第61話・メルキ=レグルスの懸念
「学院襲撃?」
「あぁ、貴様の意見を訊きたい」
メルキの問いに対し、悟は眉をハの字に曲げる。
一体何故、学院を束ねる立場にある彼女が、一介の生徒に過ぎない悟にそのような事を尋ねるのだろうか。
戸惑いながらも、悟は昨日の悪魔達の様子を思い出す。
一見、ただの襲撃のようにも思える。事実、学院の生徒、建物に被害は出ている。
しかし、疑念も残る。
ノウズとの会話の中でも上がって来た可能性。もしも、それが考え過ぎなどではないのだとすれば、それは
「――陽動、っすかね?あぁ、いや、確証ある訳じゃなくて……けど、琴梨先生に口酸っぱく言われてるんです。『悪魔にも知恵のある奴がいる』って。なら、もっと賢く襲う。そう、思います」
慣れない敬語を使いつつ、悟はメルキへと自身の考えを伝えた。
対するメルキは顎に手を当て、思案顔で沈黙する。
それから少し経った後、彼女が再び口を開く。
「そうか、ならばやはりそうなのだろうな」
「え?」
「儂もその可能性を考えておった。がな、学院内を見て回ったが、何か工作が行われた形跡もなければ、悪魔の気配もなかった。とはいえ、疑念も払拭出来んでいた所でな。その話も参考にさせてもらう」
「も?」
「最近、悪魔共の動きが怪しいのだぞ。しかも、学院のあるこの辺りだけ。昨日の件と全く関係ないと結論付けるには、ちと無理があると思わんか?」
「……」
メルキに送ったのは無言の肯定だ。
確かに、彼女の言う通りかもしれない。その考えには至らなかった。
持っているのが聞き齧った程度の情報しかなかったのだ。仕方がないとも言えるが。
「とはいえ、分からん点が多過ぎる。儂個人で調べておく、魔法祭も控えておるしな。貴様は安心して出場の準備を進めるのだぞ」
「あ、はい……って、何で俺が出る事知ってんすか」
「戯け、新たな魔眼の使い手が学院におるのだぞ。儂がその調査を怠ってどうする。まぁ、密かな知識欲を満たすとするならば、貴様の魔眼とも話したくはあるが。第七魔眼……いや、叡智の魔眼だったか?」
少女の好奇心に満ちた視線に、悟は悪寒を覚えた。
何故だろう、ノウズと学院長を引き合わせてしまったら、非常に面倒な事態に陥りかねない気がした。
……もしかすると、二人の思考に近しい物を感じ取ったのかもしれない。
何とかして話を逸らさなければ、と考えて気付く。
「?学院長。なら、城谷の事も」
「当然知っておる。何せ、儂が学院へ連れて来たのだからな。ハク坊に聞かんかったか。会ったのだろう?」
「……は、はは、けど、出会って早々敵対しちゃったりしちゃわなかったり………」
「ハク坊と?くははッ、貴様は会う度、何かしらのトラブルを腹に抱えておるな」
「笑い事じゃっねぇよ!何つー奴連れ込んでくれてんだアンタ!」
敬う言葉など消し飛んで、悟は叫ぶような声で言った。
「そう言ってくれるな。あやつもアレで悩んどるのだ」
「悩みって……半神半人がですか?」
「そうだ。ハク坊は、半神としてこの下界に生まれ、英雄候補として【魔術師協会】に育てられて来た。周囲がそれを望み、その中で生きて来た。……が、それはある種の呪いとなって、ハク坊を追い詰めとる。本人が無自覚なのも痛いな」
「だから学院に編入させた、と」
「ふん、流石に分かるか。ともあれ、儂は協会の小僧どもの考えが好かん。この時代に英雄が必要でないとは言わんが。しかし、いつの世も英雄の道には、往々にして耐え難い苦痛と苦難、悲劇が待ち構えておるものだ」
瞼を閉じ語るメルキが、話の途中、不意に悟へ目を向けた。
その視線に悟は気付き、きょとんとした表情で彼女の顔を見つめる。
「えっと、何すか?」
「……ふっ、いや、気にするな。分からんなら分からんでいい、杞憂で終わるかもしれん事だ。さて、しようと思っとったハク坊の話も済んだな、そろそろ行くのだぞ」
「は、はい……」
「うむ。では、ハク坊とは仲良くしてくれると助かる。それと、儂から誘っておいて何だが、貴様はもう少し女心というのを理解するべきなのだぞ。早く小娘どもの方へ言ってやれ」
そう言い残して、メルキ=レグルスは去って行った。
……その後、瞳達のもとへ戻った悟が地獄を見たのは、最早語るまでもない話だった。
文月です。ブックマーク30件、感謝ですっ。
新作の準備も進んでいます。
今回の作品は、検証的・実験的に短期間でのハイペース投稿の予定ですので、「読んでみっかなぁ」と思われている読者様は把握の程、よろしくお願いします。8万字程度ご用意しております。
それでは、引き続き本作をお楽しみいただければ幸いです!
《完了》
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