13,ノエルの披露宴
「ノエル、結婚おめでとう」
「リゼット……来てくれてありがとう!」
今日はエドガー王子と一緒にノエルの結婚式に参加し、今はその後の披露宴に出席している。
公爵家の娘であるノエルと、侯爵家の息子であり、公爵家の婿養子となるノエルのお相手フラン様……ということで、二人はずっと人に囲まれていた。
勿論、身分の高さで言えば私達も例外ではなく、二人で一緒に披露宴などの社交の場に顔を出すのが珍しいこともあってか、やはりずっと人に囲まれていた。
そんな私達だったが、ようやくノエルと話すことが出来たのだ。
「ノエルも結婚ね……もしかして、そう簡単に会えなくなるのかしら……」
「そんなことはないわ。少しずつ公爵家の仕事も任されるようになるとは思うけれど、二人で頑張っていくから何も問題はないもの!」
ね、と言ってフラン様の方を見たノエルの横顔はとても幸せそうだった。
フラン様もノエルの問いかけに力強く頷いており、この人にならば私の大切な友人、そして姉を任せることができると思えた。
「幸せそうで何よりだわ。でも、私のことも忘れないでね」
「何言っているの! 当たり前じゃない!」
二人で笑いあった後、まだノエルたちと話したそうにしている人がたくさんいたので、私はその場を離れた。
「……もういいのか?」
「えぇ、彼女は今日の主役……あまり独り占めするのは良くないかと思ったので」
「そうか。今日は周りのことを気にせず楽しむといい。最近は元気がなかったからな」
「……! ありがとうございます」
あの過去の夢を見てから気分が良くなかったことが見抜かれているようだ。
彼が気遣ってくれたことが嬉しくて、少し頬が緩む。
私達の結婚式の後の夜会と同じように、彼は話しかけてくる人の相手をずっと一人でこなしてくれていた。
受け答え、世辞、腹の探り合いなど、何から何まで完璧なのだ。
私も隣で聞いてこっそり参考にしている。
ただし……
「あら、こんにちは。お二人ともそろっているなんて珍しいですわね」
「……こんにちは」
女性に話しかけられると、とたんに冷たくなってしまうのが玉に瑕だ。
「10年前から素敵な方でしたが、結婚なさった今でもその輝きは失われていませんのね……ふふっ、わかっておりますわ、いざ婚約者を選ぼうとした時に、私を指名するのは恥ずかしかったのでしょう? 私はいつでも待っておりますから」
「……」
エドガー王子の女嫌いの噂は多くの人が知っているため、わざわざ女性が彼に話しかけるはほぼない。
しかし、ごく一部の女性は、このように諦めずに話しかけてくるのだ。
……そして、彼は女性の中でもこのような「好意を全面に押し出した女性」を最も苦手としている。
「それにしても、まさか公爵家の養女なんかをお選びになるなんて意外でしたわ」
わざとらしく私の方を見て、薄く笑みを浮かべる。
流石に、元孤児の騎士とはいえ、現王太子妃である私に対して失礼すぎやしないだろうか?
私も言われてばかりではいけないと、さすがに口を開こうとしたが、それよりも前にエドガー王子の低い声が聞こえてきた。
「……それは、王太子妃に対する侮辱ととっても良いか?」
……怒っている。
とても怒っている!
きっとわざわざ自分に話しかけてきたことに加えて、王家の名を馬鹿にしたことにも怒っているのだろう。
しかし目の前の彼女はその怒りに気が付かないのか……いや、気が付いてはいるけれどその怒っている姿さえ楽しんでいるのだろう、再びエドガー王子に笑いかけて話し続ける。
「あら、そんなつもりはなかったのです……許してくださいませ」
へらへらと笑う彼女に対して、エドガー王子が更に怒りを募らせているのが感じ取れた。
私は横にいるだけでいいとは言われたけれど、明らかにこの話には私が関わっている。
それならばやはり、私が彼女と話すべきだ。
「謝るなら、私に謝ってくださる?」
「リ、リゼット様……」
まさか私に話しかけられるとは思っていなかったのか、一瞬焦った顔をする。
しかしすぐに元に戻り、私を馬鹿にするような顔になった。
「今謝ったじゃないですか。これ以上私に何を謝罪させるというのでしょう?」
「先ほどの発言は王家に対する侮辱とも取れると同時に、そもそも私に対する侮辱と言えます。それなら、私が謝罪を受けたいと思ったまでです」
「あなた……孤児のくせに偉そうに……!!」
ここまで言えば謝ると思っていたが、感情を制御できなくなったのか、彼女は私に向かって手を振り上げようとしてきた。
王太子妃に手を振り上げる。
これはあってはならないこと。
私は即座にその動いた手に反応すると、スッと抑えた。
きっと周りの人からは、彼女が私に手をあげようとしたなんてわからなかっただろう。
私は王太子妃であると同時に騎士でもある。
令嬢一人の力を抑えるくらい、どうということはない。
「……っ!」
「今の行動はあまりよろしくないかと。もし周囲の方に見られてしまったら、社交界でのあなたの評価は地に落ちてしまうわ」
「……」
「……」
私は黙る彼女に対して、同じように黙って返す。
数秒後、彼女はあきらめたのか口を開いた。
「すみませんでした。そして止めていただきありがとうございます」
早口で謝罪をしたかと思えば、すぐに立ち去って行ってしまった。
「大丈夫か」
横で私の行動を見ていたエドガー王子が声をかけてきた。
「すみません、口を出してしまって。でも、私が対処すべき問題だと思ったので」
「問題ない。良い対処だった」
「ありがとうございます」
特に気にした様子もなく、彼の怒りも収まったようで安心していると、突然そっと手を握られた。
「ひゃ! ど、どうしましたか?」
「疲れているだろう? 一度バルコニーにでも行こう。他の参加者も俺たちに気を遣ってくれるはずだ」
なるほど、確かにこうして手を繋いでいれば、いい雰囲気に見えるだろうし……皆気を遣ってくれるに違いない。
私は一瞬ドキッとしてしまったのを隠すように彼の手を握り返した。
「……っ!」
「どうしました?」
「いや、何でもない」
彼が私のことを考えてくれるなんて感動ものだな、なんて少し失礼なことを考えつつ、バルコニーへと歩き出す。
「先ほどは……強かったな」
「強い……?」
「あの令嬢を止めたときのことだ」
バルコニー着くと、彼は手すりに寄りかかりながら、面白そうに笑った。
この人も笑うんだ、という驚きと、なんだか面白がられているようでムッとする気分が入り混じる。
「それ、褒められてますか?」
「勿論だとも」
それだけ言って彼はバルコニーの外を眺めた。
「……強ければ隣からいなくなったりはしない……かもな」
私にはその呟きの意味がよく分からなかった。
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