第一話 見えない壁
森で狩りをしている時だった、前日までの大雨で森の中はぬかるみだらけ。
「う、わぁぁあ」
ちょっとした油断で俺は足を滑らせて谷底に滑り落ちてしまった。
その時に剣も手放してしまい、少し離れたところに落ちてしまっていた。
武器もなく森の中にいるのは危険だ。
早く剣を回収しないと。
「ぐぅっ」
起き上がろうとしたところで足を捻挫していることに気がついた。
魔物にさえ襲われなければ、剣か枝を杖にして、ゆっくりと村に向かう事はできると思う。
でもそんな時は不幸が重なるものだ。
少し離れたところに1匹のワイルドボアが見える。
残念ながらワイルドボアも俺の存在に気づいているようだ。
幸いなのはヤツらは群れで行動する事が少ないから、この1匹のから逃げられれば助かるかもしれない。
ヤツは地面を蹴り突撃体勢に入っている。
もう逃げる事は出来なさそうだ。
考える時間もないままワイルドボアが突撃してきた。
俺は必死にもがいていた。
「く、来るな!」
何とか助かりたい一心で手を前に出して叫んでいた。
そしたら俺の身体の中を不思議な力が駆け巡って、突き出した手から外へと飛び出していった。
ワイルドボアは見えない壁に激突してそのまま気を失ったようだ。
何が起こったのかよく分からないが、とにかく今は助かったのか?
本来なら狩人である俺はワイルドボアにトドメを刺してを持ち帰るべきなのだが、足を捻ってしまった為に持ち帰る力はない。
持ち帰れないならトドメをを刺しても意味が無いので、俺はこの隙に何とかここから逃げようと剣のある方へ這いずっていった。
そのあとは剣を杖にして、他の魔物に見つからないように気を付けながら、必死に村まで逃げ帰った。
あの不思議な力は恐らく魔物の力。
このまま俺も魔物になってしまうのか?
でも何時だ?いつ魔物になってしまうんだ。
何回も力を使うとなるのか?
それとも時間が経つと魔物になるのか?
魔物の力を使ったものは、それが知られた時点で処刑されている。
でも実際に魔物になった人の話は聞いたことがない。
絶対に誰にもバレてはいけない。
何かあった時は自ら村を出る事を心に誓い、村に帰った俺は不思議な力のことは誰にも言わず、平静を装っていつも通り過ごしていた。
怪我が治るまでは家の中で過ごし、治ってからはまた狩人の仕事を始めた。
暫くすると俺が何も持たずに怪我をして帰ってきた日の事は崖滑りモージとして笑い話にされている。
まぁドジったのは本当だし、みんな心配してたし、もうドジ踏むなよって戒めでもあるから、受け入れるしかないけど。。。
そんな事よりも、あの時のあの力、魔物の力を身を守るために何時でもつかえたら、もっと安全に狩りができるようになるんじゃないか?
いいやダメだ、もしみんなにバレたら自分の命が危ない。
それに何度も使ったら魔物になってしまうかもしれない。
生きるためには出来ることは増やしたい。
魔物にはなりたくない。