや、落ち着けっ!
だとしても、陽火が一緒なのはおかしい!
さすがに陽火とは実の兄妹で、血が繋がっている以上、そういった関係には…、
『血の繋がりなんて、関係無い!あたしも、お兄ちゃんに初めてを、貰って欲しいの…♥』
再び俺の脳内に、両手でその美しい乳房を隠しただけの、一糸纏わぬ姿の陽火の姿が思い浮かんだ。
「いやいやいや!さすがにそれはマズいって!!」
「何がマズいんですの、お兄様?」
しまった!つい、いけない妄想に対してのツッコミを口に出してしまった。
「…お兄ちゃん、な〜んかイヤらしい妄想しとったんやないと〜?」
「いっ、いやいやいや!?別にそんなこと無いぞ!?」
「本当に〜?」
「あら、てっきりわたくし達が夜這いに来たと思って、わたくし達二人の裸を想像して興奮していたものとばかり…」
この妹達、勘が鋭すぎる…!
「そっ、そんなことより!大切な話って何なん!?」
これ以上この話(月火の裸ならまだしも、陽火の裸を妄想していたなどと知られたら)マズいと思い、強引に話を戻す。
「実は、そのお兄様の妄想とも多少は関係がある話なのですが、」
だのに、月火は俺が二人の裸を想像して興奮していたという前提で話を続けた。
「わたくしの処女をお兄様に捧げるのは、お兄様の妹達、八人が全員揃ってからにしたいと思い、そのことを報告に来ました」
「なんつー報告に来てんだ!?」
「…というのも、他の妹達を差し置いて、わたくしだけが先んじてお兄様との想いを遂げるのは、やはり申し訳ないと思いまして……」
今朝風呂場で俺を押し倒そうとしてきた人物とは思えないセリフだな…
というか、月火の中では、月火も含めた他の妹達全員が、俺とそういう関係になるのが確定事項となっているようだ。
…まぁ、確かに前世の俺はかなりのシスコンで、妹達も全員ではないとはいえ、ブラコン気味だった(明確に嫌われていたということは無い)のは間違いないが、前世での俺と月火のように禁断の恋人関係になった妹は……、さすがにいなかった、ハズだ、うん……、全ての前世の記憶を完全に思い出したわけではないので、自信は無いけど……
「お兄様の気持ちは理解しているつもりです。
今すぐ、その猛った剣をわたくしの鞘に挿入れて、前世からの思いの丈をわたくしの膣内にぶち撒けたいという、その気持ち…!
かく言うわたくしも、お兄様のその雄々しい剣を迎え入れる準備も覚悟も出来ておりますし、こんな話をしている今もお兄様のお兄様が欲しくて欲しくてああ!やっぱりもう無理ですわ!お兄様いますぐわたくしとセッ」
「ストップ!ストーップ!月火ちゃん!落ち着いて!ステイ!ステーイっ!!」
「離して下さいませ陽火さんっ!!わたくしは今からお兄様と一つになるんですのーっ!!」
「だから落ち着け月火ちゃーんっ!(じゃないと、今夜一緒に寝てあげないよ?)」
「…っ!?」
セリフの後半で、目を血走らせながら暴走モードに入りかけた月火を羽交い締めにした陽火が、月火の耳元で何かボソボソと俺に聞こえないレベルの小声で囁くと、月火は一瞬この世の終わりのような顔を見せた後で、急にクールダウンした。
そして、一つ咳払いすると、こう続けた。
「……コホン、失礼致しました。わたくしとしたことが、お兄様にとんだ醜態をさらしてしまいました」
「い、いや…、それはいいっちゃけど…、月火って昔からそんなキャラだったか?昔はもっと奥ゆかしかったような…?」
「あら、わたくしは今でも奥ゆかしいつもりですわよ?」
「そ、そうか…?まぁ、いいや。それより、さっきの月火の話だが…、あ〜、まぁ、俺としては別にどっちでも良いというか…、そもそも、他の妹達のことは気にする必要は無いと思っちゃけどな?」
「いえ、そういうわけには参りません。場合によっては、お兄様の童貞を奪ってしまったことで恨まれてしまう可能性もありますし、そこはやはり一度皆で話し合って、誰がお兄様の初めての相手になるか、きちんと決めたいと思いますので」
「いや…、それはさすがに大袈裟というか…、確かに俺と妹達の仲は良かったと思うが、明確に愛し合った関係にあるのは、月火とだけだったから」
妹と愛し合ったとはっきり言うのは恥ずかしかったが、そこはハッキリしておこうと思ってそう言ったのだが…、
「お兄様…、さすがにそれはあり得ませんわ」
「はぁ」と溜息を付きながら月火がそんな風に言った。
「いいですか、お兄様?お兄様に抱かれたいと思わない妹なんて、そんなの妹じゃありませんわ」
「いや、その理屈はおかしい」
それだと、この世の中、禁断の兄妹愛で溢れてしまうことになる。
「いえ、世間一般の兄妹のことを言っているのではありませんわ。
わたくしが言っているのは、あくまでもわたくし達兄妹のことです」
「いや、確かに月火はそうだろうし、俺だって前世で月火のことを本気で愛していたのは本当だし、今だってその気持ちに嘘はない」
「では、陽火さんのことはどうですか?」
「え…!?」
そこで俺は月火の隣で、顔を真っ赤にして、恥じらう様子を見せる陽火の姿が目に入った。
「お兄様は、陽火さんのことをどう思っていますか?わたくしと同じように、抱きたいと思っているのではありませんか?」
「う…っ、ぐぅ…っ!?」
月火に言われ、俺は咄嗟に返答が出来なかった。
正直に言おう。
俺は、陽火のことも好きだ。
前世で好きになった全ての妹達と同じように、実の妹である陽火のことも、一人の女性として愛している。
これは、俺の宿命とも言うべきか、俺の魂にはシスコンがこびり付いてしまって、剥がれないようだ。
だが、少なくとも現世、この世界では実の妹とそういう関係になるのは許さるざることであり、陽火からしても、実の兄からそんな想いを向けられていると知れば気持ち悪いと思うだろう…
俺はどう答えるべきか悩んでいると、陽火が先に口を開いた。
「あっ!あのねっ!あたしは、お兄ちゃんのこと、すっ…、好きっちゃん!!」
「…っ!?」
顔を真っ赤にしながら、そうハッキリ言った陽火。
陽火が、俺のことを好き…!?
「あ…、ああ、それは、家族としてって意味っちゃろ?そういうことなら俺だって、」
「ちっ、違…っ、そうやなくて!お、男として好き、ってこと……」
言っていて恥ずかしくなったのか、途中から尻すぼみになっていったが、陽火のセリフは最後まできちんと聞こえた。
…どうやら、陽火は俺のことを異性として好き、らしい……
「あっ!で、でもねっ!そのっ!お兄ちゃんと将来的にどうなりたいかとかは、まだ分からんっていうか、考え中っていうか…、えっと、つまり…、」
「つまり、陽火さんは、お兄様のことは好きですが、血縁関係もある故、お兄様の妹ハーレムに入りたいとか、エッチなことをしたいとかは、まだ分からないと、そう言いたいのですわ」
「そっ、そこまでは…っ!?いや…、でも、月火ちゃんの言ったことで、大体あってる…、かな…?」
「陽火…」
「あ、お兄ちゃんの気持ちは聞かんでも分かっとーけん大丈夫!お兄ちゃんが生粋のシスコンなのは、知っとーけん」
「あ、そう……」
どうやら、俺の陽火への想いは筒抜けだったらしい……
なんかめっちゃ恥ずいんやが……
「分かりましたか、お兄様?」
と、そこで何故か月火がドヤ顔をしてきた。
「え、な、何が…?」
「わたくしも、陽火さんも、お兄様のことを異性として愛しているのです。ならば、他の妹達もお兄様を愛しているに決まっていますわ!」
「いや、そうはならんやろ…」
さすがにそれは論理の飛躍が過ぎる…
「いいえ!わたくし達はそういう星のもとに生まれた兄妹なのです!
お兄様を愛し、お兄様に愛された妹達のハーレム、いえ、楽園、つまり、“シスターズアルカディア”!」
「「“シスターズアルカディア”!?」」
「はい!わたくし達はチーム“シスターズアルカディア”!
世界を旅し、世界を救うために、お兄様のもとに集いし我ら“シスターズアルカディア”なのですわ!!」
こうして、“シスターズアルカディア”なるチームが結成された。
…しかし、色々あった8月13日、その最後にまた一波乱あるとは思いもしなかった……
陽火が、俺のことを好きだった。
なかなかに衝撃的な事実で、その前に月火から言われた初めて云々の内容が完全に飛んでしまっていた。
とはいえ、陽火自身、これからどうなりたいかはまだ分からないという。
今後、共に旅をする中でその結論を見つけていきたい、とも言っていた。
じゃあ、俺はどうしたいかというと…、それもまだ正直分からない。
というか、月火がしれっと言っていたが、妹達のハーレム、そんなことが許されていいのか…!?
月火の世界、“ワールドフラワレス”では現在、重婚は認められているらしい。
だが、俺の現世での世界、つまりこの世界では重婚は認められていないし、他の世界でもどうかは分からないし、仮に認められていても、他の妹達がそれを認めるかどうかはまた別の問題だ。
俺は先程、妹達と共に幸せな未来を築くと決意したばかりなのに、ここにきて最大級の難問を突きつけられてしまった…
「本当に、どうしたもんかね〜……」
とはいえ、こればかりは今すぐに答えを出せるような問題では無い。
まずは他の妹達と再会すること、それと目の前の問題を片付けること、そのことに今は集中することにしよう。