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16, 同僚

夕日の光を借りながら、私はソファに座って本を読む。

団長とカフェに行った後、一人になりたかった私は、そのまま自室へと帰って来た。

本を開いてはいるものの……実はあまり読めていない。


それもこれも、すべてこの自覚してしまった『好き』という気持ちのせいだ。


「今頃……彼と公女は何をしているのかしら……」


仲良くやっているのだろうか?

彼がイーリス公女の沢山の荷物を持って、二人で王城へと帰っている最中だろうか?


いや、彼は自分に好意を寄せる女性が苦手だから……ってそれは自分もじゃないか。


悶々と悩んでいると、突然本を照らしていた夕日が遮られ、影が落ちた。


「大丈夫か?」


私の部屋で聞こえるはずのない声に、私は驚いて顔を上げる。


「エドガー王子……? もう帰って来たのですか?」


「あぁ。別に長く一緒に居たいとは思わなかったからな」


「そうでしたか」


彼はイーリス公女とは特に何もなかったようだ。

私は心の中でほっと溜息をついた。


「それで……どうしてここに?」


「すまない、少し用事があってドアを叩いたのだが反応がなかったから、何かあったかと思って入らせてもらった」


「す、すみません。少し考え事をしていたもので……気が付きませんでした」


流石に、「あなたのことを考えていました」なんて、言えないけれど。


「いいんだ。ところで、今は暇か?」


「えぇ、今日は休日ですし、この後は何も予定はありません」


「それなら……その、」


彼は珍しく口ごもっている。

私は持っていた本を机に置き、彼の話の続きを待った。


「一緒に菓子でも食べないか? 本来、今日は俺も休みだったから……その、仕事の気晴らしに二人でどこかへ出かけようとでも思っていたのだが」


私と二人で出かけようと思っていた……?

そのように聞こえたけれど……何かの間違いじゃないだろうか?


「わ、私と出かけようと?」


「あぁ、だが流石に今から出かけることは出来ないから、もう買ってきてあるんだ。俺の部屋に用意してもらってある」


だんだんと彼の言っていることが理解できてきて、嬉しさがこみあげてきたことにより、口角が上がる。


「ぜひ、食べたいです!」


「喜んでもらえたようで良かった。そんなに菓子が好きとは……知らなかった」


「お菓子が好きというよりは、あなたに誘ってもらえたことが嬉しいのです」


私の言葉に、エドガー王子の表情が硬直する。

ワンテンポ遅れて、私も言ってはいけないことを言ってしまったことに気が付いた。


「ああ、えっと違うんです。同僚としてあなたとここまで仲良くなれたことに感動しただけで……」


「……そうか、同僚、か……俺は自室で待っているから、準備が出来たら来てくれ」


最初の方は小声で聞き取れなかったけれど、どうやらまだ私とお茶をしてくれる気はあるようだ。


よかったという気持ちもありつつ、法律上結婚しているからといって、彼に好意を見せてはいけないことを再確認した。


◇◇◇


「同僚」


その言葉は俺に深く突き刺さった。

最初は彼女に対して、特別な感情は何もなかったように思う。


……俺にとって最初で最後の大切な人……愛する人はリーだけだと決めていたから。

大切な人を突然失う痛みは計り知れない。


……失う時のことを考えたら、そもそも大切な人など作らない方がましだ。


でも、リゼットなら。

彼女なら、俺のもとから離れていかないのではないか、と思ってしまったのだ。


名高い騎士である彼女は、とても強い。

きっと10人の刺客を前にしたって乗り越えられるだろう。


それに……とてもしっかりとした考えを持っている一面もあれば、何かと心配な面もあり……なんだか目が離せない。


そう思ってしまったのはいつからだろうか?

彼女の涙を見てからだろうか?


自分から「君を愛することはできない」なんて言っておきながら、自分が好きになってしまっていることに失笑する。


「エドガー王子、入ってもよろしいですか?」


「あぁ」


夫婦の寝室を通って俺の部屋にきたリゼットは、もの珍しそうに辺りを見回す。

初恋の相手、リーの濃い紫の瞳に似ているようで似ていないその薄紫色の瞳は、とても美しかった。


「何か面白いものでもあったか?」


俺の前に座って「いただきます」と言う彼女に疑問を投げかける。


「落ち着きがなかったですよね……すみません、この部屋に来たのは初めてだったので、色々見てしまいました」


このように恥ずかしそうに頬に手を当てている彼女は、騎士としての仕事をこなしているときには見ることが出来ないだろう。


そんなわずかなことに優越感を感じてしまう自分に、呆れる気持ちにもなるが、目の前で菓子をおいしそうに食べている彼女を見ると、そんなこともどうでもよくなってしまった。


「あなたは食べないのですか?」


不思議そうな目をして尋ねる彼女の口元には、少しクリームが付いてしまっている。

俺は身を乗り出し、手元にあったナプキンでそれをぬぐった。


「す、すみません。普段はこんなことはしないのですが……」


彼女はそこまで言って顔を赤くしてしまった。

きっとクリームを口に付けているところを見られたのが恥ずかしかったのだろう。


「別にそんなことは気にしない。さて、俺もいただくとしよう」


心を閉ざしてからというものの、あまり口数が多い方ではない俺だが、リゼットと一緒にいると、自然と会話ができてしまうから不思議だ。


公女と出かけるのは精神的に苦痛ではあったけれど、こんなに幸せな時間を過ごせたから、なんだかんだいい一日だったと思うのだった。

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