記憶1
見知らぬ街の片隅。なぜか私は、歩いている男女の姿を上の方から見つめていた。
「え?お母さん、お父さんどうしてここにいるの?」
私──愛莉の口からこぼれた声は周りに響いただけで、二人はそのまま歩いて行く。
……おかしい。言った瞬間、自分の声が他人のように聞こえた。
知らないはずなのに、心のどこかが「知っている」と叫んでいる気がした。
「……っ」
「なに…これ…」
突然、頭の中に映像が流れ込んできた。
知らない女の子と、その弟らしき少年が、あの二人と一緒に笑いながら食卓を囲んでいる。
まるで、ずっと昔に体験した、本物の記憶のように。
あ!あの二人が行ってしまう。早く追いかけなきゃいけない、とそんな気がして、慌てて追いかけようとした。気付けば見慣れている天井があった。
「さっきの夢はなんだたんだろう?」
そう呟きながら周囲を見渡したけれど、どこも変わらない。広い部屋にソファや鏡、クローゼット……豪華な調度品に囲まれた、見慣れた部屋。でも、さっきまでの夢のぬくもりと現実の空気がかみ合わず、どこか置き去りにされたような気分だった。
いかにもこの神界の王様…いや、簡単に言えば天国の神様を守る家系らしい部屋だった。
ズキッ
「……っ」
思わずの頭痛に、頭を手で抑えた。
頭の中は色々な知らない思い出や情報であふれていて、ぽっかりと空いていた記憶の隙間を順番に埋めていくようだった。
「これは…、今までの記憶?」
ボソっと呟いたときだった
バンッ
「愛莉(姉ちゃん)」
と大きな音を立ってて開かれるドアと一緒に私を呼ぶ声が聞こえ、共に弟のユウタ、お母様の莉乃、お父様のユウトが青ざめたように私の部屋に入って来た。
「ユウタ?お母様、お父様、どうしたの?」
私はどうしてそんなに三人が慌てて入って来たのがわからず、いつも通りに聞いてみた。
それを見た三人は、私を見てほっとしていて、私はもっとわからなくなった。
「い、いや、別に用事があるわけではないのだが、夢をみて…」
父の声は、どこか焦っていた。
「夢の中で、愛莉が魔物のようなものに襲われていたんだ。起きたら、母さんも同じ夢を見ていて──」
「それで、慌てて来たってわけ!」
とユウタが言葉を継ぐ。
(……お父様も、お母様も、ユウタも? みんな同じ夢を?)
ただの偶然にしては、出来すぎている。そして、私の夢……
「でも、この通り大丈夫だよ!心配してくれてありがとう!」
三人とも私の言葉で安心したのか、
「そうね、大丈夫そうだし、おやすみなさい」
「そうだな。ゆっくり休んでな、愛莉」
「姉ちゃん、おやすみ。」
「おやすみなさい」
──けれど、この夢が、“すべての始まり”だと気づくのは、もう少し後のことだった。