尾行1
「──それは……“存在変更”という変装する魔法を使ったからだよ」
「変装する魔法…ですか」
「うん。髪色を変えたり、服を変えたりすることが出来るんだけど…あ、他の人から見えるのが変わるだけね。着ている服は変わんないけど。昔、どこかの古い本に記されていたの。“存在変更”。姿を変えるんじゃない、見せ方を変える魔法……ってね」
使い方によっては、見せないこともできるみたいけど……
でも、それは言わなかった。
だって、“存在変換”、この魔法は、かつて失われた王家の記憶の中にだけ記されていた禁じ手。今使っているのは……怒られるかな?
ななは困惑したように言った。
「えっ……。そんなの、愛莉様にできるなんて!」
「ななに教えたら、秘密の意味がなくなるでしょ?」
「うっ、それは……たしかに……」
ななはその時のことを思い出しているように口籠もりながらも言った。
「でも……私には、お嬢様──あ、いや、愛理様がいつもの髪色に見えましたが…」
「ああ、それは、私が見える人の中でなな以外に魔法がかかるようにしたからだよ!」
私は何事でもないように言った。
「じゃ、図書館に入ろうか」
私は図書館に入った。
後ろで、ななが考えるように私を見ていた事にも気づかずに……。
◇◇◇◇◇◇
時間は少し遡る。
愛莉が家を出掛けた後、ユウタは出かける準備をしていた。
準備しながら、ユウタは思い出していた。
「お父様、今日は図書館に行ってもよろしいでしょうか?」
姉ちゃんが突然図書館に行くと言い出した。
これまでも図書館に行きたいと言う事もあったが、そういう時は「本を取り寄せて欲しいです。」と頼んだり、「お気に入りの本の新刊が出たので図書館に行ってもいいですか?」と目的を最初に言うのに、今回はなぜも言わずに、図書館に行きたいなんて、何か裏があると思った。
それには、みんな思ったようで、父さんが何故行くのだ?と聞いた時は『ナイス!父さん』と心の中でガッツポーズしてしまった。
それを答えた姉ちゃんは、少し間を開けたのを俺は見逃さなかった。
これは、絶対裏がある!と確信した。
ただ、愛莉が隠す理由がどうしても思いつかなかった。だから、気分かもなと最初は気のせいだと思うことにした。
それに姉ちゃんが「神界とチェーロ家系について知りたくなった」と言っていたことは嘘じゃない。それは、俺の勘がいていた。姉ちゃんに関しては、勘が外れたことはない。
そのため、この勘は信じられた。
準備が終わった姉はとても美しかった。
いつもも完璧で美しいが、飾りを付けた姉ちゃんはまた一段と美しさが増していた。
(これは……まずい。絶対、変なヤツが声をかけてくる。いや、近づく前に威圧しないと……!)
俺は密やかに“護衛モード”に入ったのだった。
でもまあ馬車の中だったらまだ安心できるか
その時はそう思っていた。
姉ちゃんが歩いて行くと言うまでは──