21, リボン
「入ってもいいか?」
まだ夜にしては早い時間だから、お茶をしに来たわけではなさそうだ。
ドアを開けに行こうとしたが、まだプレゼントを引き出しにしまっていなかったので、少し待っていてもらうことにした。
「すみません、少し待ってもらってもいいですか?」
自分へのペーパーウェイトとエドガー王子へのペーパーウェイトを隠してから、私はドアを開けに行った。
「お待たせしました」
少し待たせてしまったからか、彼の顔は少し不機嫌そうに見える。
「ど、どうしましたか?」
「いや別に……少し早く茶をしようと思っただけだ」
何故彼が不機嫌なのか、理由がわからず困惑している間にも、彼はメイドを呼んで支度をするように頼んでいる。
そしてすぐに支度は整い、私の部屋のテーブルには紅茶とお茶菓子が並んでいた。
「……」
「……」
やはり今日の雰囲気はなんだか重い。
彼が不機嫌な理由がわからないので、何か良くない話題を振ってしまう可能性を考えると話もできない。
しかしこのまま無言が続くくらいなら、良くない話題を振ってしまう可能性があったとしても何か話すべきではないだろうか?
そう思い始めた頃、彼は不意に口を開いた。
「……そのリボンはなんだ?」
「リボン……?」
エドガー王子の指さす先を見ると、私がさっきしまったと思っていた彼へのプレゼントが少しはみ出ていた。
リボンは明らかにプレゼント用の形をしており、ごまかせそうにない。
「えっと……その、プレゼントをもらって……」
「誰から?」
誕生日当日にそのプレゼントを渡そうと思っていたことや、突然彼に聞かれたこともあり、嘘をついたものの口ごもってしまった。
私の様子を見て、彼はもっと眉間にしわを寄せる。
誰からもらったか……どうしよう。
「言えないのか?」
私が言葉に詰まったのを見て、彼は怒っていながらも悲しそうな瞳をしている。
なぜそこまでして聞きたがるのだろうか?
そんな単純な疑問を聞こうとしたとき、彼は小さくため息をついた。
「すまない……そんな顔をさせるつもりはなかった」
そう言われて初めて私は自分の顔がこわばっていることに気が付く。
「そう、ですね。まず、なぜ不機嫌なのかについて、理由を知りたいです」
「……それは」
エドガー王子は少し言いにくそうに唇をかみしめた後、話し出した。
「今日の昼……君とジョエル団長で一緒にいただろう? 何か特別な関係にあるのかと、帰ってから部屋で考えていたら……どうしようもなく不快な気持ちになって、俺は君の部屋のドアを叩いていた」
つまり、彼も城下街へ出かけていて、偶然私と団長が一緒に居るところを見たということだ。
そして、その不快な気持ちと彼が表現しているものは……
嫉妬なのだろうか?
もし嫉妬だとするのなら、彼は私のことを好いているのだろうか?
頭の中で様々な疑問が浮かんでは消える。
でも……別に好きだと言われたわけではない。
勘違いだったら恥ずかしいので、一旦それについては触れないことにした。
「えっと、団長とは用事があって出かけていました。すみません、団長と言えど男性と二人きりで出かけるのは、あまりよくなかったですね」
「やはりそういう関係ではなかったか……」
彼が私に嫉妬しているのかもしれない。
先ほどそんなことを考えてしまったせいで、今彼が私の返答にホッとしているようにも見えてしまう。
すぐに自分の都合がいいように考えてしまう自分に呆れていると、彼はもう一度口を開いた。
「悪いのは君を縛ろうとしている俺の方だ。気にする必要はない」
それだけ言って、彼は席を立つ。
ではまた、と言って自分の部屋へ去って行く背中はどこか悲しそうに見えて。
これもまた自意識過剰なのかもしれない。
でも、私はこのまま彼を部屋に帰すべきではないと思った。
「待ってください!」
私の声を聞いて、彼は歩みを止める。
「なんだ?」
「その、これを!」
私は急いで席を立ち、先ほどリボンがはみ出していた引き出しへと駆け寄る。
そこにあるのは勿論、エドガー王子のために買ったペーパーウェイトだ。
「これを……俺に? 君が誰かから貰ったものではないのか?」
「……私があなたに買ったものなんです……誕生日プレゼントとして。男性の意見も聞こうと思って、あなたとも私とも接点がある団長と一緒に選びに行ったんです」
最初は驚いているのか固まっていた彼も、私の言葉を聞きながら包みを開き始めた。
「……とても綺麗な品だな。日常的に使えそうだ」
ペーパーウェイトを取り出した彼は、とても嬉しそうに目を細めた。
「気に入ってもらえて何よりです」
「すまない、俺のためにわざわざ買いに行ったのに……あらぬ疑いまでかけて」
「いいんですよ。ごまかそうとしたせいで、より怪しくなってしまいましたから」
彼はペーパーウェイトを目線の高さまで持ち上げ、じっくりと眺めていた。
「それにしてもよくできているな。随分と値も張っただろう」
「私は騎士ですから。そのくらいの給与はありますよ! 自分の分も買いましたから」
そう言って私は引き出しから自分用の青いペーパーウェイトを取り出す。
そして、彼はなぜかそれを凝視した。
「ど、どうしたんですか? もしかしてこちらのものの方が、色が好みでしたか?」
「いや、貰った色の方が好きだが……その、お互いの瞳の色みたいだと……思っただけだ」
私が手にしているのは青いペーパーウェイト。
彼が手にしているのは薄紫色。
これではまるで……恋人がお互いの髪や瞳の色のものを身に着けているのと、同じではないか!
そんなことは全く意識していなかったが、意識してしまうとどうにも恥ずかしい。
「この色の組み合わせは嫌ですかね? それなら私、これは誰かほかの方に譲って、他の色を買って
「いや、この色を持っていてくれ」
私の言葉を遮って、エドガー王子はペーパーウェイトを握っている私の手を握る。
「その青色を見るたびに、俺のことを思い出すだろうからな」
上機嫌に口元を緩ませた彼は、それだけ言って部屋へ戻っていった。
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