第41話・【魔術師】達の会話
「は?」
東条の言葉に困惑する。思わず声が出る程に。
そんな悟の様子に、東条は微かに憂鬱そうな表情を浮かべ、再びその口を開いた。
「……最近、悪魔や魔物共をよく見かけるんだよ。それだけじゃない、連中が【迷宮】から溢れて来たのか、それとも現世で生まれたのかは知らないが、何故か学院付近での目撃情報が多いんだ」
「へぇ、そりゃ大変な事で」
「いいや、あくまで情報元のほとんどは東条家からのものだし、こういった現象が起こる事自体は特段珍しくもなんともない。発生件数が増えていると言っても、一が二十か三十になった程度で人手も足りていると聞く。……ただ、個人的に違和感を感じるだけさ。と言っても、明確な根拠なんて何もないけれど」
「けど魔物とか悪魔が多くなってるのは事実なんだろ?」
「まぁね、嘘だと思うなら他の【魔術師】達に訊くといい。伝手ならあるだろう」
ふむ、と悟は少し思考を巡らせる。
学院生活への復帰を明日に控える中での新情報。
情報が東条からのものだというのが少し不安だが、彼が嘘を付いているようにも見えない。
仮にその話が本当であればそれはそれで問題なのだが。
ともあれ、警戒すべき事であるのは間違いない。
「そうか、分かった。サンキューな、助かったぜ」
一応東条には礼を言っておくか、と悟は考えそう言った。
が、当の本人は、悟の言葉にすぐさま嫌悪感丸出しの声で反応した。
「はぁ?何を言ってるんだ気色悪い。おい最弱者、よく聞け。僕は最高の【魔術師】でなきゃいけない。だから僕は僕を負かした君を倒す必要がある。分かるか?それまで君には、くだらない連中にくだらない負け方をされたら困るんだよ。結局そいつも相手しなきゃならなくなるじゃないか。わざわざ面倒な助言をしてやったのもそのためだ」
「お、おぉ……」
そうして、まくし立てられる悟を置き去りに、鼻を鳴らして東条はその場を去ろうとして。
――その足が不意に止まる。
「最後にもう一つ、魔法祭には出るな。今年は第一魔眼の【適合者】が学院に編入して来ている。魔眼の【契約者】だか何だか知らないが、君がまともに相手出来るとは思えないね」
全て伝え終えると、東条は足早に店を後にした。
店内に残された悟とノウズは無言のまま、互いに目を見合わせる。
ノウズが微笑んだ。
「ふふっ。彼、意外と親切じゃないか」
「……最後の辺りの話まで聞かなきゃ俺もそう思ったよ」
「おっと、見解の相違だね。まぁいい、どちらにしろボクと契約したからといって気を抜くのは愚の骨頂だよ悟。君ならその心配はないとは思うけれど、それでも警戒していたって可能性はあるんだ」
「ん?可能性?」
「魔眼の強奪の可能性さ。昔からたまにいるんだ、【適合者】や【契約者】を狙って魔眼を奪おうとする連中が。当然、仮に君を殺しても、資格のない人間ではボク達を使うなんて芸当は出来ないけどね」
「なるほどな、そいつぁ恐ろしい話だ。バイト中に聞きたくはなかった」
ノウズとの契約で、自身の身にかけられた呪いの解呪が達成に近付き、これで悩みの種が一つ消えると思った矢先にこれだ。笑えない。
頭の痛い話に悟は、こめかみを右手の指先で軽く押さえつつ返事をした。
とはいえ、過ぎてしまった事をいつまでも引きずっていても仕方がない。
それよりも、だ。
「しっかし魔法祭に出るな、か……。俺、徹達に誘われてんだよな今年」
「聞かない言葉だが、出たければ出るといいと思うよ。どうせ【魔術師】同士で競う類の催しだろう?君はボクの【契約者】なんだ、存分に魔眼を使ってくれよ。それでないと契約の意味がない」
それに、とノウズは続ける。
「第一魔眼がどの魔眼で、【適合者】がどんな人間なのかも気になる事だしね」
なるほど、結局はそれが本音らしい。
流石、叡智を司る魔眼というべきか。
悟はそんなノウズに少しだけ呆れたのだった――。
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