9, 機微に触れる
「さっそく私をお茶に誘ったということは、どうやら無事に問題は解決できたようね。表情を見てもわかるわ、とてもすっきりしているもの」
「この間はありがとう。結果を言えば、私自身で解決することは出来なかったのだけれど、エドガー王子が全部解決してくれたのよ」
「え、あの王子が!?」
「ノエル、さすがに彼に対して失礼よ」
「あらごめんなさい。でも、結婚する前はあんなに女嫌いだとか訳ありだとかいう話だったじゃない? 正直、彼がそこまであなたの問題に対して迅速に対応するとは思っていなかったわ」
「彼、とってもいい人なのよ。だって……
エドガー王子と話をしたあの日、サンドウィッチを食べたあとは、夜中だったこともありすぐに寝てしまった。
そして、翌日は訓練日ではなかったこともあり、少し寝坊してしまったのだ。
しかし、起きてみれば昨日までのメイドとは違うメイドたちが、朝から私の世話を焼いてくれて、朝ごはんを食べようと自室の外へ案内された。
いつも自室で食べているのに、何故外へ案内するのだろう。
しかしその疑問はすぐに解決されることとなる。
「おはよう」
メイド達が部屋の扉を開けてくれた先にいたのは、なんとエドガー王子だった。
「おはようございます?」
「さぁ、料理が冷める。食べよう」
その日はそのまま無言で食事をしたが、最近はだんだんと会話もできるようになってきた。
おそらく、一緒に食事をとる理由は、前に私がご飯を食べることが出来ていなかったからだろう。
そんな理由からだったとしても、一緒に食事をとる相手がいるというのはいいものだ。
「へぇ、今は一緒に食事をとっているなんて……本当に信じられないわ。仲が良いじゃない……それでそれで?」
ノエルは私の話を聞くと、面白そうな顔をして話の続きをするようにうながした。
「あと、書類仕事もエドガー王子から直接適切な量を割り振ってもらえるようになったわ。それに、最近は訓練の合間を縫って、実際に困っている人がいる地域へ視察や手伝いにも行っているの!」
「ふふ、リゼット、楽しそうね」
「えぇ、それに来週のノエルの結婚式には一緒に行こうって話になったのよ! 私の方からお願いしようと思っていたから、誘ってもらえて驚いたわ。もしかしたら、同僚よりも友人に近い関係になれているのかもしれないわね……」
「友人……ね」
「どうかしたのノエル?」
「いえ、何でもないわ」
彼女は静かにお茶をすすって、何か思うところがあるような顔をしていたが、こういう時は大体私には教えてくれない。
だから私も深く追求せず、机の上へ書類を出した。
「え、まさかここで仕事を始めるの!?」
「少しだけだから! 私のところで新しく働いてくれているメイド達、とっても優しくて働き者でいい子たちばかりなのだけれど……私が少しでも働きすぎると、すぐにエドガー王子の方に報告がいってしまうのよ」
「……報告?」
「えぇ、私は少し無理しすぎるところがあるらしいから」
「それはもっともだけれど……なんだかそこまでされると窮屈じゃない?」
「そうかしら?」
「いや、リゼットが何も思わないならいいの……なるほど、リゼットもかなり気持ちが変わってきているみたいね……」
ノエルが何か小声でブツブツと言っているのは聞こえたが、その内容までは耳に届かなかった。
しかし、多分私への言葉ではなく独り言だろうから聞き返すことはせず、机に出した書類を読み始める。
そして、しばらくして考えがまとまったのか、ノエルが口を開いた。
「ねぇリゼット、初恋の彼については最近どう思っているの?」
「……勿論、今でも好きよ」
正直そんな質問が飛んでくるとは思わなくて、そして……なぜか彼の存在が頭の隅の方にあったせいで、答えるタイミングが少しおくれてしまった。
前はあんなにも、頭の中は彼のことでいっぱいだったのに……何故だろうか?
「初恋の彼を追い求めるのもいいけれど、いま傍でリゼットのことを大切にしてくれている人に目を向けてみてもいいかもしれないわよ」
「それって……」
しかし、私が質問するのを遮るようにもう一度彼女は話し出した。
「さぁ、やっぱりここで仕事をすることは私が許さないわ! ゆっくり甘いものでも食べましょう!」
「あぁ……私の書類が……!!」
ノエルは私の書類をパッと取り上げると、そのまま鞄の中に入れてしまったものだから、さすがに私も仕事をするのは諦めた。
そして、おいしいケーキを注文するのだった。
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