15, この感情の正体は?
「おい、今日のリゼット様どうしたんだ?」
「分かりません……僕が来た時からもう既にあんな感じで……」
「あいつがあの状態になったら、本人の気が済むまでは何をしても止められないさ」
「団長!!」
「何かあったんだろう。とりあえずリゼットのことは気にしなくていい。自分たちの訓練に戻ってくれ」
「「はい!」」
そんな話声が訓練場の隅から聞こえてきたものの、私は無視して剣を振り下ろすことに集中する。
昨日の晩餐会は、エドガー王子がイーリス公女のお願いに付き合うことが決まった後、和やかな雰囲気で終了した。
でも、私の心の中はなんだか晴れなくて……
そのまま眠りについたはいいものの、朝早く目覚めてしまった。
晩餐会までかなり忙しかったこともあり、今日は本来休日だったのだけれど、部屋にいると気分が落ち込みそうだったのでこうして訓練をしに来たのだ。
「……何か用ですか? 団長」
「おや、気づいていたのかい?」
「私が集中できていないことくらい、団長ならお見通しでしょうに……」
私は近づいて来ていた団長に声をかけた。
このまま団長を放っておいて、私の集中できていない剣筋を見られるのも嫌だったからである。
「で、何があったんだい?」
「……」
「ここじゃ話せないような内容なのか」
「まぁ……」
自分の心の中がすべて見透かされているようで、なんだか恥ずかしくなる。
そんな私をみた団長はにっこりと笑ってこう言った。
「それなら今日の訓練はここまでにしてご飯でも食べに行こう!」
「え!」
「そこまで腕が立つわけでもない僕が、何故団長を務めているか、リゼットもわかっているだろう?」
そう、団長が団長であれるのはその鋭い観察眼と気遣いの心からだ。
彼にかかれば、団員の悩みなどお見通しだから。
「はぁ……相変わらずですね。それなら少し話を聞いてもらえますか?」
「承った!」
楽しそうに笑っている団長と一緒に、私は訓練場を後にした。
◇◇◇
団長と近場のカフェに入り、それぞれへコーヒーと紅茶、そして団長にはケーキが届いた後、私は深くため息をついた。
「それで? 悩みというのは、公国の来賓のことかい? それともエドガー王子に関することかい?」
カフェだけれど個室を取ったので、周りの人に私達の声は聞こえない。
私は窓の外を眺めながら団長の言葉に返事をした。
「やはり、鋭いですね。両方正解です」
「やっぱりね」
彼はふふん、と自慢げな表情しておどけてみせる。
きっとこれも、私の気持ちを少しでも上向けるための行動だろう。
「実は昨日……」
と話しかけたところで、私は窓の外に今一番見たくなかったものを見つけてしまった。
「どうしたんだ……」
団長もそこまで言ったところで、私の目線の先を追う。
「あぁ……なるほどね」
窓の外では、イーリス公女がエドガー王子の腕にべったりくっついて一緒に歩いていた。
エドガー王子はたくさんの荷物を持ってあげていて、彼の表情が硬いことを除けば、まるで恋人同士のようで……
「リゼットはあれを見てどう思うんだい?」
「……よくわからないんです。でも……見ると、なんだか気分が重くなってしまって」
私の言葉を聞いた団長は窓の外から目を離し、私の方を向いた。
「それは、きっと結婚した時よりも、リゼットはエドガー王子を気に入っている、ということなんじゃないかな?」
「気に入っている……」
私は団長の言葉を反芻する。
しばらくするとその言葉はスッと心の中に落ちてきた。
それと同時に……私は、気が付いてしまった。
気に入っているという段階なんて、とうに通り越していて
好きになってしまっているのかもしれないことに。
それなら説明がつく。
エドガー王子に行ってほしくなかった理由も、最近は初恋の彼のことを忘れがちだった理由も。
でも……
「それじゃあだめだわ。だって、だって……」
彼は女の人が苦手。
特に自分に好意を寄せる人だとなおさら……
「大丈夫かい?」
団長は独り言をつぶやく私を不安そうな目で見ていた。
「す、すみません」
せっかく相談にのってもらっているのに、自己解決した挙句、何も説明できていないままだ。
しかし、このままこの気持ちを団長に打ち明けてしまったら、もっと意識してしまいそうで……
「……」
そんな私をを見て彼は、やれやれという顔で笑った後、ケーキを一口頬張った。
「その様子だと何かわかったんだろう? それなら僕の役目はもう終わったから、このケーキをおいしくいただくとするよ」
それはそれはおいしそうに食べている横で、私が紅茶を一口すすった時、団長は不意にこんなことも言った。
「まぁ僕からしてみれば、エドガー王子もリゼットのことをかなり気に入っているように見えるけどね」
私の顔はきっと赤くなっているに違いない。
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