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7, 優しい言葉

その日の夜、私は頭を抱えて机に突っ伏した。


「うまくいかないものね……」


時計の針を見れば夜中の二時を回っていた。

そろそろ寝なければ……


ノエルと話をした後、私は王宮に戻り、メイドたちのもとへ向かった。

その足で行かないと、なんだかんだ後回しにしてしまうような気がしたからだ。


「少し、言わなくてはならないことがあるのだけれど」


私がメイドの働く部屋のドアを開ければ、彼女たちは少し焦ったような顔をしたが、またすぐに私のことを見下すような態度にもどった。


「リゼット様じゃないですかぁ。どうしました? 今私達忙しいんですけど」


「……目上の人にその態度は良くないんじゃないかしら?」


「いきなりなんですか、怖いです!」


「そうじゃなくて、話し合いましょう。貴方達の私に対する態度について、私の方に何か問題があるのなら……」


私は彼女たちの睨むような視線を感じて黙り込んだ。

どう説得すべきか悩んでいると、今度は向こうが口を開く。


「私たちは王宮に勤めるメイドと言えど、皆貴族の家の出なんです。あなたは騎士になって、公爵家に取り入って、王家まで図々しく乗り込んできた孤児でしょう? どうして私達があなたに頭を下げなきゃいけないの?」


「……」


まさかここでも騎士団に入った時と同じように、出身のことを理由に差別されるとは思っていなかった。

本来は毅然と言い返せるはずなのに、騎士団に入ったばっかりで孤独だった自分と今の自分が重なってしまい、何も言えなくなってしまう。


「さぁ、早く出て行ってください。あとこれもよろしくお願いしますね」


結局、王太子妃としての書類仕事をどっさりもらって帰ってきてしまった。


出自のことを引き合いにだされたら何も言い返すことは出来ないし、それに加えて話し合う機会もなく追い出されてしまってはどうしようもなかった。


「……はぁ、やっぱりノエルにもう一度相談すべきかしらね」


メイドたちの機嫌が悪かったからか、なぜか今日は夕ご飯が運ばれてこなかった。

流石に今日一日動いた後だということもあり、お腹から音が鳴る。


「この書類までチェックしたら一旦寝ようかしら……」


そう思った時、突然夫婦の寝室に繋がっているドアがノックされた。

そのドアを叩ける人は、一人しかいない。

しかし、その一人には私の部屋のドアをたたく理由なんてないはずだ。


疑問に思いながらドアを開けに行くと、そこにはやはりと言うべきか、エドガー王子が立っていた。


「えっと、何の御用でしょうか?」


「……いや、外から帰ってきたときにまだ部屋の明かりがついていたから気になっただけだ」


「そ、そうですか」


私もそうだが、彼もこんな時間まで仕事をしていたのか驚く。

そして、一瞬メイド達との件を相談しようかと思ったが、やはり忙しい彼には迷惑をかけられないと思いなおした。


「私なら大丈夫です。この仕事を終わらせたら寝ようと思っていたところなので」


そこまで言ったところで、彼は私の机の上にある書類を凝視した。

そしてその直後、ツカツカと机まで歩いてきた。


「……なんだ、この量は」


「すみません、まだ机の上での仕事には慣れておらず……」


「そういうことじゃない。この書類は誰に渡された?」


「誰って……メイド達に渡されましたよ。これは王太子妃の仕事だからって」


「……」


彼が黙り込んでしまったことでより一層不安を感じていると、最悪なタイミングで私のお腹が再び音を鳴らした。


「あっ」


「……夜はあまりとらなかったのか?」


「えっと……そうなんです。少ししか食べていなくて」


「何を食べたんだ?」


「……今日はアクアパッツァだったわ」


「それはないはずだ。帰ってきたときにちょうど料理人に会って、今日は肉料理だったと言っていた」


「……」


何も言い返すことができなくなったので、ちらりとエドガー王子の方を見てみれば、彼は真剣な顔をしてこちらを見ていた。


「いつも、こうなのか?」


「それってどういう意味でしょうか?」


「いつも、メイド達からこのようなひどい扱いを受けているのか、と聞いている」


最後の望みをかけてごまかしてみようとしたが、やはりもう彼を騙すことは出来ないみたいだ。


「……ごめんなさい」


「何故君が謝る?」


「それは、私が王家の名に泥を塗ったから……」


「そんなことで泥を被るほど名はすたれていない……それに、謝るのは俺の方だろう。同僚のような関係でいようと約束した人がこんな事態に陥っていたことに、気が付いてやれなかったのだから」


彼に優しい言葉をかけてもらえるなんて想像していなかったからだろうか?

ノエルと話していた時でさえ出なかった涙が、今両目にたまっている。

自分では気が付いていなかっただけで、私は相当追い込まれていたのかもしれない。


なんとなく彼には涙を見られたくなくて、私は思わずそっぽを向いた。


「お、おいなんだ。いきなり顔を背けて、本当に大丈夫なのか?」


それに焦ったのか、彼は私の顔を覗き込んだ。

そして、ハッとしたように目を開いた。


……騎士が泣くなんてかっこ悪い。

エドガー王子も驚いている。

はやく涙を止めなければ。


そんな私の頬にそっと、彼の手がのびる。

しかし、触れるか触れないかのところで数秒さまよった後、静かに離れていった。

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