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5, 結婚初日の夜に

私は男を捕まえたあと、会場に戻りこの後の処理を専門の人に任せた。

男がすぐに雇い主を吐いたことで、事件の詳細な内容はすぐに明らかになったようだ。

痴情のもつれとは恐ろしいということだけは理解した。


まぁ、このような殺害未遂事件の現場での対処は戦地での戦闘に比べればそれほど大変ではない。


というわけで、倒れたフリをしたことでさんざん側近に心配されていたエドガー王子が夫婦の寝室にやってくるのを、ぼうっとしながら待っている。


「すまない、誤解を解くのに時間がかかった」


彼の部屋の方の扉が開き、スタスタとこちらへやってくると、そばにある椅子に座る。

彼は水差しに入った水を注ぎ、それに口を付けた。


「いえ、それほど待っていませんので」


正直、いくら結婚初日の夜とはいえ、噂通りの……結婚式での彼ならば、ここには来ないのではないかと思っていた。

しかしそれと同時に、犯人を捕まえるために私と協力して一芝居うってくれた彼であれば、来るのではないかとも感じていた。


私のために準備や支度をしてくれたメイドも、

「本当にこの準備が必要なのかしら?」

といった表情を隠そうともしていなかった。


本来失礼な態度として咎めるべきではあるが、それでいてエドガー王子がここに来なかった時のことを考えると何も言うことが出来なかったのだ。


「俺は君にいくつか話さなければならないことがある」


「はい」


私はソファに預けていた背中を伸ばし、一体どんな言葉が投げかけられるのだろうと耳を澄ませる。


「まず……その、婚約を父上が申し込んでから、ずっと蔑ろにしてしまいすまなかった」


「はい……って、え! いえ、そんな、気にしていませんよ」


まさかの謝罪に驚きの声が出てしまうも、何とか平静を取り繕う。


「俺の噂は聞いているだろう? 訳ありだとか、女嫌いだとか……」


聞いている……けれど本人にそう言われると肯定しづらい。


「ええ、まぁ、ははっ」


「それは事実なんだ」


「……」


かなり真剣な顔をしているエドガー王子に対して、私は返す言葉が見つからなかった。

少しの沈黙の後、彼はまた話し続ける。


「でも君は、今まで顔を合わせてきた女性とは違うように感じた。騎士としても王族としてもよくできる人のようだし、何より俺に媚びてくることがない。俺はそういった態度が苦手なんだ」


まぁ確かに……そもそも私はエドガー王子の地位を狙っているわけでもなければ、エドガー王子のことを恋愛的な意味で好きなわけでもない。

媚びる理由などどこにもないのだから、この態度は私のとって当然のことだった。


話を聞いても何も変わらない私の様子に安心したのか、少し息をついてから再び彼は話し出した。


「だが、君を愛することはできない」


しーんとした空気が辺りを漂う。

普通の夫婦ならいくら政略結婚と言えど、結婚初夜に夫婦の寝室でこんなことを言われたら離婚まっしぐらだろう。

しかし、私はそれでも平然とした態度を保つことが出来た。


むしろ、王子とはまともなコミュニケーションができないかもしれない、と考えていたころと比べれば、安心しているまである。

ここまで胸の内を明かしてくれるということは、本当に私の冷めた態度を気に入ったのだろう。


「何も言わないんだな」


「えぇ。失礼なことを言いますが……結婚前は、このまま一生エドガー王子とは話すことはないのではないかと思っていましたから」


「本当にそれについてはすまない」


またすごく申し訳なさそうな顔に戻る王子を見て、なんだかおもしろくなり笑ってしまった。

なんだ、ただのいい人じゃないの!


「それなら、これからは同僚のような関係でお願いしますね」


「あぁ」


そのまま彼は夫婦の寝室から自分の部屋へと帰っていった。

私も水差しの水を一口のみ、ソファから立ち上がる。


世継ぎの問題はまだ残っているけれど、そんなことは後で考えればいいだろう。

思ったよりも良い王城生活を送れそうな予感に、私は鼻歌を歌いながら、自室へ戻るのだった。

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