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23, 違和感

「そろそろ着く」


「……起こしてくれてありがとうございます」


ふかふかのクッションを横に置き、大きく体を伸ばす。

馬車の外の風景を確認すると、確かに私達の王国とは違った植生が見られ、行き交う人々の服装や露店の売り物も少し異なっていた。


「あなたはちゃんと寝れましたか?」


「あぁ、もともと睡眠時間が多い方ではないんだ」


「それならいいですけれど……」


私が眠りについたときにもまだ寝ていなかったような気がするので聞いてみたが、大丈夫だと一蹴されてしまった。


「そう悲しい顔をしないでくれ。俺は本当に大丈夫だから……むしろ大きな交渉の前にしては、君がいたからかよく眠れたほうだ」


「……」


いつになく早口で私を慰めた彼は、最初は自分の言っていることの意味に気が付いていないようだった。

しかし、私がその言葉の意味に顔を赤くしているのを見たからか、しばらくしてから口を押えた。


「……いや、今のは聞かなかったことにしてくれ」


「え、えぇ」


気まずく、それでいて恥ずかしい雰囲気のまま、馬車は皇国の城へと向かって行った。

段々とスピードは落ちていき、大きな門の前で完全に停車する。


「手を」


「ありがとうございます」


馬車は無事に城へとたどり着き、私達は皇国の地へ足を下ろした。


「ようこそお越しくださいました」


かなり上の身分であるのだろう。

一人の男が綺麗な服に身をつつみ、私達に向かって恭しく礼をしていた。


「あぁ、こうして直接会うのは初めてだな、宰相殿」


エドガー王子が挨拶をしたことで、私も急いで礼をする。


「こんにちは、私はリゼット・ロランスです」


「あぁ、存じ上げております。私は……」


相手が名乗ろうと顔を上げ、私と目が合った時、何故か彼は驚いたように目を見開いた。

突如訪れる無言の時間。

私は何か粗相をしてしまったかと不安になり、エドガー王子の方を見ると、彼もまた私と同様に、宰相に対して困惑の表情を向けていた。


「……どうした?」


「……いえ、すみません。奥様があまりにも美しすぎる故、少々動揺してしまいました。それでは私はこれにて失礼いたします」


彼は早口で私達に話した後、そのまま城の方へ帰って行ってしまった。

自分が名乗っていないことにも気が付いていなさそうだ。


「いったいどうしたのでしょうか……」


「……俺にもよくわからない」


「とりあえず、あちらまで行きましょうか」


「あぁ」


不安な気持ちを抱えながらも、私はエドガー王子に手を引かれ、そのままお城の方へ歩き出した。


◇◇◇


「王国の皆よ、ようこそおいでなさった」


「招待、感謝するぞ」


時刻は午後8時。

夜会に招かれた私達は、ここで初めて皇国の皇族たちと対面した。


城に着いた時、私はなぜか王やエドガー王子とは別のフロアへ案内され、念入りに旅の疲れを癒してもらっていた。


そう……1日しか移動をしていないにもかかわらず、それは念入りに。

私達は、少し前まで戦争をしていた仲だというのに。


普通なら感謝したいところではあるが、何か裏があるような気がしてしょうがない。

夜会を開く時間も、一般的な時間よりはかなり遅いように感じる。


馬車を降りて、城に入ってからずっと会っていなかった、王とエドガー王子の二人も、私と同じように違和感を抱いているようだ。


「リゼット王太子妃様はどうぞこちらへ」


メイドの一人が私を案内した席は、私の想像よりもかなり上座の席だった。

皇子や皇女よりも上座に座ったため、少し居心地が悪い。

何故、皇国はここまで下手にでるのか?


それに何故か真横に座っている……おそらく皇太子であろう彼からは、隠しきれていない憎悪を感じる。

一般の人なら気が付かないかもしれないが、私は騎士だ。

こういった感覚には敏感だからこそ、猶更この場が気まずい。


「それでは、今宵は仲良く話しましょうぞ」


皇帝の一言により、夜会……晩餐会が始まった。

最初はお互い警戒しつつ、うわべだけの会話を重ねていたけれど、お酒が入ると徐々に雰囲気は明るくなっていく。


そして、その盛り上がった雰囲気のなか皇国側の人間が振る話題は……何故か私のことについてばかりだった。


「エドガー王子も良い人と結婚されましたな」


皇帝がエドガー王子に話しかける。


「はい、自分にはもったいない人です」


そう言って、彼は私の方へ顔を向けた。

照れているというよりは、やはり私と同じように警戒しているようだ。

「もったいない人」という表現も、あまり皇国へこちらの情報を出さないようにするための言葉だろう。


「とても仲がよろしいのですね。リゼットさんはどちらのご出身で?」


今度は皇后が私に向かって質問を投げかけてきた。


「はい、ロランス公爵家の次女でございます」


国境の村の出身であることなんて、今ここで伝えるべきではない。

私もエドガー王子と同じように、当たり障りのない返答をした。


「ロランス公爵家、か」


皇帝は一瞬何か考えているような表情を浮かべた後、更に質問を投げかける。


「ロランス公爵家には一人娘がいると聞いていたが、次女だと言ったな……君は養子かい?」


「え……、はい。事情があり、数年前ロランス公爵家に迎え入れてもらいました」


皇国側は私に関するそれ以上の情報を聞き出そうとしていたが、隣にいるエドガー王子が口元だけに笑顔を浮かべ、その場を制した。


「妻の出自については、この場ではさほど重要ではないでしょう。それよりも、この国の特産についてお聞きしたいです」


「そうだな、皇国との間ではこれから輸出入も始まるだろう。私も交渉の場で話す前に、こういった固くない場での話も聞きたいぞ」


国王もそれに加勢したことで、私への質問の嵐は収まった。

しかし私は、心に残る違和感をぬぐうことができないまま、その話を聞く。


そして……この日に感じた違和感は、隣の席からの鋭い視線は、この後大きな事件を引き起こすこととなる。

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