記憶1
見知らぬ街の片隅。霞がかる光の中。
私は歩いて行く男女の姿を、どこか高い場所から見ていた。もっと言えば、浮いているかのような感覚だった。
「え? お母さん、お父さん、どうしてここにいるの?」
私──愛莉の口からこぼれた声は周りに響いただけで、二人は聞こえていないようにそのまま歩いて行く。
……おかしい。確かに私の口から発した言葉だったのに、言った瞬間、自分の声が他の人のように聞こえた。
「……っ」
知らないはずなのに、心の奥底で「知っている」と叫んでいる気がした。
「な、に……これ……」
突然、頭の中に映像が流れ込んで来る。
知らない女の子と、その弟らしき少年が、さっき歩いていた二人と一緒に笑いながら食卓を囲んでいる。
(まるで、私の家族みたい……)
その映像は、ずっと昔に体験した、本物の記憶のようだった。
あ! あの二人が行ってしまう! 早く追いかけなきゃ──
そう思った瞬間、視界が白くかすんだ。
(え……?)
◇◇◇◇◇◇
気づけば、見慣れた天井が目に飛び込んできた。
「さっきの夢は、なんだったんだろう……?」
(普段の夢よりも、生々しく感じた……)
もちろん、その呟きに答えてくれる人はいない。
無意識に、答えが知りたかったのか、安心したかったのか……周囲を見渡す。もちろん、どこも変わらない、いつもの部屋の中だった。
広い部屋にソファや鏡、クローゼットや、天蓋のあるベット……豪華な調度品に囲まれた、見慣れた部屋。
でも、安心させようと思って見渡した部屋は、さっきまでの夢のぬくもりと現実の空気は噛み合わず、どこか置き去りにされたような気分になるのだった。
部屋の造りは、いかにも神界の長を守護する一族のものだった。高い天井に、静かに輝く水晶の灯。調度品に彫刻された紋章──
あらゆる全てが“この世界の上位”を示している。………ように、感じた。
ズキッ
「うっ……」
思わずの頭痛に、頭を手で抑える。
頭の中では、色々と知らない思い出や情報であふれていて、今まで、どこかでぽっかりと空いているように感じた隙間に、記憶が順番に埋めていくような感覚だった。
「……これは、今までの記憶……?」
ボソっと呟いていた時だった──
バンッ! と大きな音を立ててドアが開かれ「「愛莉」」と両親が「お姉ちゃん」と弟のユウタが、青ざめた表情を浮かべながら、私の部屋に入って来た。
「ユウタ? お母様、お父様まで?! どうしたの?」
私はどうしてそんなに三人が慌てて入って来たのかが分からず、いつも通りを装って聞くと、私の様子を見た三人は、ほっとしている。なぜそんな表情をしているのか、もっと分からなくなったのだった。
「い、いや、別に用事があるわけではないのだが、夢をみて……」
お父様の声はどこか焦っていた。
「夢の中で、愛莉が魔物のようなものに襲われていたんだ。起きたら、莉乃も同じ夢を見たって言って──」
莉乃は私のお母様の名前だ。
「それで、慌てて来たってわけ!」
お父様の言葉をユウタが引き継ぐ。
ユウタの様子からすると、ユウタもどうやら同じ夢を見たらしい。
(……みんな同じ夢を? ただの偶然にしては、出来ず過ぎている。そして、私の夢……)
「でも、この通り大丈夫だよ! 心配してくれてありがとう!」
三人ともさっきより、安心した表情を浮かべた。
「そうね、余計な心配だったみたい。おやすみなさい」
「そうだな。ゆっくり休むんだぞ、愛莉」
「お姉ちゃん、おやすみ」
「おやすみさない」
──けれど、この夢が、“すべての始まり”だと気づくのは、もう少し後のことだった。




