第51話・【魔術師】の憂鬱
元より、学院に入った後で知った【魔術師】の闇だった。
無論、これまでも、その闇に触れる機会は何度もあった。
故に思う。
「……はぁ、やってらんねぇ」
学院の屋上。悟は地べたに胡坐をかきながら、膝に肘を立て頬杖をついて呟いた。
「偶然だな、君がいると僕も落ち着いて昼食が取れない。さっさと失せろ、最弱者」
悟の呟きに、近くにいた東条陽流真がそう言葉を返した。
「断る。俺のが早くここに来て飯食ってんだ」
「チッ、一度僕を下したからって調子に乗っているだろ。魔眼持ちだろうと関係ない、ここでどっちが上か教えてやる」
「やらねぇっての。大体、油断してない【魔術師】相手にして、この前みたいに上手くいく訳あるかよ。ノウズも何か言ってやれ」
悟の声に、長い銀髪を風に靡かせながら現実世界に顕現したノウズが、ふわりと地面に着地し、東条の近くで口を開く。
「確かに、悟の言葉も一理あるだろうね。とはいえ、百聞は一見に如かずとも言うらしい。実際に試してみても構わないんじゃないかな?もっとも、本当にここでやり合うつもりが君にあればという話だが……おや、ボクの見る限り、君の中の魔力の流れは至って平常のようだ。とても戦闘態勢に入っているとは思えない」
「……」
一瞬だけ、不愉快そうな顔をした後、東条は二つ目の菓子パンに手をつけ、袋を両手で破った。
「まぁ、知っての通り、【魔術師】の勢力争いは中々に苛烈だ。鳴神家当主の判断は別に間違いじゃない。陰陽系の【魔術師】は、魔術が得意でない奴がほどんどだ」
ふと、つまらなそうに東条がそう言った。
「けど、こういう【呪符】みたいなの作るのは得意だろ?」
悟は懐から【呪符】を取り出して言葉を返す。それは、前回、【迷宮】に潜る前に徹からもらって、結局未使用のまま終わった代物だった。
「式札を扱うのは【陰陽師】の専売特許みたいなものだからな、当然の事さ。けれど、単に【呪符】に魔術を込める程度だと、そう強い効力の物までは式札が許容出来ない。結局、術師の補助か小手先の技術にしかならないんだよ、それは」
「魔術のが好きなくせに、詳しいのな」
「大した知識でもないけど、兄の影響さ」
「?へぇ、兄貴がいるのか。ちょー意外だわ」
「正確には“いた”だ。もう亡くなっている」
「……何か、悪い」
踏み込んではいけない類の話をしてしまったか。
そう思ったが、杞憂だったようだ。
「気遣いなんてやめろ、虫唾が走る」
「さいですか……」
「あぁ。それよりも、僕は魔法祭には出るなと言ったんだが?」
東条の鋭い視線が悟を睨む。
ははは……、なんて笑って話を逸らそうとするが、どうやら無駄らしい事を悟は悟った。
小さく溜息を零す。
「出ないとか誰も約束してないし、目的が出来ちまったら、そうもいかねぇっての」
「何だ?まさか、陰で連中のその賭けとやらに介入するつもりか君は?」
「あぁ」
無論それは、徹達が【決闘】に負ける確率の方が高い、と思っている事の証明になるかもしれないが。
けれど。
「他に俺が出来る事なんて、今はそれくらいしかねぇしな」
悟は魔眼・ノウズを一瞥し、握った自身の拳を見つめながら、東条へ静かに返事を返した。
魔眼の力は強力だ。力を制限される【契約者】とはいえ、単独で半神を相手にして、有利に戦局を進められるようになる程に。
その様子を横目で眺めていた東条は、両の瞼を閉じると、片手の指先でこめかみを軽く押さえた。
「第一魔眼の【適合者】はどうするつもりだ」
「だな、アイツは十中八九魔法祭で出る。けど別に、直接闘うって決まった訳じゃないだろ」
「闘う場合はどうするのか訊いたんだが、僕は」
「そりゃあ、その場合は――」
悟が言えたのはそこまでだった。
「ん?あれは……」
不意に聞こえたノウズの声。
一体どうしたのだろうか。そう尋ねる前に、しかし答えは判明した。
「ふむ、やはりそうだね。悟、悪魔が出た」
どうしよう、ものすんっごく、この作品の短編書きたくなってきた……ッ。
文月です。
新作も裏で書いてるので、作者のスペック的に短編は書けないという……残念。
さて、小さなお知らせを。
次回は遅くても今週の金曜日には投稿しようと思います。
理想は木曜日です。頑張ります。
《完了》
最後に、この作品を読んで面白かった、良かった等々……思われましたら、
☆☆☆☆☆
と、なっております所をタップかクリックし評価してやって下さると嬉しく思います。
またまたブックマーク登録、
感想も受け付けております。
いずれも作者のモチベーションとなります。




