18, 大切な存在
「やはりそうだったのね……」
「はい、直接の被害にあわれたリゼット様には先にお伝えしておくべきとの話になったので伝えに参りました」
「わざわざありがとう」
どうやら昨日の刺客はやはり公国の者だったらしい。
そして、差し向けた人物はやはりというかなんというか……
「それで、イーリス公女はなにか言っているの?」
「先ほど刺客を尋問し終えたエドガー様が、その足で公女様のところまで向かったところ、自白し謝罪の言葉も述べられたました」
「なるほどね」
エドガー王子が自分に見向きもしないのは、私がいるせいだ、と考えたイーリス公女は、後先考えず今回の犯行……私の部屋に刺客を送ったそうだ。
おそらく、私が現役の騎士でもあることを知らなかったのだろう。
「さて、もう十分休んだし、今日の仕事を始めないと」
事件の後処理をすべてエドガー王子がしてくれている中、私は12時間以上もベッドの上で過ごしている。
傷口は痛むけれど利き手ではない。
体を動かすのは無茶かもしれないが、書類仕事くらいはできるはず。
そう思ってベッドから起き上がろうとした私を、メイドは慌てて引き留めた。
「起き上がらないでください! 何かしたいことがあるなら私が代わりにやりますので!」
「いや、もう大丈夫だから。書類仕事でもするわ」
「ダメです!!!」
彼女の必死の形相に、私は起こした上半身を再びベッドに沈めた。
「私がエドガー様に怒られてしまうので! 少なくとも今日一日は休んでください」
「……分かったわ」
「絶対に仕事をしてはダメですからね!」と言ってメイドは部屋から出ていった。
私はすることもなくなってしまい、天井の模様を見つめてみる。
「イーリス公女もそこまですることはないのに……だって私も……
あなたと同じように、エドガー王子から好意を向けられることはないから。
そんな独り言を続けようとしたが、突然ドアが開いたことにより中断された。
「起きたのか? 怪我は? 大丈夫か?」
らしくなく矢継ぎ早に質問を浴びせてくるエドガー王子の様子に、私は少し笑ってしまった。
「何も問題ありませんよ。今から書類仕事でもしようと思っていたのですが」
「ダメだ」
やはり私はベッドの中から動くことは許されないらしい。
「事件の詳細は聞いたか?」
「えぇ、想像通りでした」
「……俺は……本当にあの時、心臓が止まるかと思った」
「そんな大げさな」
いつになく落ち込んでいる彼に対して、私は笑いかけようとしたが、彼はそんな私の右手を強くつかんだ。
「大切な人を失うつらさは……もう思い出したくないんだ」
「……」
ベッドに顔をうずめてしまったので、彼の表情を見ることは出来ない。
でもきっと……苦しい顔をしているに違いない。
私はそんな彼の髪の毛をそっと撫でた。
「まず、心配をかけてしまってすみません。そして、寝ないで事件の後処理をしてくださりありがとうございます。私の様子を見に来てくれたことも、心配してくれていることも嬉しいです」
「……」
「そして何より、私のことを大切な人と言ってくれたこと、とても嬉しいです」
好きとか愛してるだとかそういうことではないのだろう。
でも……彼の中でも私の存在は大切なものになっていたことが嬉しかった。
「私もあなたが大切なんです。だから、私に休めというなら、あなたも休んでください」
深夜から昼間までずっと仕事をした彼は、もう寝なければ体力の限界だろう。
私よりもよっぽど休むべきである。
「……わかった。ここでもいいか?」
その言葉の意味を理解するまでに数秒かかった。
ここは自分の部屋……自分のベッド……一人用……
いろいろ考えてみたが、脳の容量を超えていたようで頭が回らなくなってきた。
「ここでもいいです」
回らない頭でまぁいいかと思い返事をすると、彼は靴を脱いで私のベッドの隙間に入って来た。
狭い……けれどとても温かくて安心できる。
「いなくならないでくれ……」
寝言のような言葉を発した次の瞬間には、健やかな寝息が聞こえてきた。
◇◇◇
「それでは今回はありがとうございました。今後も仲良くしていきましょうぞ」
「この度は誠に申し訳ございませんでした。お許しいただけたことをありがたく思います。どうぞ、今後もよろしくおねがいします」
国王と大公がそれぞれ言葉を交わし握手をしてから、来客を見送る。
馬車に乗り込んだ大公と公子は私達に再び会釈をした。
途中までは五分五分の交渉をしていたが、公女のせいで私がけがを負ったことにより、王国有利の交渉を結ぶことができた。
もう傷口は塞がってきており、公女も反省して自ら修道院に入ることを決めて先に帰国したこともあり、最終的には良い結果になったのではないだろうか?
公国の一団が見えなくなり、私は伸ばしていた背筋を少し緩めた。
「無事に終わりましたね」
「あぁ、何事もなかった……とは言えないが」
横にいたエドガー王子に話しかけると、少し怒っているような返事をされた。
彼と一緒にベッドで寝た後、私は自らの意志で怪我を負ったことを打ち明けた。
言わなくてもよかったのだけれど、彼は私がいなくなることを心底恐れているようだったから話したのだ……私はあのくらいでやられる程度の実力ではないと。
しかし、一緒のベッドで寝ていることに対して今更顔を赤くしていたエドガー王子は、私の話を聞いて怒ってしまい、
「交渉の有利不利よりも自分の体を大切にしてくれ」
と何度も説教された。
結果的には良かったものの、彼含めメイドや国王……それにノエルや義父、たくさんの人に心配をかけてしまったので、私はもうこんなことはしないと約束した。
しかし今でも彼は根に持っているようで、たまに思い出したように嫌味を言われる。
「もう許してくださいよ!」
「二度とこんなことはしないと信用できたらな」
「二人とも最初より仲良くなったようでなによりだ」
横にいた国王が私達に声をかける。
「して、公国との国交は戻ったゆえ、次は皇国との話し合いだ。まだ交渉の段階ではあるが、来月には皇国に出向くことになりそうなのだが……二人にもついて来てもらおうと思う」
「「……」」
「ははっ! そこまで気にすることはない。あまり喧嘩はせぬようにな」
国王が機嫌よさそうに立ち去った後、私と彼は顔を見合わせた。
「……皇国ではあんなことはしないでくれ」
「しないって言っているじゃないですか!!」
私の反応を見て笑っている彼の姿に、私はからかわれているのだと気が付いてより頬が膨れてしまうのだった。
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