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2, 噂には尾ひれがつく

「いよいよね……そろそろ私は客席の方に戻るわ」


「ありがとう、ずっとここまでついて来てくれて」


「何言ってるのよリゼット。私は貴方の姉であり友達なんだから当たり前でしょう?」


「私、ノエルのそういうところ好き」


「私もリゼットのこと、大好きよ。結婚しても私のところに遊びに来て頂戴ね」


「勿論」


今日は私の結婚式だ。

街を凱旋してから……エドガー王子との婚約を決意してから一か月がたった。

本来、婚約してからすぐに結婚することはあまりないが、丁度戦争が終わった今、めでたい事を続けたかったらしい。


「それにしても、エドガー王子って噂通りね。リゼット、まだ顔合わせすらしていないんでしょう?」


「そうなのよね。結婚式が終わった後、夜会があるじゃない? その時どんな立ち回りをすればいいか悩んでいるの」


「悩むところはそこなの!? もっと恋愛的な何かはないの?」


「そもそも私もまだ初恋を忘れられていないから……むしろそういった恋とか愛とかは必要なさそうな相手でよかったのかもしれないわ」


「それはそうだけれど……」


ノエルは何か言いたそうな顔で口を噤む。

結婚式直前で控室にいる段階になってもこちらと顔合わせもしないということは、王子はきっと私に興味がないのだろう。

そして、それに対してホッとしてしまう私がいるのだ。


目下の問題は、夜会での立ち振る舞いのこと。


私とエドガー王子の婚約発表に、国中の貴族が、そして国民が湧きたった。


「あの王子が婚約!?」

「相手はあの騎士令嬢!?」


その婚約発表にはどんどん尾ひれがつき、憶測の上に憶測が重なった。

そして今ではもはや、


「あのお二人とってもお似合いね」

「エドガー王子はリゼット様にぞっこんらしい」

「戦場で背中を預けた仲から恋愛関係になったと聞いたよ」

「社交界に二人そろって顔を出さないのは、一緒にいるところを見られるのが恥ずかしいからですって!」


なんて話まで出てきてしまっている。

実際には王子は全く私に興味を持っていないし、彼は戦場に行くのではなく交渉方面を担っていたから仕事中顔を合わせたことはないし、婚約発表の時から一緒の夜会に参加していないのは私が気を遣ってのことだ。


だって向こうから事務連絡以外なにもないのに、夜会でばったり顔を合わせたら気まずいから。


婚約以前の夜会で顔を見たことはあるくらいの関係性なのに、今日をどうやって乗り切ればよいのだろうか?


私の不安な顔を見たノエルは、そっと手を握ってくれる。


「大丈夫よ。いくら女性が苦手だとはいえ、エドガー王子も立ち振る舞いについてくらいは一緒に考えてくれるはず」


「そうよね」


「それよりも、たとえそこに恋愛感情はなくとも、今日は人生の中でも大事な日なんだから……綺麗なドレスと会場を楽しんで」


「えぇ……ノエルの結婚式のお手本になれるように頑張るわ」


それを聞いたノエルは少し驚いた顔をした後に笑った。


来月、侯爵家から婿養子をもらって、ノエルは結婚する。

最初は何とも思っていない相手だったけれど、段々と仲良くなってきた、と楽しそうに話していたのが印象深い。


「意外と元気そうでよかった。じゃあまたあとでね」


そういってノエルは控室から出ていった。

それからほどなくして、私も結婚式会場の外で待機するようにと迎えの人が来る。


「どうぞこちらへ」


引きずらないように、ドレスの裾を持ってもらいながら、私は歩き出す。


幼いころ、私が生活していた村は隣国である皇国によって焼かれ、お母さんと私をかばったお父さんが死んだそうだ。

そこから逃げ出した先の町で、村の皆と経営していた酒場も火事で燃え、私は一人ぼっちになってしまった。

あれから……私は、騎士になるための努力を積み重ねここまでやって来た。


ここからだ。


初恋は叶わなかったけれど、私は平和な国を目指してまだまだ頑張っていく必要がある。

そのためには、王子との愛のない結婚だって乗り越えて見せる!


そんなことを考えているうちに、会場への扉に続く最後の曲がり角を曲がる。

そこには……初恋の彼とは似ても似つかない金髪碧眼のエドガー王子が立っていた。

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