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24, 皇国の思惑

「あちらに見えますのが、皇国を代表する時計台になります!」


「えぇ、とても美しいですね。シンメトリーなデザインと言えば、やはり皇国の建物が一番にあがります」


違和感のある晩餐会から二週間ほどが経った。

私は今日も交渉……ではなく、何故か皇国見学をしている。


「やはり魅力を知ってもらうためにも、時計台の上からの景色も案内したいのですが……どうでしょうか?」


今日の案内係は第五皇女だ。

昨日は第六皇女。

その前は第二皇子。

そしてそのまた前は……いや、考えるのをやめよう。


私はずっと、こうして皇国のあちこちに連れていかれ、時には皇国の要人に会い……交渉にはまったく参加させてもらえていない。

さらに困ったことに、晩餐会以降王やエドガー王子とは一度も会わせてもらえないのだ。

何度か顔を合わせたいと願い出たのだけど、うやむやにされたまま今日まで来てしまった。


「疲れてしまいましたでしょうか?」


「……いえ、大丈夫です。すみません、少し呆けておりました。上まで行きましょうか」


「はい!」


おそらくこの私より幼い皇女は、何も知らずに、ただ善意で私を案内しているのだろう。


その純粋な笑顔を守るためにも、私は彼女と一緒に皇国巡りを続けた。


◇◇◇


「王太子妃様、第五皇女様、ご歓談中のところ失礼いたします。まもなく王太子妃様には次の予定がありますので、お帰りになられる支度を始めていただけると……」


「あら、もうそんな時間なのね! 丁度図書館も見て回りましたし、今日はこれで帰りましょうか」


「えぇ、今日は案内をありがとうございます、皇女様」


「王太子妃様は博識な方で、案内も楽しかったです!」


ニコニコと笑う皇女様は、やって来た馬車に乗って皇城へと帰って行った。

私も別の馬車に乗り、近くのレストランへと案内される。


「ええと……次は何をする予定かしら?」


私は宰相に対して質問をする。


「実は、王太子妃様にぜひお会いしたいという者がおりまして……」


初対面では慌てたような顔をしていた宰相も、ここ数日は至って普通の態度だ。


「そうなのね。どこの方かしら?」


「公爵家の次男、イアン様です」


「公爵家の息子……?」


そんな人が私に、一体どんな用があるのだろう?

私が騎士として戦場に立っているから、その噂を聞きつけてのことだろうか?


……いや、これも時間稼ぎの一種なのだろう。

これまでにも、何度か国の要人に会わされることがあった。


これだけ私を連れまわしていることに関して、宰相も一枚嚙んでいるとすれば、時間稼ぎだと結論づけるのは妥当である。

よく次から次へと用事を作ることができるものだ。


今日はもう疲れたし、早めに切り上げて城へ帰ろう。

そして、この状況を整理しなければならない。


そう決意して馬車を降り、レストランに入ったのだけれど……公爵家の息子は、私の想定とは異なる態度を見せた。


「こんにちは、本日は時間をとっていただきありがとうございます。王太子妃様……そして、名高い騎士様に会えることを楽しみにしておりました」


わざわざレストランの入り口まで迎えに来た彼は、私の髪を一房手に取り、キスを落とす。

そのまま私の手を取り、席へとエスコートしてくれた。


思っていたよりもあつい歓迎に、私は少し混乱する。

……時間稼ぎのために、私と会うわけではないのだろか?


それと同時に、皇国と王国では既婚者に対する態度がかなり異なることに驚いた。


「誉め言葉をありがとうございます。私は、リゼット・ロランスと申します」


「あぁ、僕はイアン・ランドルフと申します。かねてよりリゼット様の噂は耳にしておりました。騎士としてのご活躍に加えて、王子とご結婚なされたと」


「はい、エドガー王子は私にはもったいない人ですが……」


この人も私について根ほり葉ほり聞くつもりだろうか?


「その、失礼なことをお聞きしますが……王子とは恋愛結婚をされたのでしょうか?」


「え……あぁ、はい。彼の王国の理想を語る姿に惹かれたのです」


恋愛結婚ではないけれど。

エドガー王子のことを恋愛的に好いているという意味では間違っていない。


「やはりそうなんですね……残念です、僕がもう少し早く貴方に会えていればよかったのに」


「そ、そんな……はは」


まるで口説かれているかのようなイアン様の言葉に、私は苦笑いしか返すことが出来ない。


「ところで、皇国での生活はどうですか? 何か困っていることはないでしょうか?」


目の前に出された料理に口を付けながら、私は思考を巡らせる。

困っていることと言えば、王と王子に会えないことである。

しかしそれを彼に言ったところで、改善するとも思えない。

ここは無難に返事をした方がよさそうだ。


「いえ、皇国について知るいい機会はあれど、困っていることはありません。みなさんに感謝しています」


「それは良かった。時計台には行かれましたか?」


「はい、下から見た時はその精緻なデザインを楽しむことが出来ましたし、上からの眺めは言うまでもなく美しかったです」


「そうですよね。僕も子供の頃からあの場所がお気に入りで……


イアン様の話が上手いからか、途中で抜け出そうと思っていたが、なかなか帰れない。

話は面白いけれど……ここで彼の話に乗ってしまうと、また皇国の思惑通りな気がしてならないのだ。


頃合いを見て、そろそろ帰るつもりであることを話し出したとき、彼は今日一番真剣な顔で私の目を見た。


「リゼット様は、皇国のことを気に入ってくれましたか?」


「……? えぇ、良い場所だと思います」


長年過ごしてきた王国ほどではないけれど、皇国の魅力はこの二週間ほどでよくわかった。

例えそれが私の肉親を奪った相手の母国だとしても、それだけで皇国全体を憎んではいけないと……改めて思ったほどに。


「皇国は王国と同じくらい……それ以上かもしれませんが……素敵な場所です。リゼット様は、ここでもう少し過ごしてみる気はありませんか?」


……私は王太子妃。

そんな私に対して、なぜこのような提案をするのか?


「貴方が残ってくれれば、僕だけでなく、皇帝をはじめとして皆喜ぶことでしょう」


「……」


「そして、その時には僕とも仲良くしてくださいね?」


彼は椅子から立ち上がり、私の前に立つと、とても親密そうな態度で私の手を握りしめた。


「……す、少し頭の隅には入れておきますね」


「はい、いいお返事をいただけると嬉しいです」



どうやら皇国は、私を国に引き留めようとしているらしい。

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