22, 懐かしの街
「では、任せたぞ。何かこちらの判断が必要なことがあれば、すぐに伝達してくれ」
「畏まりました。陛下が不在の間、僭越ながら私が総括をさせていただきます」
「よい。では、皇国に向けて出発するとしよう」
そんな王と宰相の会話を、私達は馬車のなかで聞いていた。
「やはり、私達も皇国へ一緒に行くことになりましたね」
「あぁ、こういった時の代理は俺や君になるのが普通だが……今回は長年の戦争を終わらせる会談だからな」
王も前方の馬車に乗り込んだようで、私達の乗る馬車は動き出した。
公国との交渉が終わった時からこうなることは王から伝えられていたけれど、実際に出発するとなると、かなり緊張してくる。
皇国は……いうなれば私の父を、そして私の大切な村を滅ぼしたような人間のいるところだ。
たとえ、私たちは新たな街で酒場を開き、居場所を見つけたとはいえ。
果たして私は皇国との交渉で、彼らを許すことが出来るのだろうか?
そもそも……彼らに正面から向き合えるくらいの気持ちの整理が、今の私に出来ているのだろうか?
肩が触れる距離に座っているエドガー王子は、そんな私の気持ちに気が付いたようだ。
遠慮がちに私の手を包み込み、気遣うように私の顔を覗き込んできた。
「大丈夫か?」
この一か月ほどで私は気が付いたことがある。
……まだ勘違いの可能性も捨てきれないけれど……エドガー王子も私に対して、好意に似た何かを向けてくれていることだ。
この私への気遣いの言葉も……出会った当初からは想像ができないくらい、甘く響いているような気がする。
「……何も話せなくてごめんなさい」
まだ彼とは踏み入った話が出来ていない。
それによって今の関係性が壊れるのが怖いから。
そして彼の方も……例えばどうして結婚初夜に「君を愛することはできない」と言ったのか……そんな話はまだしていなかった。
申し訳なさそうな顔をしてしまったからだろうか?
エドガー王子は私を安心させるように少し微笑んだ。
「問題ない」
ところが、いつも通りの短い言葉で返事をしたかとおもいきや、数秒後にもう一度彼は口を開いた。
「……皇国との交渉が終わったら……俺は君にすべてを話そうと思う。だから……」
その先に何が言いたいのかは私も理解できる。
「えぇ、その時には私もお話したいです」
「そうか」
たった三文字の言葉だけれど、そこに嬉しそうな響きを見つけた私は、緊張感が少しほぐれたような気がした。
話をしている間にも、馬車はどんどん街や林、街道を進んでいく。
最初に会話をしてからはそこまで彼と話していなかったけれど、そんな無言の時間すら居心地がよい。
そんななか……とある街に差し掛かったことで、私は窓の外を食い入るように眺めた。
それは、かつて私が、村のみんなと過ごしていた街。
初恋の彼と遊んだ街。
そして、私がすべてを失った街。
よく考えてみれば皇国からの距離が近いこの街を通るのは至極当然なことであったけれど、これから交渉だという緊張感から、完全に頭から抜け落ちていた。
「……」
もう何年も前の話なのに、酒場が焼けた日のことが鮮明に頭に浮かんでくる。
焦げたようなにおいにおびえながら、足早に帰ったあの日。
でも……あの時があったからこそ今がある。
そう思うことが出来た私は、前よりも……エドガー王子と会う前、まだ初恋の彼に執着していた時よりも、成長したのかもしれない。
懐かしいという感情が芽生え始めたところで、私はエドガー王子も反対側の窓の外を眺めていることに気が付いた。
「……この街に興味があるのですか?」
私が質問をすると、彼はゆっくりとこちらを振り向いた。
その顔は今までに見た彼のどんな表情よりも、苦しそうだ。
「あぁ」
「そうですか」
深くは聞かない。
そんな顔をする理由も、交渉が終わった後に話してくれると信じているから。
「私もこの街には思い入れがあるんです」
偶然ですね、と笑いかけると、
「君も……なのか」
と彼は驚いたように目を開く。
そして少し間が開いたあとに、このように返事をしてくれた。
「それなら、帰りはここに寄ることにしよう」
行きは、本来2日かかる道を1日で進もうとしているため、寄り道は許されない。
しかし帰りならば、私達がここで一泊しても、王は許してくれるだろう。
「えぇ、楽しみにしていますね」
彼はこの街で、私にどんな話をしてくれるのだろうか?
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三月中に書き終える予定です!!




