第56話・光の魔眼の【適合者】
気が付けば、城谷白の姿が悟の背後で右腕を振り被っていた。
「――ッ!?」
脳天目掛けて振り落とされた城谷の手刀。それを、当たる直前で躱す悟。
まただ。遠くにいたはずの彼が、一瞬にして手を伸ばせば届く距離に現れた。
まるで転移魔術による瞬間移動。
これが魔眼の力だというのか?
しかし、悟に考える時間は与えられなかった。
「退け」
吹き飛ばされた。魔術だ。
咄嗟に後ろへ飛び、魔力で全身を覆わせ鎧とした事で、何とか負傷は防いだ。
即座に起き上がって、体勢を立て直した悟は、城谷白の後ろ姿を視界に入れた所で気付く。
――城?
魔術によって生み出された壁が、こちらに飛来して来たのだと思った。
違った。視線の先では、城谷を中心に、魔力の輝きを帯びた城が構築されていた。
悟はあれの一部に押し飛ばされたのだ。
舌打ちしつつ、直ぐに飛び出そうと地面を踏み締める。けれど、唐突に聞こえた声に、その動きがピタリと止まる。
「なるほど、やはり光の魔眼か」
「ッ、ノウズ?」
「城谷白、彼の持つ第一魔眼の正体さ。少し様子を見てみよう。丁度君も、頭が熱くなり始めているしね」
「……………………だな。っし、ちょっと頭冷やす」
「あぁ、そうするといい」
ノウズからの助言を受け取り、悟は睨み合いを続ける城谷とバフォメットの方へ、再度意識を向けた。
一方は、黒々とした両翼を羽ばたかせ、空中を浮遊しながら、もう一方は地上に佇みながら。
両者は互いに、静かな敵意を露にしている。
が、それも一瞬のうちに束の間の静寂と化す。
空中、悪魔と【魔術師】が魔力を伴い激突する。
「フン、ソウイエバ、貴様ニハ【堕落】ガ効カヌノダッタカ。ナァ第一魔眼ノ【適合者】」
「城谷白だ、俺は。他の奴と一緒にするな」
「我ヲ祓エナケレバ、同ジ事ヨッ」
バフォメットの魔術が闇色の腕達を生み出し、城谷を襲う。
悟に仕掛けたのと同様の攻撃。いや、捕縛術と呼んだ方が正しい。
速い。しかし、そのどれもが、城谷の魔術で築いた城壁の前に散る。
追撃だとばかりに、更に迫る悪魔。
重力に引かれ落ちる彼の喉が、力を持つ言葉を声で紡いだ。
「【弓兵 放て】」
光の矢が、少年の周囲から稲妻のように放たれた。その数、十。
魔術の矢は、全て狙いを外れる事なく、バフォメットの体を力強く射抜いた。
「……アイツ、魔術の威力、全然落ちてねぇな」
「当然さ、悟。ボクの叡智はあらゆる「知」を司り、光はありとあらゆる「光」を司る。例えば栄光、光明。光その物も。だから、光の魔眼を持つ者に影は差さない。つまりは、呪いに属する魔術の一切を跳ね除ける」
「ゲームのデバフ無効キャラってか、凄まじいなオイ」
「いや、それは能力の一部だ。魔術による傷の治癒、能力強化、遠距離攻撃などの後方支援、そして起死回生の一手を担うのがあの眼の役割。……けど、彼のあの魔術」
「【城魔術】、か?第七魔眼」
後ろから歩み寄って来た声が、ノウズの背に問い掛けた。
振り向くと東条だった。
「【城魔術】。ふむ……察するに、固有魔術だろうね。観察した限り、凄まじく光の魔眼と相性の良い魔術だ。今の弓の城壁のように、城の攻撃力と堅牢さ、その他機能を魔眼の力で再現している。何が恐ろしいかって、その堅さだ。高い防御力と反撃能力、傷を負ってもすぐさま回復する。そして」
「その全部が一個の魔術だな。守りも攻めも治療も、何もかも自動だから、術発動させてるアイツ自身は魔術の維持にだけ意識向けてりゃ、あとは戦闘にここを使えるって事だ」
悟は右手の人差し指の先端で、側頭部を軽く突きながら、ノウズの言葉を引き継いで言った。
一見、隙が見当たらない。それ程に理不尽な力。
「【名無し】見てるみてぇ……」
「確かに強いね。けれど、
彼じゃあの悪魔は祓えない。
何故なら、彼は魔眼の奥義を知らないから」
やはり、叡智の魔眼を以てしても、悟と同じ結論に至るようだ。
【転生】。バフォメットが討伐され、世界から消えない原因の魔術。それがある所為だ。
そういう意味では、あの山羊の悪魔は城谷白より堅く、理不尽だ。
だから。
「ノウズ」
「あぁ、頃合いだ悟。宣言通り、その理不尽な理を捻じ曲げてやろう」
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