28, リーとエディ
「……」
私は静かに花を手向け、手を合わせる。
私の一歩後ろで、エドガー王子も手を合わせる音が聞こえる。
医者をなんとか説得して、私達は無事に皇国から王国へ帰って来た。
そして、彼との約束通り、私が幼少期を過ごした……そして、エディと会った街で途中下車をしている。
私は嫌な思い出から逃げるため、酒場が全焼したあとは一度もこの街に来たことがなかった。
だから、ここにこうしてお墓があることなんて全く知らなかった。
酒場によく来てくれていたお客さんや近所の人がつくってくれたのだろうか?
あの時私が火事現場から逃げなかったら、お客さんや近所の人と共に暮らしていた未来もあったのかもしれない。
でも……過去がどうであれ、今とても幸せだからそれでいい。
『元気でやっているよ』
この言葉をお母さんと村のみんなに伝える。
きっと笑ってくれているだろう。
「皇国では色々あったけれど、こうしてお墓参りができたのはよかったです」
皇国で私の出自を明らかにする動きがなければ、ここにお墓があることに一生気が付かなかったかもしれない。
「リゼットがそう思うなら良かった」
彼はお墓に向かって一度お辞儀をすると、私に向かって手を差し出した。
「じゃあ、カフェにでも行こうか」
「はい」
いつものように手を繋ごうとすると、彼は少し手を動かし、指と指が交差するように繋ぎなおした。
いわゆる、「恋人繋ぎ」と言われるものだ。
「え、えっと……」
私はずっと初恋を追ってきたため、こういったことに耐性がない。
でも……全く嫌ではなかった。
だって、相手はエドガー王子だから。
「ダメか?」
「……ダメじゃないです」
「そうか」
思ったよりも淡白な返事をするんだなと思い、彼の顔を見ようとするとなぜか顔を逸らされた。
「どうしたんですか?」
「……なんでもない」
しかし私は気が付いてしまった。
彼の耳が赤くなっていることに。
「もしかして……照れてます?」
「……仕方がない、こんなことをするのはリゼットが初めてだから」
「それは……嬉しいです、ね」
聞いた私もなんだか照れてしまって、私達はお互い顔を背けながら、カフェへと向かった。
◇◇◇
コーヒーとカフェオレが一杯ずつテーブルへと運ばれる。
心地よい春の風が私の髪を揺らす。
今日は外の景色を見たい気分だったので、テラス席を選んだ。
店員さんが気をつかってくれたのか、人払いがされている。
あとでお礼にチップを渡さなくてはならない、など、たわいのない話をしているうちに、私達の飲み物は半分ほど減っていた。
「そろそろ、本題に入ろうか」
「……はい」
彼のその言葉により、一気に辺りは真剣な雰囲気に包まれる。
通りを歩く人の声も遮断されたような気分だ。
「俺から話そう」
「……お願いします」
彼は深呼吸をした後、ゆっくりと話し始めた。
「俺は……幼いころに大切な人を失ったことがあった。その人のことを心から愛していたからこそ、失った痛みに耐えることができず……人を愛することが怖くなったんだ」
女嫌いの噂の原因は、大切な人を失ったことによるトラウマだった。
「でも、リゼット、君に出会った」
彼は私の目をまっすぐに見つめる。
「愛することはできない、と言ったことを後悔していたんだ。君は不愛想な態度をとる俺を責めることなくそばにいてくれた。それに……俺と同じように、人々を笑顔に、そして平和な世の中にしたいと考えていることを知った。」
「だから、改めて俺に言わせてほしい」
そこで彼はポケットから箱を取り出した。
蓋を開けるとそこには……私の手元にあったはずの、あのおもちゃの指輪があった。
「好きだ。俺と結婚してくれないか? もう二度と失わないように、俺が全力で守るから」
長年追い求めていた好きな人からの言葉は、私の頬を赤く染め上げる。
そして次の瞬間には、思いの丈が一気に口から溢れ出た。
「……私、エディを追って騎士になったんです。その後公爵家の養子になった理由の一つも、エディを探すためでした。だから、むしろ最初は恋愛結婚ではないことに喜んで……でも、エドガー王子のことを知っていくたびに、どんどん惹かれてしまう自分がいたんです」
恥ずかしくて逸らしていた目を彼の方へ合わせる。
「その……私も! エドガーのことが大好きよ、だから……よろしくお願いします」
「私もあなたを守るから」と言うと、彼は「それは安心だ」と微笑む。
そして私の左手を取ると、その薬指に指輪をはめてくれた。
まさか、エディにこの指輪をはめてもらえる日が来るなんて、彼と結婚した当初は思ってもみなかった。
こんな風に愛し合えることも。
「そう言えば……いつから私の正体に気が付いていたんですか?」
「火事の日だ。君を抱えた時、右手に見覚えのある指輪がはまっているのを見て、すべての既視感が繋がった」
「だから、この指輪をエディが持っていたんですね」
「エディ」という呼び名を強調してみると、彼は分かりやすく嬉しそうな顔になった。
「リーの方こそ、まだ気が付いていないかと思っていたよ」
意趣返しのように、彼もまた私のあだ名をわざとらしく呼ぶ。
「実は私も、同じくらいのタイミングで気が付いたんです」
そんな話をしながら、ふと通りを歩く人々に目を向けると、そこにはたくさんの笑顔があった。
戦争の時にはあまり見ることが出来なかった光景。
こんな日々を……守っていくためにも、私はこれからも頑張らなくてはならない。
でもきっと大丈夫。
だって私の隣にはずっと……愛しく尊敬できる彼がいるのだから。
「どうかしたのか?」
「いや、とても幸せだなと思っていました」
私達は二人で笑いあった。
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また、作者ページから他作品も見てもらえると泣いて喜びます(*´`)
反応があれば、
リゼット、エドガー、ノエル中心の後日談、
騎士団長の後日談、
リゼットとエドガーの幼少期の掘り下げ
を番外編として書き足したいと思います。




