民の審判
「今こそ変革のときです!」
声高らかに叫ぶのは、黒いローブに身を包んだ女だった。
そこは城下の大広場。女はいつも王座の傍らに立ち、王が選んだ罪人を占っていた。しかし今日は、女が王と対峙するように立っている。いつもフードで隠していた顔を露わにして。
高く上げた右手の指には、1枚のカードが挟まれていた。
その絵柄を王に突きつけるようにして見せ、それから観衆に見せる。不思議な色をした女の瞳が、一人ひとりに訴えかけるように動く。
誰もが女の声に耳を傾けている。どこから来たのか、何者であるかさえ知らないのに、彼女の言葉が神の御言葉であると言われれば信じてしまうような、信じたくなるような、妙な力があった。
「なんの真似だ、マリア」
王は険しい目つきで女を睨む。顔の下半分が立派な髭で覆われているため分かりにくいが、顔色も悪いように見えた。
マリアと呼ばれた女は、妖艶に微笑む。
「あなたのお好きな裁判のお時間ですよ」
土曜の真昼間。大広場で行われる裁判は、王にとって権力誇示のためのパフォーマンスだった。マリアが来てから彼女に任せていたのは、王へのヘイトを避けるためと、そのほうが面白いからだ。
――それがまさか、こんな結果を招こうとは。
「愚かな王よ。あなたにはその座を降りていただきます」
マリアの言葉に異議を唱える者は、ひとりもいない。
誰かが王を殺せ、と言った。
そうだ、殺せ!
殺せ!
王を殺せ!
誘われるように民の不満が爆発し、怒号が飛び交う。石や砂が投げられる。
悪戯に失政を重ねては民から税を取り立て、国を貧困へと導いた。そのくせ自分は贅沢ばかり。あげく、占いなんて不確かなもので罪を量ろうとするような王を、庇おうとする者はだれひとりいなかった。
どこかから飛んできた剣が王を貫く。
愚かな民衆を睨んだまま、愚かな王は絶命した。
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