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17, 深夜の王城

公国の使節が来てから数日が経った。

交渉は順調に進んでいるようで、国交回復もあと一歩といったところだとエドガー王子は話していた。


そして最近私たちは、夜寝る前にお茶を飲みながら話すことが増えた。

エドガー王子の部屋だったり、私の部屋だったり、その時によって場所は違うが、このように二人で話ができる時間はとても楽しい。


しかしだからこそ、私が彼のことを意識してしまう場面も増えているので、好意をみせないように気を付ける必要がある。


「そうか、今日は公国との細かい書類仕事をしてくれたのか、ありがとう」


「いえ、このくらいは私にさせてください! そちらこそ、今日は貿易に関する重要な取り決めの話し合いに参加したのでしょう? 疲れたのではないですか?」


「問題ない。あの大公の話の運び方は俺も参考にしたいくらい上手だったがな。だが、最終的には五分五分の結果にすることができた」


「それは良かったです」


そこまで話したところで、彼は大きくため息をついた。


「……その話し合いよりもむしろ……あの公女のほうが問題だ」


そう、イーリス公女は彼と出かけてからというものの、毎日彼について回っているらしいのだ。


「今日は……何があったのでしょうか?」


「話し合いの場から出てきたところで捕まったんだ。そこから別室に連れていかれて……そこからはずっと自分がいかに優れているかを語っていたな」


「そうでしたか……」


「正直、早くこの話し合いを終わらせて、公女には帰ってもらいたい……」


「あなたがそこまで言うのは珍しいですね」


「それほどだ、ということだ」


そこで少し笑いあった後、私は掛け時計に目をやる。


「そろそろ寝ないと明日に響きますね」


「もうこんな時間か。ではまた明日に」


「えぇ、おやすみなさい」


私は席を立ち、自分の部屋へ戻るために彼の部屋から夫婦の寝室へと足を運ぶ。

そして、自分の部屋に続くドアを開けようとしたとき、私はなにか嫌な予感がした。


このような予感には何も根拠となるものはないものの……こういったことを感じるときには大抵何かが起きる。

長年戦場に出向いてきたからこそ、こういった感覚を無視してはいけないことを私は知っている。


公国から客人が来ているというのに……この大事な時期に一体何があるというのだろうか?


私は慎重に……それでいて、こちらは何も気が付いていないフリをしてドアを開けた。


そこにあるのは静まり返った自室。

いつもなら部屋の電気をつけ、メイドを呼ぶところだけれど……やはり私の第六感が、何かが変だと訴えている。


私がもし刺客として任務をするように言われたら、いつターゲットを襲うだろうか?


一つ目は……ターゲットが部屋に入って来た時。

そして、二つ目は……




ターゲットが自分に背を向けた時だ!


私が部屋の電気をつけるために、部屋の中央に背を向けると、部屋に潜んでいた「誰か」はやはり私に向かって襲い掛かって来た。


しかし動じる必要はない。

もともとこの行動をとったのも、その「誰か」をこのタイミングでおびき出すため。


私は予想通りの動きをした「誰か」に対して、まずはその攻撃を避け、右手首だと思われる場所に強烈な一撃をくらわせる。


明るい場所にいたせいでまだ目が暗さに慣れていないが、どうやらちゃんと当たったようだ。

暗闇の中刃物が落ちる音が聞こえた。


それと同時に驚いたような声も聞こえる。

まさか、こんな反撃をくらうなんて思ってもみなかったのだろう。


この部屋にいるのは目の前のこの人一人だけのようだ。

さっさと捕まえて、その目的を話してもらおう。


しかし相手も一度離れて体勢を整えると、どこかに隠していたのか、再び刃物を取り出す音をたてて、もう一度こちらに切りかかって来た。


でも……そこまで戦闘には慣れていないのだろう。

暗さに慣れた目では、そのあまり洗練されていない動きが次のどのような動きをするのかは手に取るように分かった。

そして……この髪と目の色、服装からして、公国の人のようだ。


私はここでふと新たな考えを思いつく。

公国の誰がどのような目的で私に刺客を送ったのかについてはわからないけれど、もし私がここで傷を負ったら……きっと公国は責任をとることになるだろう。


それはつまり……公国との外交交渉がこちらに有利に進むということだ。


だから今私がしなくてはならないことは……


「……っ!」


左腕に少し切り傷を受ける。

そしてそのまま私は刺客を抑え込んだ。


「ひぇっ!」


「あなた、公国の人よね? 何をしに来たの? 誰のために来たの?」


「……」


私が問いかけに答えず、刺客は右手にもったナイフを自分の胸に向かって突き刺そうとした。


「そうはさせないわよ」


何としても話を聞きださなければならない。

私はその右手も床へ抑えつけた。


「……」


「はぁ、何も話さない気なのね。それならメイドが私の部屋に来るまでここで待っていましょうか」


そこまで話したところで、何やら夫婦の寝室に続くドアの方から物音がすることに気が付いた。


新しい刺客だろうか?


対応することはできるが、私が今ここを離れたら、今捕まえているこの人は自らの命を絶ってしまうだろう。

どのような行動をするべきか考えていたが、聞こえてきた声はそんな不安をぬぐい去るものだった。


「……まだ寝ていないか? 忘れ物だ」


「エドガー王子!」


ドアをノック音と共に聞こえてきた声に私は安堵する。


「入ってきてくれますか?」


私の声を聞いてドアを開けた彼は、まず部屋の暗さに驚いたようだ。

そして……この部屋で何か異常なことが起こっていることも。


部屋の電気をつけた彼は、眉間にしわを寄せて私に駆け寄ってきた。


「どうしたんだその怪我は! そいつにやられたのか?」


そう言いながら私でも震えるほどの殺気を出す彼は、刺客が落とした一本目のナイフを手に取る。


「待って! 私は大丈夫ですから! この人からは情報を聞き出さなくてはなりません!」


私の言葉を聞いて、彼はかかげていたナイフを下ろした。


「……すまない、冷静さを欠いていたようだ」


メイドを呼ぶためのベルを鳴らした後、彼は私の代わりに刺客を抑えてくれる。

私が痛む傷口をとりあえずそばにあったタオルで止血していると、ほどなくしてメイドたちがやって来て、深夜の王城は大騒ぎになった。

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