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「妹がな、プレゼントを買うっつうんだわ」(後編)

「へぇ。なんでまだ買ってないんですか妹さん。昨日買うって言ってたじゃないですか」

「いやそれとは別。好きな……じゃなく男……でもなく……クラスメイトへのプレゼントは買ったんだと。今度は友達にあげる用だとさ」

「へぇ」

 一生懸命皮を剥く。野菜たちよ、君たちはなぜ皮に包まれているんだい?

 黙々と作業をしていたら先輩が泣き出した。いや比喩だけど。

「おいおいおい、もっと反応してよ! 絡んでよ! 絡んできてよ!」

「なんすかもうめんどくさいなぁ。たまには寡黙に作業に没頭しましょうよ」

「ちぇっ……たまにはな」


 明けて朝のホームルーム前、俺はいつものように自席でソシャゲにinしていた。楽しい楽しいオープンワールドゲー。今日も今日とて日課をこなす。

「サンタさぁん、おれへのプレゼント、買ったぁ?」

「買った買ったぁ、わさびドッキリ饅頭カッコ全部わさび入りカッコ閉じ、六個入り~」

「わぁ素敵ぃ」

 吉田の顔から笑みが消えた。

「全員でチャレンジな」

「ざけんな一人で全部食え」

 もちろん本当は全員でチャレンジ(なお勝ちの目はない模様)するために購入した。二回食わなきゃいけない奴は可哀想だな。五個入りはなかったから仕方ない。

「アホなもん買ってんなよっ!」

 吉田からの抗議を俺は「アーアー聞こえなーい」する。

 クリスマスパーティーにはそういうお茶目が必要だろ?

「変なこと言うんじゃなかったぁ」

 別に吉田が自分へのプレゼントを求めようが求めまいが、参加者全員わさびの辛さに悶絶する未来は確定してたけどな。吉田のためだけに無駄に高い饅頭なんて買うわけないだろ。

「クリッパだけどな」

 吉田が突然、聞き馴染みのない単語を言い放ったから俺は勿論ツッコむよね。

「なにそのクリップとスリッパのフュージョン」

 ススススス。

「「ハッ!」」

 危うくサン田になるところだった。たまたま通りかかった鈴木さんを驚かせてしまったのは申し訳ない。

「クリッパだけどな」

「だからなにそのクリップとスリッパの合体」

「え、知らない? クリスマスパーティー。世のウェイでパーリィーなイケてる高校生ズはみんなやってる陽キャの集いなんだけど」

「休み時間終わりますけど?」

「その集いなんだけどな、やっぱプレゼント交換やろうって話になったんだよ」

「聞いてなーい。俺それ聞いてなーい」

「いま言いましたぁー」

「訴訟」

「棄却」

 誰かが「さむっ」と呟いたのは十二月下旬の気温のせい。そうだよね?

「とにかくそういうわけだからサンタもなんか買っといてくれ」

「了解です」

 クリスマスパーティーは、男子五人で開催予定だ。

 このクラスには彼女持ちが多すぎる。

 男子フリー、クリスマスパーティーの部に出場予定の悲しき選手たちは以下の五名だ。

 吉田:中肉中背、どこにでもいる男子高校生。彼女募集中。

 松本:大肉中背、どこにでもいる男子高校生。彼女募集中。

 井上:大肉大背、どこにでもいる男子高校生。彼女募集中。

 木村:小肉中背、どこにでもいる男子高校生。彼女募集中。

 サンタ:中肉大背、どこにでもいる男子高校生。彼女募集中。

 誰も興味ないだろうから宣伝だけして紹介は終わる。みんな彼女募集中!


 そういうわけで二学期終業式の二日後に向け、俺はどんなプレゼント買おうかなと考えていた。午後の授業の合間。腕を組んで天井をぼんやり見詰めていた。

「やっぱサドルかなぁ」

「それはないわ」

「うお」

 びっくりして椅子から落ちかけた。いや嘘だけど。普通に驚いたのはほんと。ほとんど真横から聞こえたのは佐藤さんのツッコミだった。

「サドルはないよ、サンタ」

 いつの間にか俺の机に腕を乗せて、更にその上に頭を乗せた佐藤さんが俺を見上げるようにしていた。

「ないかな?」

「うん、ない」

 佐藤さんのお気には召さないらしい。

 ……え、で、なに? なんで黙ってんの?

「佐藤さん? なにかご用でしょうか?」

 仕方ないから俺から促す。佐藤さんはずっと喜怒哀楽の見えない顔をしたまま何も言わないのだ。

 なんとも落ち着かなくて沈黙を破った俺に、佐藤さんは問うてきた。

「サンタ……具合わるい?」

「え……いや別に」

 なにを言うかと思えばだ。俺が? 具合悪い? そんなばなな。

 ほんとばななだったんだけどね。

 次の日に、俺は自分の部屋のベッドで体温計をぼんやり見詰める羽目になりましたとさ。

 佐藤さんの指摘を「ないない」と一蹴した昨日の俺isバカ。てかどおりで昨日はいつもよりノリが寒かったわけだ。風邪のせい風邪のせい。

「とか、考えるあたりもうほんと頭が働いてねぇんだなぁ……」

 高熱を自覚すると途端に自分の体の調子も理解してしまう。

 俺はけっこう派手に風邪を引いたらしかった。あまり、というか俺の記憶にはないことだ。俺は俺がけっこう頑丈だと思っていたよ。

 熱はめちゃ高い、体は怠い、頭はちょい痛だけど思考の方はにぶちん。鈍い。にぶにぶ。

 ベッドを出て部屋を出て、リビングに顔を出す。

「母さん、俺ちょっと駄目かもわからん」

「何度だったのよ、熱」

「八度五分」

 それから体調の方も伝えて、腹だけ満たして俺は部屋に引っ込んだ。

 クリスマスパーティーまであと四日。


 あとゼロ日。

『よお、どうだ体調は』

「元気っすよ。ぶっちゃけもう全然元気なんですよねぇ」

 自室でゲーム(小音量)をしながらスマホはスピーカー。

『みたいだな。声が元気になってるわ』

「うっす。俺元気っす」

 俺が体調を崩してからというもの、先輩はバイトの休憩時間にたまに電話をかけてきてくれる。正直に言おう。俺が女なら惚れてたね。キュンです。

『んじゃ、明後日から復帰か?』

「そのつもりです。ありがとうございました先輩。代わりに入ってくれたり。作業も一人じゃ大変だったでしょ」

『おまえ一人いなくても余裕だっつの』

 あー惚れそ。

「っすか。それで、今日は妹さんがどうかしたんすか?」

 たまの通話に毎度毎度、先輩は妹さんの話題を相も変わらず放り込んできたのだ。今日もきっとそういう話をしたいのだろう。いくらでも付き合うぜ今の俺は。先輩is神。

『そうなんだよ聞いてくれよ。妹がな、プレゼント渡すっつうんだわ』

「……へぇ」

『なんっか、今朝なぁ、クリスマスの女子会ーっつって出掛ける時によぉ、例のアレ、野郎へのプレゼントもなんか持っていこうとすっからな』

 へぇ。だ。申し訳ないけどそれくらいしか感想がない。

『オレはっ、問い詰めたよっ! そりゃもう、嫌われるのも覚悟でっ、その紙袋はなんで持っていくんだいシスター? ってな!』

「へぇ」

『したら……したら……今日渡しに行くとか言ったんだよぉおおお! 妹が! 野郎に! プレゼント! ぁあ、うう、オレもうバイトやる気でないぃいいい』

「あー……どんまいです」

『え、そんだけ? なにまだ完治してな……すぐ行きます! わるい店長に呼ばれた。じゃな、とっとと治して元気になってバイト来いよ。こき使ってやっから!』

「りょうかいでーす」

 プツリ、と通話が切れた。で、なんだっけ? 先輩が店長でバイトが紙袋?

 俺は先輩の話なんて聞いちゃいなかった。いや、言い訳をさせて欲しい。

 まともに聞ける状況じゃなかったのだ。

「……何事?」

 スマホになんて意識を向けている場合では、なくなっていたのだ。

 先輩が妹さんのプレゼントがどうのと話をしはじめてすぐ、俺の部屋のドアが開いたのだ。

 びっくりしたのだ。

「なんで、三人とも俺の部屋に」

 いるのだ?

 佐藤さんと鈴木さんと高橋さんが俺の部屋の入り口に顔を揃えている。

 ははぁん、さてはドッキリなのだ?

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