11, 初恋の思い出②
見るからにお金持ちの見た目をした黒髪碧眼の男の子は、その見た目通り、きれいなお辞儀をした。
「助けていただきありがとうございます。俺はエディと言います。お嬢さんに助けられていなかったら、強盗や略奪、誘拐にあっていたかもしれません……助けられた身で言うことではないですが、どうかこのお嬢さんを叱らないでもらえると嬉しいです」
私の無断外出を知り、かなり吊り上がっていたおばさんの目じりは、その言葉を聞いて少し下がった。
「そうだったのかい……リーちゃん、せめて事前に私達に伝えておくれ。あんたに何かあったら私も村のみんなも、それに何よりもお母さんが悲しむんだよ」
「ごめんなさい」
「分かってくれたならいい。私も怒りたいわけじゃないんだよ、リーちゃんを心配してのことなんだ」
おばさんはそこで言葉を一旦切ると、今度はエディの方を向いた。
「そして、あんたは見たところ一人で街を出歩ける身分には見えないけどね、どうしてこんなことになったんだい?」
「……窓から外を眺めていたら、外に出てみたくなってしまって……無断で外出してしまいました」
「はぁ、あんたもか……いいかい? さっき、リーちゃんにも話したけどね、その行動はたくさんの人に心配をかけるんだよ。今頃きっと周りの人があんたを探しているだろう。どこの宿に泊まってるんだい? 連絡をしないと」
「すみません……ありがとうございます。次からはちゃんと考えるようにします。宿はイシュタッドです」
「二人ともわかったならいいんだよ。さぁ、そこの机でホットココアでも飲んで待ってなさいな。その間に連絡をしに行こうじゃないか」
その後、おばさんは村の人の一人を宿へ向かわせ、お母さんに事の経緯を話した。
「……もうおばさんに何が悪かったか話してもらったのよね」
「うん、お母さんごめんなさい」
「悪かったところもあったけれど、ちゃんと助けに行ったのはとっても偉いわ。ほらこっちにおいで」
お母さんは私を抱き寄せると、頭をなでてくれた。
私が目を閉じていると、お母さんはふと手の動きを止める。
「確か、エディ君よね。君も怖かったでしょう? こっちに来てくれるかしら?」
私が振り返るとおずおずとエディがこちらへ歩いてきた。
お母さんはそのまま彼のことも一緒に抱きしめる。
「こうやって一緒にいると、暖かくて落ち着くでしょう?」
私はエディが少し涙目になっているのが見えたけれど、見えないふりをした。
その後はエディとココアを飲みながら、お迎えが来るのを待った。
彼はあまりこういった場所に慣れていないようで、先ほどから、
「これは何に使うの?」
だとか、
「あれはどんな味がするの?」
と、ずっと質問ばかりだ。
「あれは薄く切ったポテトに、このお店特製のソースをかけた料理だよ。しょっぱくておいしいの……食べたい?」
「……食べてみたい」
「じゃあこっそりもらってきちゃおう!」
「え!?」
エディが驚いている間に、私はみんなにばれないように厨房へ行き、少しだけポテトを盗んでくる。
「二人だけの内緒だよ」
「……本当にいいのかな」
彼の前に差し出したものの、食べようとしない。
エディってきっとえらい子なんだ。
でも、私だってエディに食べてほしいから、お皿をグイグイと彼の方に押す。
「内緒だから大丈夫!」
「分かった、内緒……っ! これ、すごくおいしい!」
「私もこれ大好きなの!!」
私がニコニコしていると、彼は何か考えているような顔になった。
「……どうしたの? やっぱり、おいしくなかった?」
「違うよ!! ただ、人を笑顔にする方法は、俺が考えている以上にたくさんあるんだなって思って」
「人を笑顔にする方法……?」
「うん、俺は皆が笑顔になれるような平和な世界にすることが夢なんだ!」
「平和な世界……エディって、とっても難しいことを考えているんだね」
私と年も同じくらいに見えるのに、私よりずっとしっかりしている。
私なんて、自分が誰かを笑顔にしようだなんて、考えたことすらなかった。
でも……
「でも、皆が笑顔の世界、すごく素敵だと思う! 私もそれ、目指す!」
私の言葉を聞いて、エディはまた嬉しそうに笑った。
「ありがとう、リーちゃん。俺、頑張るから……またここに来てもいい?」
「いいよ! 私もまずはお店のお手伝いを頑張る! 私がお手伝いしたら、お客さんも村のみんなもお母さんも、みんな笑顔になってくれるから」
「いいね! 応援してるよ」
彼は元気よく頷いてくれた。
この回で初恋の思い出編を終わらせるつもりが、思っていたより長くなってしまいました……!
次回で終了して、またリゼットとエドガー王子の時間軸に戻ります。
面白いと感じて頂けたら、いいね・ブックマーク・評価等よろしくお願いします!