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3, 夜会にて

私の記憶通り端正な顔をしたエドガー王子は、私が来たのをちらりと確認すると、すぐに結婚式会場のドアの方へ視線を戻した。


まぁ彼に比べたら私の見た目は平凡そのもの。

唯一人と異なるのは、薄紫色の目くらい。

幼いころはほぼ黒に近い色だったけれど、なぜか大人になるにつれてこの色になった。


大体夜会に行った時に褒められるのは、騎士としての実績とこの目の色。

しかしその程度の魅力では、やはり王子の興味を引くことは出来ないようだ。


別に興味を持ってもらわなくてもいいけれど……最低限のコミュニケーションすらできないと、いよいよ雲行きが怪しくなってしまう。


「よろしくお願いします」


彼の隣に並び立ち、一言声をかけてみる。


「あぁ」


そのそっけない返事に、さらなる不安を覚えたものの、容赦なく会場への扉が開いた。

会場には王家と公爵家の親族たち、皇国や公国からの代表者、それに有力貴族の当主達……


この人たちに、噂通りの姿を見せなければならないのだろうか?

結婚式と言えばもっと幸せな感情もわいてくるはずなのに、わいてくるのは冷や汗のみ。

私が思わず固まっていると、先に会場内へと足を踏み入れようとしたエドガー王子がこちらを振り返った。


「余計なことはせず、堂々としていてくれ」


不愛想な態度でズンズン会場内へ入っていく姿に、私はもっと不安になるのだった。


◇◇◇


「結婚式にも出席していましたの。お二人はとってもお似合いですね」


「ありがとうございます」


エドガー王子がお礼の言葉を返すのに合わせて、私も頭を下げた。


結婚式は無事終了し、今は一番の不安材料であった夜会に出席している。

結婚式に出ていた人は勿論、国中の貴族が参加しているようだ。

今相手をしているのは、公国の筆頭公爵家の奥方だったはず……


「お二人の噂を先日聞きましたの。私も若いころを思い出して懐かしい気分になったわ。こんなにおめでたいことが続くのだもの、我が公国との関係もよりよくなることを願っていますよ」


「はい、近々公国にもお邪魔致します」


結婚式はつつがなく終了した。

私のイメージと違い、幸せというよりは厳かな雰囲気で……誓いのキスとかもなかったけれど、別に参列者は違和感を抱かなかったようだ。


そして夜会に参加する前、私はエドガー王子と少し話すことに成功した!


「あ、あの」


夜会会場の扉の前で、私が勇気を出して口を開くと彼は


「なんだ」


と言葉を返してくれたのだ。

相変らずこちらを見ない不愛想な態度ではあったけれど、このチャンスを逃すまいと私は質問をした。


「夜会にはどのような立ち振る舞いで臨めばよいでしょうか? その、皆の間に流れている噂を裏切るのは……」


「ただ俺の横にいるだけでいい。先ほどと同じように余計なことはしないでくれ」


「分かりました」


このようなやり取りのもと、いざ夜会に来てみれば、本当に私は横にいるだけで何もすることがなかった。

来賓との話も全て彼がこなしてくれている。

着かず離れずの距離感は周りの人の目には「まだ人前に出るのを恥ずかしがっている」と映っているようで、あちらこちらから好感触の噂話が聞こえてくる。


良かった、これで一安心だ。


「この度はご結婚おめでとうございます」


「ありがとうございます」


また先ほどと同じような会話にあわせてお辞儀をしようとしたその時、私は目の端に怪し動きをする人物を捉えた。


普通だったら気が付かなかったに違いない。


しかし私は騎士として十年近くの特訓を重ねてきた。

だからこそ、不審な動きにはいち早く気が付くことができる。


あの動きは何か刃物を腰に隠しているようだ。

私は相手に察されない程度に少し動きを監視してみる。


どうやら今すぐ行動に移すつもりはないらしく、会場の様子を確認していることが見て取れた。


……これは果たして横にいるエドガー王子に相談すべきだろうか?


いやいや、私の話なんて聞いてくれない可能性もあるし……

そっと隣に立つ彼の方を見てみると、会話がひと段落したのか、無言で私の方を見ていた。


目が合ってしまい気まずい。

しかし、相談すべきまたとないチャンスだ。


「あの、少し話したいことがあるのですが……一騎士として」


飲み物を受け取りにテーブルへ近寄りながら話しかけてみる。

すると意外にもあっさり


「聞こう」


と話に応じてくれた。

私はいささか彼のことを悪く見過ぎていたのかもしれない。

私の中の彼に対する評価を少し改めつつ、メイドからワインを受け取った。

そしてそれに一口口を付けてから話始めようとした時、彼は眉間にしわを寄せてささやいた。


「飲むな」


確かに彼の口はそのように動いているように見える。

私はそっと口を離すと、そのワイングラスを貸せとでもいうように手が伸びてきた。


「……誰がこんなことを」


「どうしたんですか、まさか」


毒が入っていたのか?

という言葉は飲み込んだ。

ここでそれを口にしたら、周囲の人間に不安を与えてしまうと思ったからだ。

どうやらその判断は正解だったようで、彼の方も言葉を濁して、


「想像通りだ」


と短い返事を返す。

……いや、返事が短いのは今日一日ずっとだけれど。


「関連があるかはわかりませんが、実は私が話そうとしたことは……」

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