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1,初恋と婚約

新連載始めました。

ゆっくり更新していこうと思っています!

「リゼット様! 今日も綺麗!」


「今回も勝利できたのは彼女のおかげらしいぞ」


「さすが、リゼット様ね!」


今日は公国との戦争が終結し……そして勝利した記念として街を凱旋することとなった。

これでようやく近隣諸国との関係性を改善していくことができるだろう。

城下町の人々の安心している顔をみて自然と笑みがこぼれる。

しかし……実は私の心の中は別のことでいっぱいだった。


「戦争も終わったし、ようやくあの王子様も結婚するかな」


「戦時中だったからというよりは、『訳あり』だからでしょ?」


「そうそう、『女嫌い』だからって噂だよ」


「そういえばそうだったっけ」


周りの歓声より明らかに小さな声だったが、それは私の耳まで届いた。

そう、私は今まさに、そのことで悩んでいるのだ!


それは昨日の夜のこと……


「リゼット、昨日帰って来たばかりで疲れているところ悪いが、少し話をしてもいいかね?」


申し訳なさそうな顔で声をかけてきたのは、私の義父だ。

孤児だけれど騎士を目指していた私にとって、彼はいい後ろ盾となってくれた。

それに人格もとても温和だから、本当の父親のように彼を慕っている。


そんな義父が急ぎで話したいこと……おそらく重要なことだろう。

私はその時一緒に居た義姉の方を振り向く。


「大事な話なのね、私は席を外したほうがいいかしら?」


と彼女は義父に尋ねた。


「まぁどちらでもよいが……」


先ほどの義父の態度から、あまりいい話ではないことを察した私は、義姉であるノエルの手をぎゅっと掴んだ。


「……ノエルも一緒に居た方が嬉しい」


「あらそう? じゃあ一緒に隣で聞くことにするわ!」


義姉のノエルは私より一つ上で、初めて会った時から何の偏見もなく、友達として接してくれた。

そんな彼女の存在も、私がこの家に入ろうと決意した理由の一つである。


私達の様子をみて、義父は少し緊張したように息を吐くと、向かいのソファに腰を下ろした。

そして私の方を見て、言いにくそうに口を開く。


「実は……エドガー王子との縁談が、王からリゼット宛てに届いているんだ」


「「……え」」


私はノエルと顔を見合わせる。

聞き間違いかと思ってもう一度義父の方を見るも、どうやらそれは真実のようだった。


「……えっと……なぜですかね?」


「エドガー王子は、ほら、婚約をしていないだろう?」


女嫌いだから。


という言葉は飲みこんだようだ。


彼は外交や内政などの政治面で優秀な能力を持ち、見目もよい。

そして、同性に対する態度は何も問題はない。


但し、女性に対してのみ……明らかに態度が異なるのだ。


冷たい、避けられる、必要最低限しか話をしない……よくそんな噂を耳にする。

婚約を申し込まれたり、申し込んだりもしているらしいが、なんだかんだダメになっている。

そんな話をノエルからこっそり聞いたのは記憶に新しい。


「なるほどね、リゼットはここ五年の活躍が凄まじく、私達の家の養女だから後ろ盾もあって、まだ婚約をしていない。それに、婚約をするなら情勢的に国内の人が望ましい……確かにピッタリだわ」


ノエルが一人でフムフムと納得している横で、私の頭の中は未だパニック状態だ。


「そういうことのようだ……リゼットが婚約にはあまり乗り気ではないことは、私もわかっているのだが、何せ王からの直接の縁談で……とりあえず話を持って帰ってくるのが精いっぱいだったんだ」


「そうよね、私に考える時間をくれてありがとう、お義父さん」


私がこの家……ロランス公爵家の養女になった理由。


一つ目は、騎士として出世するため。

二つ目は、ノエルや義父の人柄に惹かれたから。


そして三つ目は……初恋の彼を探すため、だ。


それを知っているノエルは黙り込んだ私を不安そうな顔で見つめる。


「とりあえず一週間は保留にしても大丈夫だ。決まり次第、私まで伝えてくれ……もしリゼットが断りたいと思うなら、私も全力で努力しよう」


「ありがとうございます」


こうして義父は部屋を出ていった。

それを見届けてから、ノエルは私の方へ振り返る。


「……初恋の相手は、結局見つかっていないのよね」


「えぇ……」


それはまだ私が幼いころ。

騎士を目指す前で、まだ実の母親が生きていた時。


三か月に一度、一日という短い期間だったが、とある男の子と遊んでいた。

彼はその年にしてはとてもしっかりしていて、この国の未来や世の中の理想の姿などを語っていたのを覚えている。

狭い世界しか知らなかった私には、彼の考えがとても魅力的だった。

彼は彼で、普段はあまり遊ぶことがないのか、私が何かして見せるたびに、とても楽しそうな表情をしていた。


しかし、とある事件が起きてからは、彼に会うことが出来なくなってしまった。

それでも、私はまた会いたくて。


私は彼からもらった指輪をいつもポケットに入れて、ここまで頑張ってきたのだ。


身なりやしぐさ、連れの人の彼に対する態度から、絶対に身分が高い貴族だと思ったのに……

私はついぞ彼を見つけることが出来なかった。


「もうそろそろ諦めるべきよね」


「……そんな泣きそうな顔をしないで頂戴」


こうして私は昨晩ノエルにさんざん慰めてもらったのだった。


凱旋パレードの歓声の声で、私は昨日の夜から目の前の光景へ意識を戻す。

そこには、幸せそうな皆の笑顔があった。


「僕は、皆が笑顔になれるような世界にしたいと思っているんだ。早く戦争ばっかりな今を終わらせてね」


戦争を終わらせるには、ある程度戦争をする必要がある。

でももう今は要らないだろう。

これからは、笑顔になれるような世界を武力以外の方法でつくる時が来た。


そのためには……王太子妃の地位もいいのかもしれない。


この時私は、初恋を諦める決意をした。

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